雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

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騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校15

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「イヴァンて……ティルフィングを持ってるザハールの仇の男か。絵美、ルナ、敵の大将はMyth knightだ! 油断するなよ!」

「えっ! ヤバイじゃん! とか言うと思った? 相手がMyth knightだろうが変態だろうが、やる事は同じ! 無抵抗な人達にしか攻撃できない可哀相な阿呆共は、成敗あるのみ!」

天沼矛を振り回しながら、絵美はイヴァンに突っ込んでいく。

「くそっ! 可哀相な阿呆が一人増えた! 相手の能力が分かんねーのに突っ込むんじゃねぇ! 智美!」

「絵美、伏せて!」

航太の声に頷いた智美は、草薙剣をベルヘイム騎士団に向けて振る。

草薙剣の動きに呼応するように、水のドームから圧縮された水の弾がベルヘイム騎士団に向けて放たれた。

「にゃんとー!」

伏せたのか転んだのか……両手を前に出して典型的な転び方をした絵美の頭上を、圧縮されて弾丸の様に撃ち出された水の弾が通り過ぎていく。

「全騎、勇気を持って前に出ろ! 奴隷解放を謳い戦局を混乱させる偽善者揃いの聖凰騎士を、ここで排除する! 我がティルフィングに付いて来い!」

漆黒の剣……ティルフィングを突き出し、イヴァンは水の弾の中に一番に飛び込む!

水の弾に当たった騎士は弾け飛んでいくが、イヴァンの言葉で士気があがっているベルヘイム騎士団は止まる事を知らない。

「絵美、体勢を立て直せ! 敵が来る!」

立ち上がろうとした絵美の目の前に、馬に乗ったイヴァンが辿り着いた。

「まずは一人……ティルフィングの錆にしてやる。ありがたく思え!」

金髪に、白に黄金の縁取りの鎧……遠目に見たら聖騎士と呼ばれるに相応しい装いだが、絵美はその顔を見てゾッとする。

細い目に、口角が上がった唇……獲物を殺すのに、興奮を抑えられないといった表情が気持ち悪かった。

その手に握られるティルフィングが、不気味な赤い光を放つ。

「来んな! 気持ち悪い!」

絵美は背筋に冷たいモノを感じながら、天沼矛を振り回す。

振り回した天沼矛の軌道に沿って水の刃が発生し、イヴァンを強襲した。

「小賢しい! 大人しくティルフィングの力の一つになれ!」

イヴァンは水の刃をティルフィングで軽くいなすと、そのまま黒い剣を振り下ろす。

ガァキィィィ!

振り下ろされたティルフィングが、飛び込んで来た剣によって弾かれる。

「絵美、下がれ! 激流伝雷を使うぞ!」

イヴァンの懐に飛び込んだ航太は、ティルフィングを押し返しながら叫ぶ。

「激流……なんだって? なんか色々と技名考えてたけど、覚えられないって言ってるよね!」

「とりあえず、ベルヘイム騎士団の集まってるトコに水を流せ! 後はオレがやる!」

グラムに炎を纏わせて、再びティルフィングとぶつかり合う。

「くっ! 鍔迫り合いでは、こちらが不利か! ティルフィングが血を吸ってない分、力が足りん!」

「だったら下がれ! って言ってやりてーが、貴様だけは許せねーんだよ! 理由は話せないがな!」

グラムの発する炎が増し、イヴァンの腕を焼いていく。

「フードの男……そしてグラムか……ベルヘイム英雄譚に登場するMyth knightに類似しているな。しかし……所詮、貴様もベルヘイムの敵か!」

グラムから発する炎から逃れるように、イヴァンは後方に跳ぶ。

「航ちゃん、いくよ! 大地よ、水浸しになれー」

イヴァンが後方に押し返された事で、ベルヘイム騎士団の足が遅くなる。

その隙を付いて、絵美は天沼矛を大地に突き立てた……その天沼矛を中心に、足背が浸る程度の水が扇状に広がっていく。

「ナイス、絵美! 喰らえ、激流伝雷!」

大地に広がった水に、航太は電撃を纏ったグラムを突き刺す。

扇状に広がった水に、電撃が伝わっていく……

馬が……騎士が……電撃を身体に走らせて、痙攣しながら次々と倒れる。

「うーん……激流って、どこが? ただ水に電気を走らせただけのような?」

「うるせぇな! 技の名前の由来なんて深く考えんな! 格好よけりゃ、何でもいいんだよ!」

水の弾丸と激流伝雷で、ベルヘイム騎士団の大半は倒れた。

危機は去った……少し安心した表情で、絵美と航太は水のドームの中へ戻ろうと歩き出す。

「航ちゃん、上!」

智美の声に、航太は上を向く。

黒い稲妻……

航太目掛けて、上空から剣が振り下ろされる。

イヴァンが電撃で馬が倒れる前に、馬の背を蹴って大きく飛び、回転の遠心力を加えて航太に攻撃を仕掛けたのだ。

間一髪……航太は油断していたが、辛うじてグラムで、その一撃を受ける……が、イヴァンは着地と同時に大地を蹴る。

水のドームの中に侵入したイヴァンは手当たり次第、奴隷の人々に斬りかかった。

血が舞い、その血がティルフィングに吸い込まれていく。

「くそっ! ふざけんな!」

グラムに炎を纏わせて、航太はイヴァン目掛けてグラムを振る。

血を吸ったティルフィングは、黒の刀身の真ん中に燻んだ赤のルーン文字が輝き始めた。

血の力を得たティルフィングは、航太の力を宿したグラムの一撃を軽々と退け、更に炎を掻き消す。

「ん……だと?」

「ふっ……ティルフィングが本来の力を得た。生ける伝説の騎士が相手だろうが、戦える。ここからが本番だ!」

薄く笑い、細い目で航太を見るイヴァンの表情は、自信で満ち溢れていた……




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