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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校10
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「諸君、喜びたまへ! 三人とも、オレと同じカリキュラムが受けれる事になったぞ! さあ、飛び級に飛び級を重ねて、最短距離で騎士になってしまおうではないかっ!」
登校した航太は教室に入るなりザハール達を呼んで、開口一番に声高らかに宣言した。
「あの……昨日の放課後、教務員から怒鳴り声が聞こえたんですけど……あれ、航太さんの声でしたよね? 先生達と激しく口論していたような……」
「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな? その無茶苦茶なカリキュラムを受講するにあたり、何か条件出された……とかは無ぇよな?」
ジルの心配そうな眼差しと、ザハールの疑心に満ちた視線を浴びて、航太は天井を指差したままの恰好で固まる。
「……まさか、本当に条件とかあるのか? 飛び級出来なきゃ退学とか、ありきたりな展開だけは止めてくれよ?」
イングリスの鋭い目線を見て、航太の身体は固まったまま冷や汗が流れ始めた。
「って、マジかよ! 退学とか聞いてねぇぞ! だいたい、飛び級とか結構無理ある話なのに、出来なきゃ退学とかリスク高過ぎだぞ、おい!」
「ザハール君、まだ退学が決まった訳では無いだろ? 飛び級二回連続と卒業試験に合格しちまえば良いだけなんだ。余裕だろ?」
航太の言葉に、今度は三人が固まる。
「航太さん……今、卒業試験って言いました? しかも、退学ってトコ否定もしないなんて……」
「おそらく、先生に提案を拒否されて怒りに任せて条件を飲んだ……って事だろ? 全く……航太は大丈夫だろうが、私達は新入生のぺーぺーだぞ? 責任はとってくれるんだろうな?」
女性二人からの圧に耐え切れず、再び大量の冷や汗を流す航太。
「いや、だってよ……あの三人には無理だなんて言われたらよ……そりゃ、イラッてすんだろ? そんなの、やってみなけりゃ分かんねーだろって、思わず……」
「で……言ったからには、勝算はあるんだろうな? オレ達だって、一度はやると言ったんだ。リスクがあるから逃げ出す……なんて事はしねぇ! けどよ、負け戦だけはゴメンだぜ?」
ザハールの言葉に、航太は机に肘を付いて考え込む。
「まさか、本気でノープラン……なんて事はないよな? 頼むぜ、私達は未来を賭けているんだ。やるからには、必ず騎士にならなきゃいけないんだ」
「航太さん……私達は騎士養成学校に入る為に、厳しい試験を合格してきているのです。そして、養成学校を退学した者に二回目の機会は与えられない……騎士になる為に、覚悟を持って学校に来ているのです。そこだけは、忘れないで下さいね」
航太はイングリスとジル……そしてザハールの顔を見回すと、深く頷く。
「当たり前だ。他の生徒……特に綺麗に着飾っている生徒達の事は知らないが、お前達は……お前達の覚悟は知っているつもりだ。努力を続けている事も、熱意を持ち続けている事も知っている。勝算が無ければ、こんな条件……飲んでこねーよ!」
航太はそう言うと、徐にスマートフォンを取り出すと電話をかける。
「現在、電波の届かない場所にいるか電源が切れているため、通話は出来ません」
流れる無機質な電子音声……聞き覚えのある声が、航太の耳を通って脳内へ作戦失敗の報告を告げた。
「なんだ? その四角いアイテムは? それが不可能を可能にする魔法のアイテムってヤツか?」
「そうね……見た事も無いアイテムだわ……お父様ですら知らないんじゃないかしら?」
興味と期待が入り混じった視線をスマートフォンに向ける三人……そして、再びフリーズする航太。
「いや……ははは。コイツは離れている人と話が出来る最新式の魔道具なのだ! が、魔力の補充が出来ていなくて、現在は使用出来ない……てか、コッチの世界にいる間は使用不可だ……」
「あんだよ。ただの伝信器かよ……持ち運び式を使えるのは、確かに魔力が高い奴に限られるが……別に最新式って訳でもねぇだろ。で、誰と話をしたいんだよ?」
一瞬で興味を失った三人は、溜息と同時に力無く席に座る。
「いや……一瞬で興味を失われると、それはそれで悲しいと言うか……っとぉ、それで通話は出来るのか? じゃあ、あの空の上の城の中にいる奴と連絡とれるか?」
「天空城と? それは専用の伝信器じゃないと無理ね……そうか、そのアイテムは天空城と連絡がとれるのね。そうよね……ただの伝信器を支給されている筈ないか……」
ジルは再び、航太の手に握られているスマートフォンを食い入るように見つめた。
「それで、天空城に連絡して何をするつもりだ? オルフェ元帥あたりに、飛び級合格の直訴でもするつもりか?」
「それが出来りゃ楽でいいな! ……って、ちげーよ。友人に心身の回復が出来る神剣の使い手がいるから、手伝ってもらおうと思ったんだ。そうすりゃ、疲労を気にせず特訓出来るんだが……」
天空城へ入る場所や、その場所への行き方を聞いてくる航太を見て、ジルは口を開く。
「お父様に連絡がとれるか聞いてみるわ。天空城へ繋がる伝信器を持っている知り合いがいるから……」
ジルはそう言うと、腰に付いた剣の柄を見る。
アンジェル家に伝わる宝剣……ジルはその柄にそっと手を置いた……
登校した航太は教室に入るなりザハール達を呼んで、開口一番に声高らかに宣言した。
「あの……昨日の放課後、教務員から怒鳴り声が聞こえたんですけど……あれ、航太さんの声でしたよね? 先生達と激しく口論していたような……」
「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな? その無茶苦茶なカリキュラムを受講するにあたり、何か条件出された……とかは無ぇよな?」
ジルの心配そうな眼差しと、ザハールの疑心に満ちた視線を浴びて、航太は天井を指差したままの恰好で固まる。
「……まさか、本当に条件とかあるのか? 飛び級出来なきゃ退学とか、ありきたりな展開だけは止めてくれよ?」
イングリスの鋭い目線を見て、航太の身体は固まったまま冷や汗が流れ始めた。
「って、マジかよ! 退学とか聞いてねぇぞ! だいたい、飛び級とか結構無理ある話なのに、出来なきゃ退学とかリスク高過ぎだぞ、おい!」
「ザハール君、まだ退学が決まった訳では無いだろ? 飛び級二回連続と卒業試験に合格しちまえば良いだけなんだ。余裕だろ?」
航太の言葉に、今度は三人が固まる。
「航太さん……今、卒業試験って言いました? しかも、退学ってトコ否定もしないなんて……」
「おそらく、先生に提案を拒否されて怒りに任せて条件を飲んだ……って事だろ? 全く……航太は大丈夫だろうが、私達は新入生のぺーぺーだぞ? 責任はとってくれるんだろうな?」
女性二人からの圧に耐え切れず、再び大量の冷や汗を流す航太。
「いや、だってよ……あの三人には無理だなんて言われたらよ……そりゃ、イラッてすんだろ? そんなの、やってみなけりゃ分かんねーだろって、思わず……」
「で……言ったからには、勝算はあるんだろうな? オレ達だって、一度はやると言ったんだ。リスクがあるから逃げ出す……なんて事はしねぇ! けどよ、負け戦だけはゴメンだぜ?」
ザハールの言葉に、航太は机に肘を付いて考え込む。
「まさか、本気でノープラン……なんて事はないよな? 頼むぜ、私達は未来を賭けているんだ。やるからには、必ず騎士にならなきゃいけないんだ」
「航太さん……私達は騎士養成学校に入る為に、厳しい試験を合格してきているのです。そして、養成学校を退学した者に二回目の機会は与えられない……騎士になる為に、覚悟を持って学校に来ているのです。そこだけは、忘れないで下さいね」
航太はイングリスとジル……そしてザハールの顔を見回すと、深く頷く。
「当たり前だ。他の生徒……特に綺麗に着飾っている生徒達の事は知らないが、お前達は……お前達の覚悟は知っているつもりだ。努力を続けている事も、熱意を持ち続けている事も知っている。勝算が無ければ、こんな条件……飲んでこねーよ!」
航太はそう言うと、徐にスマートフォンを取り出すと電話をかける。
「現在、電波の届かない場所にいるか電源が切れているため、通話は出来ません」
流れる無機質な電子音声……聞き覚えのある声が、航太の耳を通って脳内へ作戦失敗の報告を告げた。
「なんだ? その四角いアイテムは? それが不可能を可能にする魔法のアイテムってヤツか?」
「そうね……見た事も無いアイテムだわ……お父様ですら知らないんじゃないかしら?」
興味と期待が入り混じった視線をスマートフォンに向ける三人……そして、再びフリーズする航太。
「いや……ははは。コイツは離れている人と話が出来る最新式の魔道具なのだ! が、魔力の補充が出来ていなくて、現在は使用出来ない……てか、コッチの世界にいる間は使用不可だ……」
「あんだよ。ただの伝信器かよ……持ち運び式を使えるのは、確かに魔力が高い奴に限られるが……別に最新式って訳でもねぇだろ。で、誰と話をしたいんだよ?」
一瞬で興味を失った三人は、溜息と同時に力無く席に座る。
「いや……一瞬で興味を失われると、それはそれで悲しいと言うか……っとぉ、それで通話は出来るのか? じゃあ、あの空の上の城の中にいる奴と連絡とれるか?」
「天空城と? それは専用の伝信器じゃないと無理ね……そうか、そのアイテムは天空城と連絡がとれるのね。そうよね……ただの伝信器を支給されている筈ないか……」
ジルは再び、航太の手に握られているスマートフォンを食い入るように見つめた。
「それで、天空城に連絡して何をするつもりだ? オルフェ元帥あたりに、飛び級合格の直訴でもするつもりか?」
「それが出来りゃ楽でいいな! ……って、ちげーよ。友人に心身の回復が出来る神剣の使い手がいるから、手伝ってもらおうと思ったんだ。そうすりゃ、疲労を気にせず特訓出来るんだが……」
天空城へ入る場所や、その場所への行き方を聞いてくる航太を見て、ジルは口を開く。
「お父様に連絡がとれるか聞いてみるわ。天空城へ繋がる伝信器を持っている知り合いがいるから……」
ジルはそう言うと、腰に付いた剣の柄を見る。
アンジェル家に伝わる宝剣……ジルはその柄にそっと手を置いた……
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