雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

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騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校9

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「そりゃ……大変だったな。しかもクスターって、入学前にオレに絡んで来た奴だ。過去にそんな事があったら、神剣を持ってる奴に怒りを覚えるのも止むなしか……」

「兄貴は、努力もせずに神剣の力だけで騎士になっている奴が信用出来ないのさ。イヴァンは剣の才能はあったが、努力はしてなかった。そんな奴に姉貴は殺され、兄貴は牢獄行き……分かってやってくれ」

ザハールは昔を思い出して少し疲れたのか、腕を頭の後ろで組み、壁に寄り掛かった。

「私達が聞いている話と随分違うわね……ザハールの話だと、英雄イヴァンは私利私欲の為に愛する者にも手をかけた最低の人間……って事になるわ。そんな人が、十二騎士団の有力候補なんて……」

「人間には、表と裏の顔がある……驚くような事じゃないわ。でも……許せないわね」

ジルはザハールの話が信じられないといった表情で聞いていたが、イングリスは怒りの感情の方が表に出ている。

「まぁ、イヴァンって野郎が英雄だって言われてんなら、本当の事を言っても信用してもらえなかったって事だな。ベルヘイムは、戦力になる人材が一人でも多く欲しい。違和感があろうが、不自然だろうが、ティルフィングが使えるイヴァンの主張を正しくしちまった方が良かったって事だろう……ヨトゥンから国を守らなきゃいけないなら、上としては当然の決断か……ムカつくがな!」

「そう……イヴァンもそれは分かっていたんだろう。ティルフィングを手に入れてしまえば、大胆な事をしても不問にされる……だから、チャンスだと思ったんだろうな……」

ザハールは苛立ちを拳に乗せて、壁を軽く叩く。

「イングリスは地位、ザハールは家族の名誉を守る為、騎士になりたいって事か……」

航太の呟きに、ザハールは顔を上げる。

怨み……とは言われなかった。

自分に喧嘩を売ってきた相手にも配慮して、名誉を守ると言ってくれた……兄貴の名声は、確かに地に落ちた。

英雄イヴァンの足を引っ張ったとさえ言われる事もある。

だからこそ、ザハールにとって航太の言葉は嬉しかった。

「で、ジルはなんで騎士になりたいんだ?」

「私? そうね……お二人みたいに、強い想いがある訳じゃないんですが……私の家は昔から騎士の家系なので、その流れでって感じですわ」

ふーん、と納得する航太を横目に、イングリスが軽く笑う。

「アンジェル家と言えば、超名門だ。私の家族のような奴隷の階級を使っているが、アンジェル家に勤めている奴隷は幸せだと言われる程、良くしてもらっているみたいだ。私の母も、アンジェル家に勤めたいと言ってたよ」

「奴隷……私は、その言い方は好きではありません。同じ人間、同じ身体を持っているのに、流れる血が違うだけで使われる側になるしかないなんて……」

目を伏せるジルの身体には……穏やかな佇まいとはアンバランスだと感じる程、無数の擦り傷がある。

「ジルは、名家のお嬢様か……だが、教室でオレに絡んできた奴らとは違うんだな。騎士の家系だから騎士になる……それだけじゃなく、騎士になった後の事も見つめているってトコか……皆、スゲーな」

「スゲーな……じゃ、ねーだろ! お前はベルヘイム十二騎士と、フィアナ騎士と肩を並べて戦った……オレ達が現時点で目標にしている事を終わらして来てんだろ? 感心してる場合かよ!」

馬鹿にしてるのか?

そう言わんばかりのザハールの視線に、航太は首を横に振って、その感情をいなす。

「スゲーよ、マジで。オレが戦ってきた理由なんて、ヨトゥンに襲われた街を見て、それでヨトゥン許せねぇって……それだけだった。だが皆は違う。だからこそ、もどかしさもある。それだけの想いがあって、なんでオレと同じカリキュラムをやらないんだ? 騎士への最短距離、チャレンジしてる奴が近くにいるのに、なんで乗って来ない?」

「お前……馬鹿なのか? 想いがあっても、実力が付いて来なければ騎士にはなれない。理由がどうあれ、航太にはザハールのお兄さんに勝てる実力も、近衛騎士のテューネ様とも打ち合える力もある。今の私達では、とても……」

呆れた顔をして航太を見るイングリスの視線も、航太は受け流した。

「オレは、数多くの実力者と実践形式で多くの事を学んできた。で、その経験を積んできた奴が目の前にいるんだぜ? なんで利用しようとしないんだ?」

「まさか……オレ達に稽古をつけてくれる……って言いたいのか? だが、そんな事をやってる暇なんかねーだろ? お前は、三週間で試験をパスしなきゃいけねーんだからよ」

ザハールの言葉に航太は笑うと、三人の顔を見回す。

「稽古をつける……だが、稽古もしてもらう。オレは皆からベルヘイム騎士の型を、オレは実践に身につけた技術を……一石二鳥だろ? 奴隷の身でありながら……神剣を持つ者に挑む為に……名家の出身ながら努力を惜しまぬ者……それだけの奴らが、強くならない訳がない。先の事を考えたら、こんなトコでチンタラする必要も無いだろ? どうする?」

「全く……どうかしてるわ。でも、私はやってみたい。せっかくのチャンス……チャレンジしてみたい。皆が平等に生活できる世界を創りたい……その夢の為には、立ち止まっている余裕なんてないわ」

ジルはそう言うと、決意を胸に立ち上がった。

「突拍子もねぇな……だが、確かにな。強ぇ奴が上にいくシステムなら、強くなるしかねぇ! 神剣が無くてもイヴァンに勝てるぐらいの力を持てば、オレの声が……真実が皆の心に届くかもしれねぇ! やってやるぜ!」

ザハールも、拳を手の平に叩き付けながら立ち上がる。

「ま……少しでも早く母の生活が改善されるなら、やってみてもいいかな?」

イングリスは頭を掻きながら、ゆっくりと立ち上がった。

「決まりだな! 明日、オレとカリキュラムが受けれるように掛け合ってみる。ダメっつったら、脅してでもやれるようにしてくる! とりあえず、今日から特訓だ!」
 
「特訓って、何だよ? 学習の間違いだろーが!」

心に灯が燈った四人は、外に出る。

風が吹く……

その風に後押しされるように、剣が煌めいた……
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