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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校6
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「別に、そう言う訳ではないわ。目標にするべき騎士の一人ではあると思うけど、憧れてる訳では……私は自分の地位を少しでも上げて、母を救ってあげたいのよ。自分勝手に子供を作って逃げた男は普通に生活していて、そんな気持ちの悪い男の血が混じっている子供を……その子が人間の世界の方がまだ生活しやすいからってだけの理由で、迫害されながらもベルヘイムに残ってくれた母に恩返しがしたいだけなの」
「迫害? 親父が人間って事は、母親がヨトゥンって事だよな? でも、ホワイト・ティアラ隊にいたんなら、人間の世界でも上手くやってるって事じゃねぇのか?」
航太の目を少しだけ見たイングリスは、直ぐに視線を外すと再び軽く首を横に振る。
「母はホワイト・ティアラ隊の底辺……死に行く者達の世話をしていただけなの。ヨトゥンや、私のように混血の者だけが働いていた場所。部隊の中でも、嫌われてた筈よ。一真さんだけは、たまに顔を出してくれてたみたいだけど、上の人達は近寄りもしない場所……」
イングリスの言葉に、航太は遠征軍の中で一真の事を悪く言う人が多かった事を思い出す。
「一真も、今のオレと同じだったのかもな……遠征軍の中で、オレはそんな部隊の存在すら知らなかった。目を向けれていなかった。今は少しだけ、視野を広げられている気はするが……」
「そりゃ、仕方ねぇだろ。神剣を使いこなす者は、それだけで上位騎士と同じ扱いになる。そんな奴が、底辺の奴らを見ようとする訳ねぇよ。今気付けてるって事は、マシな方だと思うぜ」
部屋に付いた唯一の小さな窓から外を見ながら、ザハールは航太に向けて言葉を発した。
「なんだ? ザハールは、過去に神剣を使う奴と何かあったのか?」
「そうだな……何かあった。少なくとも、トラウマになるような出来事はあったな。ティルフィング……知ってんだろ?」
ザハールの問いに、剣や魔法に疎い航太は目をパチパチさせる。
「えーっと……そりゃ、子供でも知ってる様な類の話でしょうか?」
「ふふふっ。航太さん……子供は知らないかもしれないですけど、ベルヘイム騎士を目指す方なら知っていておかしくない話ですよ」
知らねぇのかよ……と、呆れた顔をするザハールとハテナマークを頭から出しまくってる航太を交互に見て、ジルはクスッと笑う。
「死と生の洞窟の中に眠っていた神剣で、消えない炎に守られていたのです。でも……3年前に私達と同じ学生が、その神剣を手に入れた。その神剣の名が、ティルフィング……」
「そりゃ……なる程な。その学生は神剣と共に騎士になり、神剣を持ってない自分達は騎士にもなれないハナクソ的な劣等感に襲われて、そのトラウマから神剣を持ってる騎士に嫉み僻みを言ってんのか……サイテーだな!」
「てめぇがな! そんな上から目線で、神剣を使ってんじゃねぇ! 嫉んでも僻んでもねぇんだよ! 自分がハナクソ以下だって自覚しやがれ!」
言葉を被せられたうえに、強烈なツッコミを受けて航太の時間が止まる。
「ふふっ。息、ピッタリですね。昔からの親友みたい。確かティルフィングを持ってる騎士は、ザハールのお兄さんと同い年だったかしら?」
「そうだ。航太がボケやがるから、本題を忘れるトコだったぜ。てゆーか、その消えない炎が消える瞬間も、ティルフィングを手に入れた瞬間も、この目に焼き付いてやがる……兄貴と姉貴と……その現場にいたからな」
ザハールは持っているグラスを傾け中の液体を喉の奥へ流し込み、そして怒りと悲しみが入り混ざった表情を浮かべた。
「なんだよ……ザハールの兄貴か姉貴が、そのティルフィングの持ち主って訳か? 身内が神剣持ちじゃ、比較されて大変……で、性格が捩じ曲がった……って話でいいか?」
「良かねぇよ! いい加減、突っ込むのも疲れてきたぜ! 気軽に人に話せる訳じゃねぇんだが……少し長くなるが、聞いてやってくれ。ティルフィングと……オレ達の兄弟に何があったのかをな……」
低くなったザハールの声のトーンに、イングリスもジルも……そして航太も、真剣な面持ちで話を聞き始めるのだった……
~ティルフィングの物語~
炎に護られたその剣は、かつて6人の勇士の命を奪った。
その剣を持ちし者は、その力により殺される……
力を制御する為には、血が必要だ……
その剣が求める血の量を与える事で、最強の力が宿る。
殺す事で……血を吸う事で、力を増す剣……
しかし、血が足りなくなると……持ち主が戦いを放棄すると、その力は持ち主に還ってくる。
主の血を吸い、鞘に戻るのだ。
その剣を見つけた7国の騎士達は、その呪いを浄化する為に、消えない炎の中に封印する。
真の主が現れるその時までに、剣に宿る呪いを燃やし尽くす為……
その剣が浄化され真の持ち主が現れた時、消えない炎は消え、最強の剣を持つベルヘイムの護り手が誕生するだろう……
~ベルヘイム伝承記より~
「迫害? 親父が人間って事は、母親がヨトゥンって事だよな? でも、ホワイト・ティアラ隊にいたんなら、人間の世界でも上手くやってるって事じゃねぇのか?」
航太の目を少しだけ見たイングリスは、直ぐに視線を外すと再び軽く首を横に振る。
「母はホワイト・ティアラ隊の底辺……死に行く者達の世話をしていただけなの。ヨトゥンや、私のように混血の者だけが働いていた場所。部隊の中でも、嫌われてた筈よ。一真さんだけは、たまに顔を出してくれてたみたいだけど、上の人達は近寄りもしない場所……」
イングリスの言葉に、航太は遠征軍の中で一真の事を悪く言う人が多かった事を思い出す。
「一真も、今のオレと同じだったのかもな……遠征軍の中で、オレはそんな部隊の存在すら知らなかった。目を向けれていなかった。今は少しだけ、視野を広げられている気はするが……」
「そりゃ、仕方ねぇだろ。神剣を使いこなす者は、それだけで上位騎士と同じ扱いになる。そんな奴が、底辺の奴らを見ようとする訳ねぇよ。今気付けてるって事は、マシな方だと思うぜ」
部屋に付いた唯一の小さな窓から外を見ながら、ザハールは航太に向けて言葉を発した。
「なんだ? ザハールは、過去に神剣を使う奴と何かあったのか?」
「そうだな……何かあった。少なくとも、トラウマになるような出来事はあったな。ティルフィング……知ってんだろ?」
ザハールの問いに、剣や魔法に疎い航太は目をパチパチさせる。
「えーっと……そりゃ、子供でも知ってる様な類の話でしょうか?」
「ふふふっ。航太さん……子供は知らないかもしれないですけど、ベルヘイム騎士を目指す方なら知っていておかしくない話ですよ」
知らねぇのかよ……と、呆れた顔をするザハールとハテナマークを頭から出しまくってる航太を交互に見て、ジルはクスッと笑う。
「死と生の洞窟の中に眠っていた神剣で、消えない炎に守られていたのです。でも……3年前に私達と同じ学生が、その神剣を手に入れた。その神剣の名が、ティルフィング……」
「そりゃ……なる程な。その学生は神剣と共に騎士になり、神剣を持ってない自分達は騎士にもなれないハナクソ的な劣等感に襲われて、そのトラウマから神剣を持ってる騎士に嫉み僻みを言ってんのか……サイテーだな!」
「てめぇがな! そんな上から目線で、神剣を使ってんじゃねぇ! 嫉んでも僻んでもねぇんだよ! 自分がハナクソ以下だって自覚しやがれ!」
言葉を被せられたうえに、強烈なツッコミを受けて航太の時間が止まる。
「ふふっ。息、ピッタリですね。昔からの親友みたい。確かティルフィングを持ってる騎士は、ザハールのお兄さんと同い年だったかしら?」
「そうだ。航太がボケやがるから、本題を忘れるトコだったぜ。てゆーか、その消えない炎が消える瞬間も、ティルフィングを手に入れた瞬間も、この目に焼き付いてやがる……兄貴と姉貴と……その現場にいたからな」
ザハールは持っているグラスを傾け中の液体を喉の奥へ流し込み、そして怒りと悲しみが入り混ざった表情を浮かべた。
「なんだよ……ザハールの兄貴か姉貴が、そのティルフィングの持ち主って訳か? 身内が神剣持ちじゃ、比較されて大変……で、性格が捩じ曲がった……って話でいいか?」
「良かねぇよ! いい加減、突っ込むのも疲れてきたぜ! 気軽に人に話せる訳じゃねぇんだが……少し長くなるが、聞いてやってくれ。ティルフィングと……オレ達の兄弟に何があったのかをな……」
低くなったザハールの声のトーンに、イングリスもジルも……そして航太も、真剣な面持ちで話を聞き始めるのだった……
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しかし、血が足りなくなると……持ち主が戦いを放棄すると、その力は持ち主に還ってくる。
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その剣を見つけた7国の騎士達は、その呪いを浄化する為に、消えない炎の中に封印する。
真の主が現れるその時までに、剣に宿る呪いを燃やし尽くす為……
その剣が浄化され真の持ち主が現れた時、消えない炎は消え、最強の剣を持つベルヘイムの護り手が誕生するだろう……
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