18 / 64
騎士への道
聖凰騎士団2
しおりを挟む「もう少しで森を抜けます! 急ぎましょう!」
「ちょっち、メルフィさん! 速過ぎるぜ! コッチは森の中を走り慣れていないんだ!」
たいして息も切らしていないメルフィは、遥か後方から聞こえる航太の大声に足を止めて振り返る。
「うりゃー、2番手確保! 航太、随分とだらしねぇな!」
「はぁはぁはぁ……別に、競っちゃいねーよ! けどよ、このペースで走ってたら戦う余力は残んねーぞ!」
立ち止まったメルフィの横まで全速力で駆け抜けて来たガラードから数十秒遅れて、航太が追いつく。
「に……しても、後続が全く見えねぇな。ちよっと、飛ばし過ぎたか?」
「ごめんなさい、私が急ぎ過ぎたわ……気持ちが焦っちゃって……少し戻りましょうか?」
太陽が昇り始めた森の中は、木漏れ日があるものの、木々が太陽の光りを遮っている為まだ薄暗い。
後方を確認するガラードとメルフィは、その薄暗い森の中に目を凝らす。
「音も聞こえねぇな……美羽のペースに合わせて走ってんのかもしれねぇ。だとしたら、かなり離れちまったかも……」
メルフィ同様、航太も焦っていた。
始めて異世界に辿り着いて、ゼーク達と最初の戦地に赴いた時……航太はガイエンの部隊によって滅ぼされた町を思い出していた。
生臭い血の臭いと、惨殺された人々の姿……
もう二度と見たくない……
そして今の自分には、殺戮を止める力もある。
後悔だけはしたくない……そんな思いが、航太を焦らせていた。
引き返すか、先に進むか……迷っていると、ガラードが町の方を見て口を開く。
「進んだ方が良さそうだぜ……既に火の手が上がってやがる! 後ろも心配だが、智美に絵美……それにフィアナ騎士のアーレイさんもいる。何かあっても切り抜けられんだろ! それより……」
「だな……行こうメルフィさん! 侵略を止めねぇと……」
頷いたメルフィが町に向かって走ろうとした瞬間、突然足元に金色に光る魔法陣が浮かび上がる。
「なんだ?」
「召喚魔法陣だ! 離れろ! 召喚に巻き込まれるぞ!」
ガラードの叫び声に、航太とメルフィは魔法陣の外に飛び出た。
その直後、魔法陣から円柱状の光が伸び、その光が無数の小さな球状の光となって四散すると、一つ目の巨人が現れる。
「なる程ね……こうやって、一つ目の巨人を召喚してやがんのか! だとしたら、魔法使いか召喚師が近くにいる筈だ! そいつを叩いちまえば、この戦いは終わる!」
「よく知ってんな航太! 流石は元ベルヘイム遠征軍の生き残りだぜ! 確かに、先に召喚出来る奴を潰さないと、戦いは終わらねぇ! これはチャンスだぜ!」
航太とガラードは、現れた一つ目の巨人を牽制しながら、周囲を警戒した。
「航太さん、ガラードさん! アーレイ達と合流しましょう! 団長達が召喚師を抑えられていない……そして、町からは火の手が上がっている……危険だわ!」
「危険? むしろチャンスだろ! 一つ目の巨人の増殖を抑えて、町にいる一つ目の巨人を一掃する。それで終わりだ!」
メルフィの言葉に何かに気付いたガラードと、その言葉を無視してエアの剣を構える航太。
戦闘体制に入る航太を止める為、ガラードは航太の肩に手を乗せる。
「航太、さっき話をしたよな? ベルヘイム遠征軍の隊長を務めたアルパスターより強い奴が出張ってんのに、召喚は止められていない。そして、町からは火の手が上がってやがる! 冷静になれ!」
「……だったら、やはりオレ達が召喚している奴を止める! それで、戦局が変わる筈だ!」
航太はエアの剣に力を流し込み、高速の鎌鼬を発生させた。
横に払われたエアの剣から発生した鎌鼬は、一つ目の巨人の首を捉える。
が……一つ目の巨人は無傷だ。
「ちっ! 力み過ぎたか? 次で決めてやる!」
「違う! 力を無効化された! 航太、もう一度言うぞ! 冷静になれ! ニミュエや智美達も、危険に晒されている可能性がある! 合流が最優先だ!」
ガラードは航太の襟を無理矢理掴むと、力尽くで後方に押し出す。
「航太さん、自分達や仲間を守れて、始めて他の人達も守れるのです! とにかく、アーレイ達と合流しましょう! 神剣の力を無効化する程の力の持ち主が近くにいるのです。そして、それだけ強力な敵の相手が出来ていない……団長達も余力が無いって事です!」
「って事だ! 一つ目の巨人を召喚している召喚師は、フィン・マックールやディルムッドの相手をしなくても、悠々と召喚出来る環境にあるって事だ! かなりヤバイぞ!」
一つの町が滅びようとしている……その状況を目の前にても、助けに行けない……
その歯痒さに苛まれながらも、確かに智美や絵美達の事も気になった。
頭が混乱しながらも、航太は一つ目の巨人を背にして走り出す。
そんな航太達の動きに興味なさそうに、一つ目の巨人は町に向けて足を踏み出していた……
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。
window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。
式の大事な場面で何が起こったのか?
二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。
王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。
「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」
幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる