雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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ロンスヴォの戦い

戦いの後

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「うわぁぁぁぁ!!」 

腕を縛られているガヌロンは、裂けていく大地から間一髪逃れた。

転がりながら、ロキとビューレイストの方へ向かっていく。

テューネの放った一撃は、尽くロンスヴォの大地を裂いた。

その亀裂は、オルフェやテューネのいるベルヘイム側と、ロキやビューレイストのいるヨトゥン側とに綺麗に割ける。

「デュランダルの第3形態でも、この程度か…………皇の目を発動していないから分からんが…………レンヴァル村の大地を吹き飛ばせる程の力は無いかもな…………」

テューネの一撃は、ロンスヴォの大地を裂いた。

この程度…………と言われるような、弱い一撃ではない。

しかし、ロキもビューレイストも、やや不満な表情を浮かべている。

「やはり…………デュランダルの持ち主をテューネにする為に、ランカストを殺す為の私の策に乗っかったな!!」

ロキとビューレイストの言葉と表情を見て、ガヌロンは叫んだ。

「で??もし、そうだとして、貴様は我々に何をして欲しいんだ??そもそも、この状況…………ここで全員を殺して、ベルヘイム遠征軍をクロウ・クルワッハの部隊と挟撃すれば、貴様達の全滅は免れない。有利なのはコチラなのだが??」

そう……………

たとえガヌロンが言っている事が正しくても、現状で有利なのはロキの方だ。

まだ、ガヌロンの言っている事に証拠があり、大義名分でもあれば命を投げうってでも、戦ってもいいのかもしれない。

しかし、その証拠は何も無い…………

ビューレイストの言うとおり、ロキ側に有利な状況であるにも関わらず、ガヌロンの身柄を引き渡し、自軍に戻る事を許してくれている。

オルフェは、ロキとガヌロンは結託していた……………若しくは、ガヌロンの計画を見抜いて利用していたと考えていた。

ただ、そう思っていても、現状ではロキの提案に乗るしかない…………そして、その提案事態が自らの無実を証明するような提案でもある。

実際に現場にいない総大将であるアルパスターや国王陛下では、ガヌロンよりロキを信じてしまうだろう。

「ロキ殿…………ガヌロンとランカストの身柄は、ベルヘイム軍に持ち帰りたい。そして、我々全員がヨトゥン領外に出るまで危害を加えないと約束してほしい」

オルフェの提案に、ロキは頷く。

「今回の一件は、何が本当なのか…………判断は難しいが、その要求を飲む事で信用してもらうしかない。それと、ガヌロンと条約を結んだ件…………ベルヘイム軍を後ろから攻撃しないというのは、まだ生きていると思ってくれ」

ロキの言葉に、オルフェは素直に感謝した。

今のベルヘイム軍の目標は、姫を奪還する事…………ロキの部隊は、当面の敵ではない。

「では、ガヌロンをそちらに投げるぞ。受け取れ!!」

ビューレイストはガヌロンの襟首を掴むと、勢いよく投げつけた。

「ぐはぁ!!」

ガヌロンの身体は、ロキ軍とベルヘイム軍を分けている裂け目を通り越し、地面に叩きつけられる。
 
「くそっ!!ロキの奴めっ!!おい、オルフェ、奴が関わっていたのは分かるだろ!!私は騙されていただけだ!!直ぐに部隊を率いて、ロキと一戦交えるぞ!!」

「ガヌロン……………ロキの事は置いといても、少なくとも貴様はランカスト殺しの首謀者だ。その罪は償わせるぞ!!」

オルフェは、ガヌロンを睨んだ。

その傍らで、テューネがデュランダルを構える。

今にもガヌロンに斬りかかりそうな勢いだ。

「テューネ、気持ちは分かるわ…………でも、今はやめなさい。アルパスター将軍が、うまく裁いてくれるわ」

そんなテューネに、ゼークが優しく声をかける。

「分かってる…………ソフィーア様も言ってた…………ガヌロンを操ってる黒幕がいる…………それがロキかどうか分からないけど…………その黒幕だけは許さない。だけど今は……………」

そう言うと、テューネはデュランダルを鞘に戻した。

そこに、智美が亀裂を超えてゼークの近くに寄って来る。

「智美!!良かった!!無事だった……………ロキに変な事されてないよね??」

「大丈夫だよー。ロキさんは紳士だったし、凄く良くしてもらっちゃった。でも、私が捕虜になったせいで、なんだか大変な事になっちゃったね…………」

智美は、倒れているランカストと、縛られているガヌロンに視線を移しながら、複雑な表情を浮かべた。

「そんな…………智美のせいじゃないよ。ガヌロンはランカストを恨んでいた…………遅かれ早かれ、起こっていた事かもしれない。止めれなかった私達の力不足だよ…………」

そう言って肩を落とすゼークの言葉に、オルフェが頷く。

「そうだな…………俺達の力不足だ。ガヌロンの策を事前に気付いてれば、今回の事は食い止められていたかもしれない。だから…………もっと強くならないとな…………」

その言葉の重みに、ゼークと智美は気が引き締まった………
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