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ロキの妙計
托されるデュランダル
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「ランカストと言ったな……………この度のユトムンダス撃破、そして、7国の騎士の末裔であるテューネ・ノアの救出…………見習い騎士の身でありながら、見事な働きだった。更には、神剣デュランダルをヨトゥンから奪い返し、その力でレンヴァル村を救った。褒美を与えたいんだが…………」
ランカストは、ベルヘイム王の前で膝をついていた。
王に謁見するだけでも名誉な事なのに、その王から労いの言葉をかけられている。
普段なら飛び上がって喜べるこの状況も、恋人であるソフィーアを目の前で失ったランカストには、心から喜べなかった。
王の前で礼をしながら…………しかし、後悔から唇を強く噛み締めるランカストの姿は、何も出来なかったベルヘイム正騎士であるオルフェには眩しく見える。
「いえ…………自分は………1番守りたかった人を………守れませんでした。大切な人を守れないなんて…………騎士どころか、見習いすら失格です。それに、自分はデュランダルに認められた訳では無いんです。この剣は王に…………ベルヘイムの為に使って下さい…………」
ランカストはデュランダルを床に置くと、再び深々と礼をした。
デュランダルに鞘は無い。
抜き身の剣を王の御前まで持ってきた…………多くの家臣が止めたが、自分の周りをベルヘイム騎士で囲ませる事で、王自身が許した。
「デュランダルに認められていない??君は充分に認められているだろう??君とガヌロンの娘が、レンヴァル村とノアの末裔を救おうとした時に、デュランダルは力を発揮したんだ。君が守りたかった人が、君とノアの末裔を助ける為に蘇らせた剣…………君以外に誰が使うと言うんだ??」
ベルヘイム王はそう言うと、デュランダルの柄に手をかける。
「む……………お…………」
ベルヘイム王がデュランダルを持ち上げると、その重みが腕にかかり、片腕でも支えきれない。
ベルヘイム王は、王とは言え神剣ジュワユーズを使い、戦場に立つ程の武人だ。
その屈強な王ですら、デュランダルは持ち上げるのも困難である。
「デュランダルは、まだ全てを取り戻していないのだろう。ならばランカスト!!デュランダルに真の力を取り戻させ、デュランダルと共にベルヘイムの剣となれ!!この質量のデュランダルを軽々扱えるのであれば、それはデュランダルに認められている証拠だ」
ベルヘイム王はそう言うと、黄金に宝石が散りばめられた鞘を取り出した。
「この鞘と共に、我々ベルヘイムの力となってくれ。君の恋人も、それを望んでいる筈だ」
黄金の鞘に納めたデュランダルを、ベルヘイム王はランカストの目の前に差し出す。
「しかし…………自分は見習い騎士です。デュランダルに相応しい騎士でもありません。ベルヘイムには、素晴らしい騎士様達が沢山おります。その騎士様の誰かに…………」
差し出されたデュランダルに手を伸ばせず、ランカストは頭を下げたまま動こうとしない。
「ベルヘイム王!!そのような輩に、デュランダルを渡しては駄目ですぞ!!私の娘も救えないような奴に………神剣を托すなど、あってはならない!!」
謁見の間にいたガヌロンが、突然口を開いた。
それまで我慢していた思いが、溢れてくる。
「ガヌロン。娘を失った貴公の気持ちは分かる。だが、ランカストが悪い訳ではあるまい??ヨトゥンの将と一騎打ちをして、勝てるベルヘイム騎士が何人いる??ユトムンダスに、何人のベルヘイム騎士が倒されたか……………それを考えれば、彼がどれだけの殊勲を上げたか分かるだろう??」
ベルヘイム王は、拳を握りしめ唇を噛み締めるガヌロンを制して、再びランカストの前にデュランダルを差し出す。
「確かに、神剣であり聖剣と謡われるデュランダルを駆る騎士が、見習いでは格好がつかんな。1つ空席になっているベルヘイム12騎士の1人に任命しよう。私の片腕として、その力を貸してくれ!!」
その王の言葉に、ランカストの瞳から自然と涙が溢れる。
何故だかは分からない………ただ、ソフィーアは自分が12騎士になるまで背中を押し続けると言ってくれていた………そして、ソフィーアの血がデュランダルに取り込まれ、自分の力になってくれた…………
まるで、ソフィーアに12騎士になって、ベルヘイムを…………悲しむ人々をヨトゥンから救ってくれと言われている気がする。
ランカストの腕は自然と伸び、デュランダルを受け取っていた。
その姿に、ベルヘイム騎士から喚声が上がる。
祝福だけではなく、異例の大抜擢に、妬みの声も数多くあった。
ランカストは分かっていたが、ソフィーアから愛を受け取っていた男として、ソフィーアの想いに…………その気持ちに恥じない騎士になると心に誓う。
(今は…………今は、名前だけの騎士だ。ソフィーアの望んだ騎士の姿とは、程遠いだろう………でも、いつの日か…………あの騎士は私の彼氏だったって…………天国でも自慢出来るくらいの聖騎士になってみせる!!空の上から…………見守っていてくれ…………)
ランカストは、黄金の鞘とデュランダルに誓いを立てる。
「ランカストは12騎士として、テューネは近衛騎士となれるよう、我が城中で訓練に励んでくれ。それとガヌロン…………兵の消耗を避けようとした事は理解出来るが、民は大切だ。民衆の心を掴まなければ、国が崩壊してしまう。その辺りも考えながら、今後も戦略を練ってくれ」
ガヌロンには、王の気持ちが理解出来た。
レンヴァル村の人間は、ガヌロンが指揮するベルヘイム騎士の動きを見ていたに違いない。
ランカストを英雄にする事で、その事実を隠そうとしている。
娘を失った、ガヌロンへの配慮だったのだろう…………
(ソフィー…………すまん………すぐには、恨みは晴らせそうにない。今は王の配慮に敬意を表さねばならん。だが…………ソフィーの命を出世の為に利用した男………必ず、私が引導を渡してやる。待っていてくれ…………)
その後、何度もランカストから謝罪されたが、ガヌロンは聞く耳を持たなかった。
軍師と騎士…………作戦に支障の出ない適度な距離を保ちつつ、ガヌロンはランカストを討つ機会を伺う。
目が覚めたガヌロンは、重い腰を持ち上げた。
「ソフィー………私達の悲願が、もう少しで叶う。待っていてくれ…………」
ガヌロンは自分のすべき事を再認識し、再び馬を走らせる。
ロキの待つロンスヴォに向けて………
ランカストは、ベルヘイム王の前で膝をついていた。
王に謁見するだけでも名誉な事なのに、その王から労いの言葉をかけられている。
普段なら飛び上がって喜べるこの状況も、恋人であるソフィーアを目の前で失ったランカストには、心から喜べなかった。
王の前で礼をしながら…………しかし、後悔から唇を強く噛み締めるランカストの姿は、何も出来なかったベルヘイム正騎士であるオルフェには眩しく見える。
「いえ…………自分は………1番守りたかった人を………守れませんでした。大切な人を守れないなんて…………騎士どころか、見習いすら失格です。それに、自分はデュランダルに認められた訳では無いんです。この剣は王に…………ベルヘイムの為に使って下さい…………」
ランカストはデュランダルを床に置くと、再び深々と礼をした。
デュランダルに鞘は無い。
抜き身の剣を王の御前まで持ってきた…………多くの家臣が止めたが、自分の周りをベルヘイム騎士で囲ませる事で、王自身が許した。
「デュランダルに認められていない??君は充分に認められているだろう??君とガヌロンの娘が、レンヴァル村とノアの末裔を救おうとした時に、デュランダルは力を発揮したんだ。君が守りたかった人が、君とノアの末裔を助ける為に蘇らせた剣…………君以外に誰が使うと言うんだ??」
ベルヘイム王はそう言うと、デュランダルの柄に手をかける。
「む……………お…………」
ベルヘイム王がデュランダルを持ち上げると、その重みが腕にかかり、片腕でも支えきれない。
ベルヘイム王は、王とは言え神剣ジュワユーズを使い、戦場に立つ程の武人だ。
その屈強な王ですら、デュランダルは持ち上げるのも困難である。
「デュランダルは、まだ全てを取り戻していないのだろう。ならばランカスト!!デュランダルに真の力を取り戻させ、デュランダルと共にベルヘイムの剣となれ!!この質量のデュランダルを軽々扱えるのであれば、それはデュランダルに認められている証拠だ」
ベルヘイム王はそう言うと、黄金に宝石が散りばめられた鞘を取り出した。
「この鞘と共に、我々ベルヘイムの力となってくれ。君の恋人も、それを望んでいる筈だ」
黄金の鞘に納めたデュランダルを、ベルヘイム王はランカストの目の前に差し出す。
「しかし…………自分は見習い騎士です。デュランダルに相応しい騎士でもありません。ベルヘイムには、素晴らしい騎士様達が沢山おります。その騎士様の誰かに…………」
差し出されたデュランダルに手を伸ばせず、ランカストは頭を下げたまま動こうとしない。
「ベルヘイム王!!そのような輩に、デュランダルを渡しては駄目ですぞ!!私の娘も救えないような奴に………神剣を托すなど、あってはならない!!」
謁見の間にいたガヌロンが、突然口を開いた。
それまで我慢していた思いが、溢れてくる。
「ガヌロン。娘を失った貴公の気持ちは分かる。だが、ランカストが悪い訳ではあるまい??ヨトゥンの将と一騎打ちをして、勝てるベルヘイム騎士が何人いる??ユトムンダスに、何人のベルヘイム騎士が倒されたか……………それを考えれば、彼がどれだけの殊勲を上げたか分かるだろう??」
ベルヘイム王は、拳を握りしめ唇を噛み締めるガヌロンを制して、再びランカストの前にデュランダルを差し出す。
「確かに、神剣であり聖剣と謡われるデュランダルを駆る騎士が、見習いでは格好がつかんな。1つ空席になっているベルヘイム12騎士の1人に任命しよう。私の片腕として、その力を貸してくれ!!」
その王の言葉に、ランカストの瞳から自然と涙が溢れる。
何故だかは分からない………ただ、ソフィーアは自分が12騎士になるまで背中を押し続けると言ってくれていた………そして、ソフィーアの血がデュランダルに取り込まれ、自分の力になってくれた…………
まるで、ソフィーアに12騎士になって、ベルヘイムを…………悲しむ人々をヨトゥンから救ってくれと言われている気がする。
ランカストの腕は自然と伸び、デュランダルを受け取っていた。
その姿に、ベルヘイム騎士から喚声が上がる。
祝福だけではなく、異例の大抜擢に、妬みの声も数多くあった。
ランカストは分かっていたが、ソフィーアから愛を受け取っていた男として、ソフィーアの想いに…………その気持ちに恥じない騎士になると心に誓う。
(今は…………今は、名前だけの騎士だ。ソフィーアの望んだ騎士の姿とは、程遠いだろう………でも、いつの日か…………あの騎士は私の彼氏だったって…………天国でも自慢出来るくらいの聖騎士になってみせる!!空の上から…………見守っていてくれ…………)
ランカストは、黄金の鞘とデュランダルに誓いを立てる。
「ランカストは12騎士として、テューネは近衛騎士となれるよう、我が城中で訓練に励んでくれ。それとガヌロン…………兵の消耗を避けようとした事は理解出来るが、民は大切だ。民衆の心を掴まなければ、国が崩壊してしまう。その辺りも考えながら、今後も戦略を練ってくれ」
ガヌロンには、王の気持ちが理解出来た。
レンヴァル村の人間は、ガヌロンが指揮するベルヘイム騎士の動きを見ていたに違いない。
ランカストを英雄にする事で、その事実を隠そうとしている。
娘を失った、ガヌロンへの配慮だったのだろう…………
(ソフィー…………すまん………すぐには、恨みは晴らせそうにない。今は王の配慮に敬意を表さねばならん。だが…………ソフィーの命を出世の為に利用した男………必ず、私が引導を渡してやる。待っていてくれ…………)
その後、何度もランカストから謝罪されたが、ガヌロンは聞く耳を持たなかった。
軍師と騎士…………作戦に支障の出ない適度な距離を保ちつつ、ガヌロンはランカストを討つ機会を伺う。
目が覚めたガヌロンは、重い腰を持ち上げた。
「ソフィー………私達の悲願が、もう少しで叶う。待っていてくれ…………」
ガヌロンは自分のすべき事を再認識し、再び馬を走らせる。
ロキの待つロンスヴォに向けて………
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