雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

文字の大きさ
上 下
82 / 222
ロキの妙計

ソフィーアとの記憶

しおりを挟む
ガヌロンはロキ軍の本拠地に向けて、険しい山道を馬を走らせていた。

お供の者はなく、唯一人で馬を走らせて行く。

(ふぅ…………私は武闘派の人間ではないから、こういうのは辛いな………)

そう言いながらも、ガヌロンはその足取りを速める。

少し小高い丘に出ると、そこからはレンヴァル村が一望出来た。

ガヌロンは思わず馬の足を止めさせると、そこから見えるレンヴァル村の風景を見つめる。

その表情は、先程まで見えていた怒りや恨みではなく、悲しみの混じったものに変わっていた。

「ソフィー…………お前の恨みを晴らすまで、もう少しだ…………いや、お前は恨んでないかもしれんな…………私個人の復讐だが…………それでも、私に力を借してくれ…………」

そう小声で呟くと、急いでいたのが嘘のように、ガヌロンはゆっくりと
馬から下り、手頃な石に座る。

座った場所からも、レンヴァル村が良く見えた。

「あの悲劇の前日も、こうして座って、お前と村を眺めたな………まるで昨日の事のように思い出せるよ…………」

ガヌロンは瞳を閉じると、瞼の裏に過去の映像が投影されていく。

「お父さん!!今日は大事な話があるの!!」

綺麗な黒髪に愛らしい顔立ち………自分に似なくて良かったとガヌロンは心の底から思いながら、愛娘のソフィーアを眺めた。

今日は天気が良く、散歩するには最高の日だ。

愛娘が付き合ってくれているのだから、尚更である。

「ねぇ…………お父さん…………私に好きな人が出来たっ言ったら……………どうする??」

「なんだ??お前も、もう好きだ嫌いだと言う歳になったか…………相手がヨトゥンじゃなければ問題ないよ。ベルヘイムの為に尽くせる男なら、尚良しだがな」

太陽のような眩しい笑顔を見て、内心は嫉妬のような黒い感情が渦巻いていたが、それを顔には出せなかった。

妻はソフィーアが幼い頃に亡くなり、男手で育てた娘…………可愛くない訳がない。

だから、他の男に持っていかれるのは面白くないが、ソフィーアに嫌われるのは、もっと堪え難かった。

「もちろん、ベルヘイムの為に尽くせる人だよ。彼は将来、ベルヘイム12騎士にも名前を連ねるはずの騎士……………見習い…………だけど…………」

最後の言葉は、もはやガヌロンの耳に届かないレベルの声になっていたが、言っている事は理解出来る。

「ソフィー………騎士見習いレベルに、12騎士は期待し過ぎだろう?栄光のベルヘイム騎士団に入るだけでも凄い事なのに、その中の上位騎士のみに資格がある狭き門だ。更に言えば、近衛騎士の指南役も兼任するから、気品と忠誠心も備わっていなければならない。なかなか難しいぞ」

馬鹿にするように笑いながら話すガヌロンに、ソフィーアは頬を膨らます。

「そんなの知ってるよ!!でも、ランカストは絶対に12騎士まで駆け上がれる資質を持ってるの!!それに、最近12騎士も1人抜けたでしょ??」

「銀狼ファルミアか…………確かに、自ら近衛の隊長に志願し12騎士を抜けたが………その穴埋めが見習いの男では、釣り合わないなぁ………ベルヘイムの守り神とまで言われた男だぞ。それに、その娘さんも幼いながら天才剣士と聞く。まぁ…………無理だろう…………」

相変わらずの馬鹿にした笑いを見せるガヌロンに、ソフィーアは諦めた顔で溜息をつく。

「すまんすまん。別に12騎士になれんでも、お前の認めた男だろ??会ってみてからだが、良い男なら反対しないよ。付き合いたいって話だろ??」

意外な父の言葉に、ソフィーアはしばらく言葉を失う。

「まさか、お父さんが許してくれると思わなかった…………どういう風の吹き回し??」

「なんだ??反対してほしかったのか??まぁ、本心は反対だが…………反対しても付き合うんだろ??なら、お前に嫌われるリスクは避けたいんでね」

今度は悪戯な笑顔になる父親に、ソフィーアは抱き着く。

「もー。嫌いになんてならないよ!!ありがとう、お父さん!!でね、今度、お父さんを紹介したいの。ベルヘイム12騎士すら従えて指揮するお父さんは、彼の憧れの人なの!!まだお父さんが軍師やってる事は言ってないから、絶対驚くよ!!」

「そうか………なら、明日にでも早速会ってみるか??オレも長くは休んでられんしな…………」

そう言うと、ガヌロンはソフィーアに抱き着かれたまま立ち上がった。

「そうと決まったら、お買い物しに行かなくちゃ!!2人に感謝の気持ちを込めて、美味しい物作るね!!あ、テューネも誘おうかな??私達2人に懐いてるの!!」

「ああ、私が家を離れている時に、お前の遊び相手になってくれてる女の子か。私からもお礼をしなきゃな………」

ガヌロンの言葉にソフィーアは、笑顔になる。

「もー、お父さん!!テューネはまだ子供だよ!!私達が面倒を見てあげてるの!!」

2人は声を出して笑いあった。

……………………………

それは楽しかった日の思い出…………

そして、悲劇の前日の思い出…………

翌日の出来事で、2人の人生は大きく変わっていく…………

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者をしている者なんですけど、キモデブ装甲のモブAにチェンジ魔法を使われて、身体が入れ替わった!? ありがとうモブA!やっと解放された!

くらげさん
ファンタジー
 雑草のように湧いてくる魔王の討伐を1000年のあいだ勇者としてこなしてきたら、キモデブ装甲のモブAに身体を取られてしまった。  モブAは「チェンジ魔法」のユニークスキル持ちだった。  勇者は勇者を辞めたかったから丁度良かったと、モブAに変わり、この姿でのんびり平和に暮らして行こうと思った。  さっそく家に帰り、妹に理由を話すと、あっさりと信じて、勇者は妹が見たかった景色を見せてやりたいと、1000年を取り戻すような旅に出掛けた。  勇者は勇者の名前を捨てて、モブオと名乗った。  最初の街で、一人のエルフに出会う。  そしてモブオはエルフが街の人たちを殺そうとしていると気付いた。  もう勇者じゃないモブオは気付いても、止めはしなかった。  モブオは自分たちに関係がないならどうでもいいと言って、エルフの魔王から二週間の猶予を貰った。  モブオは妹以外には興味なかったのである。  それから妹はエルフの魔王と仲良くなり、エルフと別れる夜には泣き止むのに一晩かかった。  魔王は勇者に殺される。それは確定している。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

処理中です...