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ロキの妙計
ソフィーアとの記憶
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ガヌロンはロキ軍の本拠地に向けて、険しい山道を馬を走らせていた。
お供の者はなく、唯一人で馬を走らせて行く。
(ふぅ…………私は武闘派の人間ではないから、こういうのは辛いな………)
そう言いながらも、ガヌロンはその足取りを速める。
少し小高い丘に出ると、そこからはレンヴァル村が一望出来た。
ガヌロンは思わず馬の足を止めさせると、そこから見えるレンヴァル村の風景を見つめる。
その表情は、先程まで見えていた怒りや恨みではなく、悲しみの混じったものに変わっていた。
「ソフィー…………お前の恨みを晴らすまで、もう少しだ…………いや、お前は恨んでないかもしれんな…………私個人の復讐だが…………それでも、私に力を借してくれ…………」
そう小声で呟くと、急いでいたのが嘘のように、ガヌロンはゆっくりと
馬から下り、手頃な石に座る。
座った場所からも、レンヴァル村が良く見えた。
「あの悲劇の前日も、こうして座って、お前と村を眺めたな………まるで昨日の事のように思い出せるよ…………」
ガヌロンは瞳を閉じると、瞼の裏に過去の映像が投影されていく。
「お父さん!!今日は大事な話があるの!!」
綺麗な黒髪に愛らしい顔立ち………自分に似なくて良かったとガヌロンは心の底から思いながら、愛娘のソフィーアを眺めた。
今日は天気が良く、散歩するには最高の日だ。
愛娘が付き合ってくれているのだから、尚更である。
「ねぇ…………お父さん…………私に好きな人が出来たっ言ったら……………どうする??」
「なんだ??お前も、もう好きだ嫌いだと言う歳になったか…………相手がヨトゥンじゃなければ問題ないよ。ベルヘイムの為に尽くせる男なら、尚良しだがな」
太陽のような眩しい笑顔を見て、内心は嫉妬のような黒い感情が渦巻いていたが、それを顔には出せなかった。
妻はソフィーアが幼い頃に亡くなり、男手で育てた娘…………可愛くない訳がない。
だから、他の男に持っていかれるのは面白くないが、ソフィーアに嫌われるのは、もっと堪え難かった。
「もちろん、ベルヘイムの為に尽くせる人だよ。彼は将来、ベルヘイム12騎士にも名前を連ねるはずの騎士……………見習い…………だけど…………」
最後の言葉は、もはやガヌロンの耳に届かないレベルの声になっていたが、言っている事は理解出来る。
「ソフィー………騎士見習いレベルに、12騎士は期待し過ぎだろう?栄光のベルヘイム騎士団に入るだけでも凄い事なのに、その中の上位騎士のみに資格がある狭き門だ。更に言えば、近衛騎士の指南役も兼任するから、気品と忠誠心も備わっていなければならない。なかなか難しいぞ」
馬鹿にするように笑いながら話すガヌロンに、ソフィーアは頬を膨らます。
「そんなの知ってるよ!!でも、ランカストは絶対に12騎士まで駆け上がれる資質を持ってるの!!それに、最近12騎士も1人抜けたでしょ??」
「銀狼ファルミアか…………確かに、自ら近衛の隊長に志願し12騎士を抜けたが………その穴埋めが見習いの男では、釣り合わないなぁ………ベルヘイムの守り神とまで言われた男だぞ。それに、その娘さんも幼いながら天才剣士と聞く。まぁ…………無理だろう…………」
相変わらずの馬鹿にした笑いを見せるガヌロンに、ソフィーアは諦めた顔で溜息をつく。
「すまんすまん。別に12騎士になれんでも、お前の認めた男だろ??会ってみてからだが、良い男なら反対しないよ。付き合いたいって話だろ??」
意外な父の言葉に、ソフィーアはしばらく言葉を失う。
「まさか、お父さんが許してくれると思わなかった…………どういう風の吹き回し??」
「なんだ??反対してほしかったのか??まぁ、本心は反対だが…………反対しても付き合うんだろ??なら、お前に嫌われるリスクは避けたいんでね」
今度は悪戯な笑顔になる父親に、ソフィーアは抱き着く。
「もー。嫌いになんてならないよ!!ありがとう、お父さん!!でね、今度、お父さんを紹介したいの。ベルヘイム12騎士すら従えて指揮するお父さんは、彼の憧れの人なの!!まだお父さんが軍師やってる事は言ってないから、絶対驚くよ!!」
「そうか………なら、明日にでも早速会ってみるか??オレも長くは休んでられんしな…………」
そう言うと、ガヌロンはソフィーアに抱き着かれたまま立ち上がった。
「そうと決まったら、お買い物しに行かなくちゃ!!2人に感謝の気持ちを込めて、美味しい物作るね!!あ、テューネも誘おうかな??私達2人に懐いてるの!!」
「ああ、私が家を離れている時に、お前の遊び相手になってくれてる女の子か。私からもお礼をしなきゃな………」
ガヌロンの言葉にソフィーアは、笑顔になる。
「もー、お父さん!!テューネはまだ子供だよ!!私達が面倒を見てあげてるの!!」
2人は声を出して笑いあった。
……………………………
それは楽しかった日の思い出…………
そして、悲劇の前日の思い出…………
翌日の出来事で、2人の人生は大きく変わっていく…………
お供の者はなく、唯一人で馬を走らせて行く。
(ふぅ…………私は武闘派の人間ではないから、こういうのは辛いな………)
そう言いながらも、ガヌロンはその足取りを速める。
少し小高い丘に出ると、そこからはレンヴァル村が一望出来た。
ガヌロンは思わず馬の足を止めさせると、そこから見えるレンヴァル村の風景を見つめる。
その表情は、先程まで見えていた怒りや恨みではなく、悲しみの混じったものに変わっていた。
「ソフィー…………お前の恨みを晴らすまで、もう少しだ…………いや、お前は恨んでないかもしれんな…………私個人の復讐だが…………それでも、私に力を借してくれ…………」
そう小声で呟くと、急いでいたのが嘘のように、ガヌロンはゆっくりと
馬から下り、手頃な石に座る。
座った場所からも、レンヴァル村が良く見えた。
「あの悲劇の前日も、こうして座って、お前と村を眺めたな………まるで昨日の事のように思い出せるよ…………」
ガヌロンは瞳を閉じると、瞼の裏に過去の映像が投影されていく。
「お父さん!!今日は大事な話があるの!!」
綺麗な黒髪に愛らしい顔立ち………自分に似なくて良かったとガヌロンは心の底から思いながら、愛娘のソフィーアを眺めた。
今日は天気が良く、散歩するには最高の日だ。
愛娘が付き合ってくれているのだから、尚更である。
「ねぇ…………お父さん…………私に好きな人が出来たっ言ったら……………どうする??」
「なんだ??お前も、もう好きだ嫌いだと言う歳になったか…………相手がヨトゥンじゃなければ問題ないよ。ベルヘイムの為に尽くせる男なら、尚良しだがな」
太陽のような眩しい笑顔を見て、内心は嫉妬のような黒い感情が渦巻いていたが、それを顔には出せなかった。
妻はソフィーアが幼い頃に亡くなり、男手で育てた娘…………可愛くない訳がない。
だから、他の男に持っていかれるのは面白くないが、ソフィーアに嫌われるのは、もっと堪え難かった。
「もちろん、ベルヘイムの為に尽くせる人だよ。彼は将来、ベルヘイム12騎士にも名前を連ねるはずの騎士……………見習い…………だけど…………」
最後の言葉は、もはやガヌロンの耳に届かないレベルの声になっていたが、言っている事は理解出来る。
「ソフィー………騎士見習いレベルに、12騎士は期待し過ぎだろう?栄光のベルヘイム騎士団に入るだけでも凄い事なのに、その中の上位騎士のみに資格がある狭き門だ。更に言えば、近衛騎士の指南役も兼任するから、気品と忠誠心も備わっていなければならない。なかなか難しいぞ」
馬鹿にするように笑いながら話すガヌロンに、ソフィーアは頬を膨らます。
「そんなの知ってるよ!!でも、ランカストは絶対に12騎士まで駆け上がれる資質を持ってるの!!それに、最近12騎士も1人抜けたでしょ??」
「銀狼ファルミアか…………確かに、自ら近衛の隊長に志願し12騎士を抜けたが………その穴埋めが見習いの男では、釣り合わないなぁ………ベルヘイムの守り神とまで言われた男だぞ。それに、その娘さんも幼いながら天才剣士と聞く。まぁ…………無理だろう…………」
相変わらずの馬鹿にした笑いを見せるガヌロンに、ソフィーアは諦めた顔で溜息をつく。
「すまんすまん。別に12騎士になれんでも、お前の認めた男だろ??会ってみてからだが、良い男なら反対しないよ。付き合いたいって話だろ??」
意外な父の言葉に、ソフィーアはしばらく言葉を失う。
「まさか、お父さんが許してくれると思わなかった…………どういう風の吹き回し??」
「なんだ??反対してほしかったのか??まぁ、本心は反対だが…………反対しても付き合うんだろ??なら、お前に嫌われるリスクは避けたいんでね」
今度は悪戯な笑顔になる父親に、ソフィーアは抱き着く。
「もー。嫌いになんてならないよ!!ありがとう、お父さん!!でね、今度、お父さんを紹介したいの。ベルヘイム12騎士すら従えて指揮するお父さんは、彼の憧れの人なの!!まだお父さんが軍師やってる事は言ってないから、絶対驚くよ!!」
「そうか………なら、明日にでも早速会ってみるか??オレも長くは休んでられんしな…………」
そう言うと、ガヌロンはソフィーアに抱き着かれたまま立ち上がった。
「そうと決まったら、お買い物しに行かなくちゃ!!2人に感謝の気持ちを込めて、美味しい物作るね!!あ、テューネも誘おうかな??私達2人に懐いてるの!!」
「ああ、私が家を離れている時に、お前の遊び相手になってくれてる女の子か。私からもお礼をしなきゃな………」
ガヌロンの言葉にソフィーアは、笑顔になる。
「もー、お父さん!!テューネはまだ子供だよ!!私達が面倒を見てあげてるの!!」
2人は声を出して笑いあった。
……………………………
それは楽しかった日の思い出…………
そして、悲劇の前日の思い出…………
翌日の出来事で、2人の人生は大きく変わっていく…………
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