雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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紅の剣士と恐怖の剣

ティアの過去

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ガイエンに胸を貫かれたエストは、虫の息でティアに声をかけた。

その手には、ガイエンから貰った赤いペンダントが握られている。

「ティア…このペンダントを持って行って…このペンダントには、きっと人の心を保つ力がある…私、なんでもっと冷静でいれなかったんだろう…なんで、このペンダントを部屋に置いてちゃったんだろう…」

差し出されたペンダントは、エストの血で宝石の場所が分からないぐらい赤く染まっていた。

ティアが助け出された後、そのティアから話を聞き事実を知ったエストは、自分の部屋に置き忘れていたペンダントを身につけた。

その瞬間、心が穏やかになっていくのを感じ、物事を冷静に考えれている自分に気付く。

家の外には、ヨトゥン軍の放った火が見える。

「ガイエン…ガイエンを助けに行かなきゃ!!ティア、ここにいたら炎に囲まれちゃう!!ガイエンと一緒に逃げよう!!」

幼い手を握り、家の外に出るエスト。

その心には、ガイエンへの罪悪感と申し訳ない気持ち。

そして、ヨトゥンへの恨みが支配していた。

ガイエンと出会えた時、本当は嬉しくて…本当は謝りたくて…でも、自分の父の死も受け入れられなくて…

そんな複雑な感情が、エストの心に渦巻いていた。

そして、ガイエンの表情を見て…悪に支配されているようなガイエンを見て…ガイエンをこの場所から逃がさなければと思ってしまった。

結果、ガイエンの怒りを増長させてしまった事に、エストは後悔した。

「ゴメンね…ティア…私、もうダメみたい…ガイエンを…お願いね…私…なんて酷い事…しちゃったんだろう…な…」

ティアがペンダントを受けとった瞬間、エストの手から力が抜けて、動かなくなる。

ティアは泣いた。

大粒の涙が、止めどなく流れ落ちた。

そして、血まみれのペンダントを持って、あてもなく歩いた。

気付いたら、先程ガイエンが【ヘルギ】を見つけた教会に立っていた。

涙が溢れるティアの瞳に、ティアを呼ぶように赤い輝きが地面より生まれる。

「これ…同じペンダントだ…」

無意識に、ガイエンが捨てたペンダントを…大好きだった姉…エストから託された物と同じペンダントをポケットに入れた。

「私…これからどうするんだろう…」

大好きだった父と姉は死に、母も業火の中で助かっているとも思えない。

そんな事を思いながら歩いていると、頭に衝撃が走る。

逃げる村人の荷物が、頭に当たったのだろう。

そのまま意識を失うティア…

逃げる事に必死な村人達は、そんなティアに見向きもせず逃げていく。

再び、その瞳を開いたティアの目の前には、廃墟と代した村があった。

「私…ここで何してるんだろう…名前…私の名前…何も、思い出せない…」

途方に暮れるティアの前を、旅の一座が通り過ぎる。

「ねぇキミ、こんなトコで何してるの?」

通り過ぎた馬車が止まり、少年が話かけてきた。

「私…自分の名前も分からなくて…」

そこまで言うと、ポケットの中に何かあるのを感じる。

取り出すと、固まった血が纏わり付いたペンダントが出てきた。

「うわぁ…凄い血がついてるね…」

少年は顔が引き攣っていたが、ティアにはこのペンダントがとても大切な物に思えた。

頭の中に、女性がペンダントを自分に託ているシーンが浮かぶ。

その時に【ティア】と呼ばれた気がした。

「私…名前…ティア…」

その言葉は聞き、少年は笑顔になる。

「ティアちゃんだね!!思い出せて良かった!僕は【レイ・ノースラン】こんな場所に1人でいちゃ駄目だよ。一緒に行こう!そのペンダントも洗って綺麗にしなきゃ!」

ティアは頷くと、促されるままに馬車に乗った…

男はそこまで思い出すと、霞んでいく瞳で空を見上げる。

(ティア…キミを絶望に追い込んだ男…見つけたよ…でも、僕はここまでだ…)

ガイエンに胸を切り裂かれた男…レイ・ノースランは、静かに息を引き取った。

「何か、伝えたい想いでもあったのでしょうか?」

男の表情を見て、エリサが考え込む。

「もう死んじまったんだ…考えても仕方ないさ…」

そう言う航太も、やり切れない気持ちでモヤモヤしていた。

「ねぇ航ちゃん、この世界にいたら、こんな辛い事の連続なのかな…私、気が滅入りそう…」

いつもは明るい絵美が、暗い表情で言う。

航太は答えられず、一真のいる民家の方に目を向けた…
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