153 / 222
スラハト解放戦
ガヌロンの忠誠
しおりを挟む「ふむ、やはりガイエンは戻らんか……まぁ仕方ないのぅ……流石に、そろそろ気付く頃だとは思っていたが、思ったより時間がかかったのぅ」
ガイエンはベルヘイム軍との戦いの後、コナハト城へは戻っていなかった。
ガイエンが生き残っている事は他の兵達から聞いてはいたが、バロールは特に気に止める様子はない。
ガイエンの事を信用しているというよりは、関心が無い様に見える。
「ガイエンにスラハトを守らせようと思っていたが……まぁ、スラハトは諦めるしかないかのぅ……」
「仕方ないでしょう。ガイエンは、Myth Knightと言っても所詮は人間。力も心も弱いですからな……私がスラハトの防衛戦に出ましょうか??」
スルトの発言をバロールが手で遮り、傍らに座るガヌロンを睨むように見た。
「ガヌロン、お主がスラハトに出てくれんかの??儂らは、コナハト城の防衛で忙しいからのぅ……」
それを聞いたガヌロンは目を見開き、驚きのあまり席を立つ。
「そ……そんな馬鹿な話ありますまい。私は、軍師ですよ!!前線に出たら……それも最前線に出てしまっては、戦いを把握して策を立てれません!!」
「ふむ……しかし、お主の策で儂は城の中、スルトは橋の手前に配置となるんじゃろ??クロウ・クルワッハ不在で、兵を指揮できる者はお主しかおらんのじゃよ」
必死に訴えるガヌロンだったが、事前にバロールに伝えていた自分の考えた策を崩す訳にもいかず、顔面蒼白になる。
「だいたい捕虜であるお前が、指揮官として戦いに参加出来るだけ有り難いと思え!!バロール殿の配慮に、感謝するんだな!!」
スルトの迫力に圧され、ガヌロンは青ざめた顔のまま数歩後退した。
「後は、東と西の城門を破られた時の対処じゃな……どうするかのぅ??」
バロールが、青ざめているガヌロンに意見を求める。
策を練れる精神状態ではなかったが、スルトに睨まれている為ガヌロンは必死に考えを絞り出す。
「東と西の城門は小さいですので、侵入してくるとしたら恐らくバロール様を牽制する部隊だけでしょう。正面の橋に部隊を集中しなければ攻城戦など不可能なので、魔眼を使わせない為にも少数の兵を配置している可能性は高いと思われます。遊撃部隊を指揮するのは魔眼に対抗出来るユングヴィ王子なので、王子が東西どちらから出て来ても対応出来る部隊配置にすれば問題無いと思います。恐らく、東から来るとは思いますが……」
ガヌロンがベルヘイム軍の軍師をしていた頃から、ユングヴィ王子……フレイが東の城門から侵入する事は決まっていた。
ガヌロンが裏切った事で、その事がバロール軍に伝わっている事は承知しているだろう。
「何故、東からだと思うんだ??」
「私がベルヘイム軍を指揮している時から、既にコナハト城を攻める作戦は立てていました。ユンクヴィ王子は東門から攻める……それはもう決まっていた。今、ベルヘイム軍の軍師をしているオルフェは、その事を逆手にとる筈……全体の作戦は変えて、一部は元の作戦を使う。その事で、バロール様の軍を混乱させるように企むと思われます」
スルトはガヌロンの言葉に、ほくそ笑む。
「元の作戦を使うなら、作戦のキモであるフレイの突入で使うか……ガヌロン、良い情報を提供してくれたな」
「はい、ありがとうございます。私が最前線に立つならば、上手く正面の橋にベルヘイム軍を集めます。その時に、ユンクヴィ王子の位置も確認して参ります」
ベルヘイム軍は、バロールの魔眼に晒されたら全滅してしまう。
つまり、ベルヘイム軍がコナハト城に架かる橋を渡る間は、フレイがバロールを押さえ付けていなければならない。
フレイの動きさえ把握出来れば、バロール軍の勝利は確定する。
ガヌロンの答えに、バロールは満足そうに頷く。
自分への忠誠心を、ガヌロンから感じたのだろう。
「問題なさそうですね。我が部隊が、ガヌロンが引き付けて来たベルヘイム軍を正面の橋で足止めします。その間に、バロール殿の魔眼で一網打尽に!!我がムスペルの騎士達は、魔眼に数分は耐えれますからな!!」
「ふふ……これで、厄介なアルパスター隊が叩けるのう……ベルヘイムさえ堕とせば、虹の橋ビフレストがあるヴァナヘイムまであと一歩じゃ!!」
思わず笑みが漏れるバロール。
「切り札も、こちらにあるしの……ロキを出し抜いて、我らの天下をつくってやろうぞ」
魔眼の力で、永久の幻惑に囚われているフレイヤ……
そのフレイヤを眺め、バロールは更にほくそ笑んだ……
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜
二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。
処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。
口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る…
※表紙はaiartで生成したものを使用しています。
パーティーから追い出された劣等賢者ですが、最強パーティーを育てて勇者を世界から追い出そうと思います。
遥 かずら
ファンタジー
全知全能の智者として勇者を支え、強く育て上げて来たと自負する賢者アクセリ。心の中では不満を抱えながらも、PTに貢献をして来た。
そんな中、気弱な勇者ベナークは魔王討伐後に態度が一変。女魔導士に命じ、重力呪詛系転移魔法を賢者に使用させる。
裏切りに気付いた賢者は怒りを覚えるも、世界のどこかに転移させられてしまう。呪詛により能力全てが弱くなっていたことに憤慨するも一人ではどうにも出来ないことを知る。
自分と似たあぶれ者に助けられたことをきっかけとし、勇者に復讐をすることを目的に動き始めるのだった。
勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる