命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

四幕 「赤の閃光」 二

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 広間に侵入してきた二体の白フレアは、迎え撃とうと布陣していたアス達の魔力を感知したようで、すぐに臨戦体制に入る。たちまち、強烈な輝波と攻撃的な悪意が一帯を支配した。
「二体って、どうすればいいんだ!?」
 想定外の状況に混乱するエラル。
 その横でアスも思考が停止したかのように固まって、ただ目の前のフレアを見つめていた。
 二体のフレアは室内を見回すように顔をグネグネと動かす。
「エラル様とアス様は左のフレアを!状況把握が完了したらすぐに襲ってきます!集中してくださいませ!」
 フォンセの大声によって二人はハッと我に返る。それと同時に二体のフレアが左右二手に別れて粉塵を巻き上げながら突進を開始した。
「くそ!」
 向かって左から突進してくるフレアに対してエラルが咄嗟に剣を振るうが、焦って繰り出された斬撃は距離感が合っておらず、フレアの目の前で豪快に空振る。
 体勢を崩したエラルに向かってフレアが拳を振りかぶるが、すぐにフォローに入ったアスがその拳を跳ね上げるように下から剣の腹で叩き上げた。
 魔錬刃の効果でその威力が底上げされたこともあって、腕を弾かれたフレアの体が大きく仰反る。
 すかさず、アスは剣を返すと隙を見せたフレアの横を駆け抜けながら胴体を切りつけて背後に回った。それは以前、ハマサ村でヴェルノとニリルが見せた戦い方を模倣するかのような動きだった。
 背後に回ったアスに照準を切り替えたフレアがエラルに背を向ける。
「エラル!背中だ!」
「このぉ!」
 体勢を立て直したエラルがアスの声に呼応し、縦一直線にその無防備な背中を斬りつけた。
 フレアの背中から赤黒い体液が飛び散る。更に魔錬刃の追撃魔操によって、切断面から一気に炎が立ち上り、その肉を焦がした。
「まだまだ!」
 剣に自信があると言っていたエラルの腕前は流石で、威力こそ乏しいものの斬撃の速さは凄まじくフレアが振り向くまでに続けて三度斬りつけてから距離をとった。
 エラルに体の向きを変えたことで、今度はアスの目の前がフレアの背中になる。そこをアスが渾身の力を込めて斬りつけた。
 複数の斬撃の痕から立て続けに炎が発生すると、フレアは鬱陶しそうに見境なく周囲に拳を振り回しながら壁に向かって走り、二人と距離をとった。
 今のところはなんとか見える。なんとか戦える。
 アスが極限の緊張の中、神経をすり減らしながら戦いつつもそう感じた矢先、後方から大きな打撃音と共に甲高い悲鳴が広間に響いた。
「フォンセ!」
 続いてディオニージの悲痛な声が響く。アスが視線を向けるとフォンセの身体が宙を舞い、そのまま広間の石壁に叩きつけられる様子が目に映った。
 突進してきたもう一体のフレアが、フォンセに強烈な一撃を打ち込んだのだ。その凄まじい衝撃を物語るかのように、フォンセが握るダガーは二本とも真っ二つに折れていた。
 フォンセは血反吐を吐きながら苦痛に表情を歪ませる。多分折れた骨が内臓を傷つけているのだろうと思われた。
 それでもなんとか立ちあがろうと床でもがくフォンセに対して、フレアが両の掌を向ける。
 フレアの両腕がにわかに赤く発光した。
「いけない!止めないと!」
 アスとエラルが直ぐにフォンセの下に駆け寄ろうとするが、相対していたフレアがそれを阻止しようとすぐにその進路上に入って立ち塞がった。その巨体でフォンセ達の様子が見えなくなる。
「どけよ!」
 エラルが吠えながら闇雲に剣を払い、フレアの左側面をすり抜けようとする。
 どちらか一人が抜けられればとアスはエラルの反対側、フレアの右側面を抜けようと駆けた。
 すぐさまフレアは左右に両手を広げ、無数の氷の棘を放つ。魔力が十分に練られていないこともあって威力は乏しかったが、それでも回避行動を要する分だけ二人の足が鈍る。
 その間に、もう一体のフレアからフォンセに向かって大火球が放たれた。
 魔力を十分に練り込んで創生された大火球は直径一メートル程に及び、周囲を灼熱状態にしながら唸りをあげてフォンセに迫る。
「うおおおお!」
 雄叫びを上げながら、フォンセを庇うようにディオニージが火球の軌道上に割り込み、風音の魔操で逆風を巻き起こした。
 しかし、魔操の力が乏しいディオニージが起こした風は微弱なものであり、火球を押し戻すことも軌道を変えることもなく、僅かに速度を落とすことしか出来なかった。
「・・・くっ、駄目か!?」
 それでもなんとかしようとディオニージが必死の表情で風を創生し続けるが、やがてフォンセと共にそのまま火炎に包まれた。
「兄様!」
 立ち上る火柱に向かって、エラルが喉が張り裂けんばかりの大声で叫ぶ。
 こうなってしまってはどうしようもないと、アスが歯軋りしながら自分の無力さを悔やむ中、何故か炎は急激に弱まり、そのままシューっと音を立てて消え去った。
「えっ?」
 火球の不自然な消失に戸惑うアス。消火によって生じた煙が視界を遮っていたため、何が起こったのか状況はよくわからない。次第に辺りには焦げ臭い匂いが漂い始めた。
 続いて、魔操の風が巻き起こり火球が消失した辺りの煙を吹き飛ばす。
 そこには強力な魔操で創生された分厚い氷壁に守られるフォンセとディオニージの姿があった。
 ディオニージは何が起こったのかわからない様子で呆然と立ちすくんでいる。その様子から、煙を吹き飛ばした魔操の風もディオニージが放ったものではないことが伺えた。
 予想だにしない状況を目の当たりにしたこともあって、時が止まったかのように皆の動きが一様に硬直し、広間が静寂に包まれる。
 そんな中、魔力の発生源を感知した二体のフレアがゆっくりとその顔に刻まれた不気味な黒い紋を一点に向けた。
 フレアが顔を向けた先には両手を前に突き出し荒々しい呼吸で肩を上下させるシオンの姿があった。
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