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最終笑『ピエロマスター』
しおりを挟む翌日、私は登校した。
案の定、クラスの皆はあの空間での出来事を、大将とオツボネ様の事さえ覚えてはいなかった。
ピエロ君とブー子は大将とオツボネ様の事を覚えてはいたものの、最後の戦いに同席しなかったせいか、大将とオツボネ様が私達を庇って散ったことを覚えていなかった。
私がその時のことと、大将達の最後の言葉を伝えると。
「……バカな奴ら、……それはこっちのセリフだ…」
そう言ったっきり、黙り込んでしまった。
そして、全てが解決して2~3日が経った頃、私はピエロ君とブー子を伴って登校した。
だが、クラスに着いて私が目にしたのは。
「おっ! いじられ役の面々がきたぞおーー!」
悪ガキの声が聞こえた。
隣にはニヤニヤ顔のガリベンもいる。
心無いクラスの連中が私達(あの漫才以降、ついに私もクラスのいじられ要員になってしまった)が面白いことをするのを期待して無責任な言葉をかける。
もう大将のような『強者』は存在しない。故に散発的にいじり、いじられが起こるようになっていた。
だけどそれは小規模なものだった。
数人が固まって私達を視姦するような目線を送ってくる。
大将がいた時と変わらない状況だ。
ピエロマスターはいなくなったのに、どうやらこの地獄は終わりそうに無い。
「ななな……なんで?!」
私は頭が真っ白になり、間抜け面で口をパクパクさせるしかなかった。
「毒虫がなんか変な顔してっぞ!」
ソレが更に場の笑いを誘ってしまい、クラスメイトの笑顔がさらに醜く歪んでいく。
「決まってんじゃん!」
ブー子がうれしそうに続ける。
「マスターがいなくなることは、イコール『笑い』がこの世から消滅するということ。君は見たんだろう? その『笑い』が『感情』が無くなった世界を。どうだった? つまらなかったでしょ?」
私はピエロ君の問いに無言で頷く。
本当につまらなかった。
こっちの世界みたく吐き気はもよおさなかったが、本当に何も無い息苦しさで死にそうだった。
あの世界も地獄だった。
そして。
「よう、ハニー」
アイツの姿を見る。
『また、揃っちまったな。ピエロ倶楽部の四人が』
私は驚きよりも、愛しい人と再会した喜びから、自然と微笑みで返す。
「まあ、しゃあねえなあ~」
「次はダレを笑わせればいいんだろうね」
二人の声が聞こえ。
ピエロ君はやれやれといった風に大げさに芝居じみたため息をつくと、隣にいるブー子を見る。
ブー子もそれに気付きピエロ君を見る。そして。
「「……フッ」」
二人は示し合わせたように鼻で笑った。
いや笑い飛ばした。
そう、全てを。
「「……っ!」」
そして熱烈なキス。
「やっべっ! 豚とピエロが盛ってんぞー!」
「誰かとめろおーー!」
そんな二人をいじってはやし立てるクラスの連中の心無い言葉が場の笑いを加速さえていく。
本気で止めようとする気など毛頭無い。
私はそんな二人の姿を見て戦慄するしかなかった。
またあの日々が……この地獄が続くのか……と。
でも同時にこうも思った。『なんかカッコいい』と。
そう、ピエロ君達とブー子がダークヒーローとヒロインに見えたからだ。
この理不尽な『笑い』に包まれた世界。
それをごくごく少数の人達が守っている。
そう、世界を守る最後の『砦』。
『彼ら』がいなければ始まらない。
『私もその一員になれるのかしらね?』
私も鼻で笑ってその『場』に加わる。
ピエロ君の唇を奪い返すという形で。
「 Let`s Party(レッツ パーティー) 」
そんなセリフがどこからか聞こえた気がした。
その時、教室の隅から、いなくなったハズのピエロマスターが私に笑いかけてきた。
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