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第31笑『【芸人】登場』3/3
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そして彼は……芸人は面白いほどにクラスの心を掴み、裏で纏め上げ、クラスに笑いを振りまく。
だが、その様子はどこか余裕があるものだ。
しかし問題はそんなことではない。
何より私が許せないのは大将も皆も『ピエロ君のことをみんな忘れている』ってことだ。
あれだけ場の笑いに苦心したピエロ君がいなくても場の笑いが成り立っている。
ブー子もほとんどいじられなくなり、あの地獄の流れから救われた。
はずなのに……。
「あたしは認めない……あの芸人には熱が無い」
忌々しげに言っていた。
だが私もそう思う。
「ピエロ君は、いっつも全力だったのに……」
私は悲しかった。
でもそれ以上にあの男が憎らしかった。
自然と目は忌々しげな視線をアイツに送っていたのかもしれない。
「ちょっと、君、いいかな?」
ムカつくくらい余裕しゃくしゃくな態度で、アイツは私に話しかけてきた。
「君がこのクラスを監視しているように見えたんだけど」
この男はいい観察眼を持っている。
これは場の欲求、つまり『フリ』をいち早く察知するいじられ役にとって要とも言うべき技能だ。
「なんでしょうか?」
私はぶっきらぼうに答えるのが精一杯だった。
批判をしようとしたものの、この男のあまりにも完璧な立ち振る舞いにぐうの目も出なくなっていた。
「そこでお願いがあるんだ」
そんな私の心さえ見透かすように余裕綽々、自信満々にこの男は言う。
「今後、君は僕の行動を邪魔しないでもらえるかな?」
素人には任せておけないんだ。
そう付け加えて。
「なにそれっ! 自分が一番偉いとでも思ってるのっ!」
私は激昂した。
「そうだ。我々プロ芸人が世界で一番偉い」
だがこの男はそれがさも当然とでも言うように私を軽くあしらった。
「だいだいあのピエロが最後やったことを覚えているか?」
「切腹なんて……やりすぎだ! やりすぎて笑いなんか取れるわけねーだろ!」
ハーッハッハーと笑い声と共にピエロ君をけなしている。
許さない!
絶対に!
芸人が一番偉いなんて思いたくない。
そして売れない芸人のプロセスストーリー。
全ての夢を持ってる人達へって……。
正直、吐き気がした。
そりゃあ売れない芸人もたくさんいるさ。
だがどうだ、それら埋もれていく芸人のさらに下に彼らはいる。
真の芸人達はそこら中にいる、いじられ役達だ。
彼らは本当に頑張って、頑張って、場の仲間に使い潰され、心をすり減らして、今からその音を、悲鳴を聞かせてやろうかっ! それくらい私は彼らことがやるせなく、憤っているんだ。
――――アイツを排除する、いやアイツも含め、クラスの奴らに思い知らせてやる!――――
それが当面の私の目標になった。
これから私が紡ぐ物語は『全てのいじられ役への鎮魂歌』だ。
私は決意も新たに睨みつけるように芸人を見据える。
「ふっ」
そんな私を鼻にかけるように一笑した後、得意満々に芸人は活動を説明し出す。
「俺はこれからこのクラスで『サーカス』を展開する。サーカスとはあれだ、各々が自覚(己が笑いの場を支えている)を持つことで、孤独から救われ、笑いの場が持つ負のエネルギーを相殺する。まあ笑いの場にのまれないようにしてやるってことだわ。あの大将とかいうやつのイジりはいじめによるモノだし、まるでなってねえ異常な笑いの場ってやつだな」
「まあ俺はそれを正常な場に戻してやるってわけさ!」
「孤独は即、死に繋がる危険なものだよ。笑いの場では特にな! だからそれを何としても阻止する!」
芸人は力強くこぶしを握って続ける。
「だから孤独に陥った笑いの場の奴隷達を救う、最後の一手、それがサーカス構想なのだよ」
そして、念押しするように言う。
「前にも言ったが、絶対に邪魔するなよ! 『お前は笑いの場の流れを変えかねん』からな!」
「???」
私には訳が分からなかった。
だが、その様子はどこか余裕があるものだ。
しかし問題はそんなことではない。
何より私が許せないのは大将も皆も『ピエロ君のことをみんな忘れている』ってことだ。
あれだけ場の笑いに苦心したピエロ君がいなくても場の笑いが成り立っている。
ブー子もほとんどいじられなくなり、あの地獄の流れから救われた。
はずなのに……。
「あたしは認めない……あの芸人には熱が無い」
忌々しげに言っていた。
だが私もそう思う。
「ピエロ君は、いっつも全力だったのに……」
私は悲しかった。
でもそれ以上にあの男が憎らしかった。
自然と目は忌々しげな視線をアイツに送っていたのかもしれない。
「ちょっと、君、いいかな?」
ムカつくくらい余裕しゃくしゃくな態度で、アイツは私に話しかけてきた。
「君がこのクラスを監視しているように見えたんだけど」
この男はいい観察眼を持っている。
これは場の欲求、つまり『フリ』をいち早く察知するいじられ役にとって要とも言うべき技能だ。
「なんでしょうか?」
私はぶっきらぼうに答えるのが精一杯だった。
批判をしようとしたものの、この男のあまりにも完璧な立ち振る舞いにぐうの目も出なくなっていた。
「そこでお願いがあるんだ」
そんな私の心さえ見透かすように余裕綽々、自信満々にこの男は言う。
「今後、君は僕の行動を邪魔しないでもらえるかな?」
素人には任せておけないんだ。
そう付け加えて。
「なにそれっ! 自分が一番偉いとでも思ってるのっ!」
私は激昂した。
「そうだ。我々プロ芸人が世界で一番偉い」
だがこの男はそれがさも当然とでも言うように私を軽くあしらった。
「だいだいあのピエロが最後やったことを覚えているか?」
「切腹なんて……やりすぎだ! やりすぎて笑いなんか取れるわけねーだろ!」
ハーッハッハーと笑い声と共にピエロ君をけなしている。
許さない!
絶対に!
芸人が一番偉いなんて思いたくない。
そして売れない芸人のプロセスストーリー。
全ての夢を持ってる人達へって……。
正直、吐き気がした。
そりゃあ売れない芸人もたくさんいるさ。
だがどうだ、それら埋もれていく芸人のさらに下に彼らはいる。
真の芸人達はそこら中にいる、いじられ役達だ。
彼らは本当に頑張って、頑張って、場の仲間に使い潰され、心をすり減らして、今からその音を、悲鳴を聞かせてやろうかっ! それくらい私は彼らことがやるせなく、憤っているんだ。
――――アイツを排除する、いやアイツも含め、クラスの奴らに思い知らせてやる!――――
それが当面の私の目標になった。
これから私が紡ぐ物語は『全てのいじられ役への鎮魂歌』だ。
私は決意も新たに睨みつけるように芸人を見据える。
「ふっ」
そんな私を鼻にかけるように一笑した後、得意満々に芸人は活動を説明し出す。
「俺はこれからこのクラスで『サーカス』を展開する。サーカスとはあれだ、各々が自覚(己が笑いの場を支えている)を持つことで、孤独から救われ、笑いの場が持つ負のエネルギーを相殺する。まあ笑いの場にのまれないようにしてやるってことだわ。あの大将とかいうやつのイジりはいじめによるモノだし、まるでなってねえ異常な笑いの場ってやつだな」
「まあ俺はそれを正常な場に戻してやるってわけさ!」
「孤独は即、死に繋がる危険なものだよ。笑いの場では特にな! だからそれを何としても阻止する!」
芸人は力強くこぶしを握って続ける。
「だから孤独に陥った笑いの場の奴隷達を救う、最後の一手、それがサーカス構想なのだよ」
そして、念押しするように言う。
「前にも言ったが、絶対に邪魔するなよ! 『お前は笑いの場の流れを変えかねん』からな!」
「???」
私には訳が分からなかった。
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