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第12笑『パ・フォーマーはいずれ背景と化す』1/3

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「ピエロ君は……何がしたいんだろう?」

 放課後、誰もいない教室、机の上に突っ伏したまま私はひとりごちる。

 ブー子の時のあの現象を通して見る度、私はピエロ君がわからなくなってきた。

「絶対、ピエロ君もピエロマスターのこと見てるよ……」

 そうでなければ、ピエロ君がここまで笑いにこだわる理由が説明できない。

 彼は笑いの場の犠牲者なのか?……それとも?

 最初はなんか気になる存在としてある種の好意を抱いていたのかもしれないが、今はもう疑念でいっぱいだ。

 なんか病んできた……。

 机に突っ伏した体を起こしボーっと教室の隅を見る。


「また居るよ……」


 毒づく私の視線の先、ピエロマスターがまた紫の霧を吸い込んでいる。

 そして前みたくヤツと目が合い、私の意識は壮大な旅に出る。

 といっても今回は他人の記録で無く『記憶』を追体験することになったけれど。



 そこで見たのはある男の記憶。



 俺は音楽がありさえすればいいと思った。

 音楽が、音楽さえあれば『場』は盛り上がる。

 そして自分も盛り上がれる。

 そして『場』の一員になれる。


 本当に音楽はいい。

 音楽に身を任せてさえ居れば、何もかも『無かったこと』にできる。

 音楽に合わせて目を閉じればなにも見なくて済む。

 自分だけの世界に居られる。


 俺は特に『場』を盛り上げる力、能力を持っているわけではない。

 それなのによくこのクラスの大将をはじめ数人とカラオケボックスに連れて行かれる。

 普段、クラスでいやと言うほど体験している空気が、学校が終わっても続くのだ。

 苦痛でたまらない。

 そしてここでも『場』の盛り上がりが足りないと皆、つまらなそうにする。

 そしていつもの大将の宣言「あー、つまんねえなー」が発せられる直前、音楽がかかる。

 ここが教室とカラオケボックスの違うところだ。

 そう、ここでは音楽が全て。

 波乗りではないが、音楽に乗って、この笑いの場のうねりを突き進むことができる。

 そう音楽がかかるとみんな盛り上がりを取り戻す。

 俺は思う。

 音楽が『場』の盛り上がりを繋いでいるんだ! と。


 そして踊りさえすれば問題なく『場』に溶け込めるということを。


 当然だが、ただ座っているだけでは『場』の参加者と見なされない。

「オイ、お前楽しんでないだろっ!」という叱責が飛ぶ。

 だが踊り狂うことによって少なくとも『この場を楽しんでいるフリ』をすることが出来る。

 そして踊りに没頭すればするほどいい意味で『周りが見えなく』なる。

 見なくても済む、全てを忘れられる。

 どんなツマラナイ時間もつらい言葉も影響しない。

 ここだけが自分の空間だ。

 そうして目を閉じ悟りを開いて踊り狂っていると汗が目に入った。

 たまらず目が少し開き、部屋が視界に入る。


 そして俺は凍りつく。


「あいつッいつの間に……」

 そこには教室で見えるようになったピエロマスターの姿があった。

 いつもいつも教室で踊らされている俺を見て『盛り上げろ盛り上げろ』的な視線を送ってくるヤツがなぜここにも……。

「そうか、また俺に場を盛り上げろというのか……」

 もはや諦観にも似た想いに駆られ俺は目を閉じ、行動を再開する。

 踊り続ける俺、それでいい。

 それだけでいい。



 それから俺はどんな曲を聴いても自然と体が反応する体質になってしまった。

 何かの中毒者のように、音楽がかかるとじっとしていられないんだ。



 そして教室では以前より『進化』した俺は場の盛り上がりに華を添えるような役割を担っていた。
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