6 / 45
第5笑『私は毒虫』4/4
しおりを挟むあの子は体面を気にする子だったから、その件以来、意外とあっけなく壊れた。
私に秘密を握られただけで体が震えるくらいだったんだ。
ましてやそれが公開されれば、とても通常の精神状態ではいられないだろう。
あえて公開まで一日時間を置いたのは、あの子にあえて苦しむ時間を与えたからだ。
心が崩壊するまでには多少、熟成させる時間が必要だからだ。
授業中も手が震えて。
言動もおかしくなり。
精神に不調をきたし。
やがて転校して行った。
おそらくあの子はお互いに秘密を握っていれば相手は何も出来ないと思っていたのだろう。
だが、私は違った。
容赦はしない。
私に手を出したのがそもそも間違っていたのだ。
毒には毒を!
排除が完了した。
ココロのウラをエグる。
ニンゲンナラコワセル。
私はそう確信した。
意外と人を壊すのは簡単なのだ。
私は自分から手を出せるような牙は持ち合わせていない。
ただし、私に噛み付いた人間はただではすまない。
猛毒を体内に宿した『毒虫』。
それが私の通り名になった。
その事件以来、私はクラス中の人間から意図的に無視されている。
寂しいと思ったことは無い。
干渉されるのは大嫌いだし、むしろその方が快適だから。
観察者の立場を得た私だが観察を続けていて気になることがある。
あのピエロマスターの存在とこの教室の異常な笑気。
そしてあの子、ピエロ君の存在だ。
『ハンッグリッ! ハンッグリッ!』
さっきまでテープでぐるぐる巻きにされても尚、笑顔を絶やさなかったピエロ君の姿が思い浮かぶ。
何であんなにされてまで笑顔を絶やさないのか不思議だった。
私だったら絶対いじめられている事に耐えられないから。
もしかしていじめられていること自体に気付いていない?
まさかそんな鈍感ではないよね。
でも気になる。
やっぱ気になる。
気付けば私はピエロ君を目で追う様になっていた。
そしてついに私は、その日の放課後、二人っきりになった時に物申してやった。
誰もいない教室。
ピエロ君が後片付けをしている。
ガムテープを器用に巻きなおしてゴミ箱に捨てている。
私はピエロ君に向かって言い放つ。
「よくそこまでいじめられて、心が折れないわね!」
でも、ピエロ君はそんな私を気にもせず、堂々と言葉を返してきた。
「いじめられてる? そんなわけないじゃないか。僕はこの教室の笑いを作っている一団の一人さ」
「何よそれ……」
絶句。
本当にわけが分からない。
この子頭おかしい。
「でもこんな方法でも誰かを笑わせることは出来るでしょ!」
ピエロ君の発言に私は怒りがこみ上げてきた。
「いいか、三回言ってやる!」
私は断言する。
「お前笑われてるんじゃないのか?」
そうだよ!
「笑われているんだ」
その通りだよ!
「絶対笑われている」
間違いないから!
「笑わせてるんじゃない笑われているんだ! いい加減気付け!」
思いの丈をピエロ君にぶつける。
気付いて欲しいと信じて。
「それが? 何か?」
でも彼はしれっと笑顔で言う。
「確かに僕は笑われている……その通りさ。でも、昔、ものすごく落ち込んでいた子がそんな僕の姿見て笑ったんだ。それを見て無性にうれしくなってしまって。だから僕はこのクラスで素人芸人……いじられ役を続けられているんだと思う」
その言葉を聞いて私は理解に苦しんだ。
そこまで自分を犠牲にして何が残るって言うのよ!
「何で分からないの!……ほんと、反吐が出るわ」
本当に理解できない。
人をいじめることでしか笑いを作れない集団……クソくらえ!
私がクラスの笑いに憤りを感じ始めた頃……そんな時だ。
私がピエロマスターの周りで不思議な現象を体験し始めたのは。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小径
砂詠 飛来
ホラー
うらみつらみに横恋慕
江戸を染めるは吉原大火――
筆職人の与四郎と妻のお沙。
互いに想い合い、こんなにも近くにいるのに届かぬ心。
ふたりの選んだ運命は‥‥
江戸を舞台に吉原を巻き込んでのドタバタ珍道中!(違
禁じられた遊び-醜悪と性愛の果て-
柘榴
ホラー
ある少女の家族の中では、『禁じられた遊び』があった。
それはあまりにも歪で、忌々しく、醜悪な遊び。そして、その遊びは少女の弟の精神を蝕み続け、やがて弟を自殺に追いやる事となる。
殺したのだ、実の姉であるその少女が。
実の弟・由宇に対し、『禁じられた遊び』を強要し続けていた真奈と加奈の二人。
しかし、ある時、由宇はその苦痛と屈辱に耐えきれずに自殺してしまう。
由宇の自殺から十五年。真奈と加奈は再会し、愛と狂気と憎しみが再び交差する。
究極かつ醜悪な『近親愛』がこの物語に。
あやかしのうた
akikawa
ホラー
あやかしと人間の孤独な愛の少し不思議な物語を描いた短編集(2編)。
第1部 虚妄の家
「冷たい水底であなたの名を呼んでいた。会いたくて、哀しくて・・・」
第2部 神婚
「一族の総領以外、この儀式を誰も覗き見てはならぬ。」
好奇心おう盛な幼き弟は、その晩こっそりと神の部屋に忍び込み、美しき兄と神との秘密の儀式を覗き見たーーー。
虚空に揺れし君の袖。
汝、何故に泣く?
夢さがなく我愁うれう。
夢通わせた君憎し。
想いとどめし乙女が心の露(なみだ)。
哀しき愛の唄。
風の音
月(ユエ)/久瀬まりか
ホラー
赤ん坊の頃に母と死に別れたレイラ。トマスとシモーヌ夫婦に引き取られたが、使用人としてこき使われている。
唯一の心の支えは母の形見のペンダントだ。ところがそのペンダントが行方不明の王女の証だとわかり、トマスとシモーヌはレイラと同い年の娘ミラを王女にするため、レイラのペンダントを取り上げてしまう。
血などの描写があります。苦手な方はご注意下さい。
少年少女怪奇譚 〜一位ノ毒~
しょこらあいす
ホラー
これは、「無能でも役に立ちますよ。多分」のヒロインであるジュア・ライフィンが書いたホラー物語集。
ゾッとする本格的な話から物悲しい話まで、様々なものが詰まっています。
――もしかすると、霊があなたに取り憑くかもしれませんよ。
お読みになる際はお気をつけて。
※無能役の本編とは何の関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる