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第5笑『私は毒虫』4/4

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 あの子は体面を気にする子だったから、その件以来、意外とあっけなく壊れた。

 私に秘密を握られただけで体が震えるくらいだったんだ。

 ましてやそれが公開されれば、とても通常の精神状態ではいられないだろう。

 あえて公開まで一日時間を置いたのは、あの子にあえて苦しむ時間を与えたからだ。

 心が崩壊するまでには多少、熟成させる時間が必要だからだ。


 授業中も手が震えて。
 言動もおかしくなり。
 精神に不調をきたし。

 やがて転校して行った。

 おそらくあの子はお互いに秘密を握っていれば相手は何も出来ないと思っていたのだろう。

 だが、私は違った。

 容赦はしない。

 私に手を出したのがそもそも間違っていたのだ。

 毒には毒を!


 排除が完了した。



 ココロのウラをエグる。
 ニンゲンナラコワセル。


 私はそう確信した。

 意外と人を壊すのは簡単なのだ。

 私は自分から手を出せるような牙は持ち合わせていない。
 ただし、私に噛み付いた人間はただではすまない。

 猛毒を体内に宿した『毒虫』。

 それが私の通り名になった。

 その事件以来、私はクラス中の人間から意図的に無視されている。

 寂しいと思ったことは無い。

 干渉されるのは大嫌いだし、むしろその方が快適だから。


 観察者の立場を得た私だが観察を続けていて気になることがある。

 あのピエロマスターの存在とこの教室の異常な笑気。

 そしてあの子、ピエロ君の存在だ。


『ハンッグリッ! ハンッグリッ!』

 さっきまでテープでぐるぐる巻きにされても尚、笑顔を絶やさなかったピエロ君の姿が思い浮かぶ。

 何であんなにされてまで笑顔を絶やさないのか不思議だった。

 私だったら絶対いじめられている事に耐えられないから。

 もしかしていじめられていること自体に気付いていない?

 まさかそんな鈍感ではないよね。

 でも気になる。
 やっぱ気になる。

 気付けば私はピエロ君を目で追う様になっていた。


 そしてついに私は、その日の放課後、二人っきりになった時に物申してやった。

 誰もいない教室。

 ピエロ君が後片付けをしている。

 ガムテープを器用に巻きなおしてゴミ箱に捨てている。


 私はピエロ君に向かって言い放つ。

「よくそこまでいじめられて、心が折れないわね!」

 でも、ピエロ君はそんな私を気にもせず、堂々と言葉を返してきた。

「いじめられてる? そんなわけないじゃないか。僕はこの教室の笑いを作っている一団の一人さ」

「何よそれ……」


 絶句。

 本当にわけが分からない。

 この子頭おかしい。


「でもこんな方法でも誰かを笑わせることは出来るでしょ!」

 ピエロ君の発言に私は怒りがこみ上げてきた。


「いいか、三回言ってやる!」

 私は断言する。

「お前笑われてるんじゃないのか?」

 そうだよ!

「笑われているんだ」

 その通りだよ!

「絶対笑われている」

 間違いないから!

「笑わせてるんじゃない笑われているんだ! いい加減気付け!」

 思いの丈をピエロ君にぶつける。

 気付いて欲しいと信じて。


「それが? 何か?」

 でも彼はしれっと笑顔で言う。

「確かに僕は笑われている……その通りさ。でも、昔、ものすごく落ち込んでいた子がそんな僕の姿見て笑ったんだ。それを見て無性にうれしくなってしまって。だから僕はこのクラスで素人芸人……いじられ役を続けられているんだと思う」

 その言葉を聞いて私は理解に苦しんだ。

 そこまで自分を犠牲にして何が残るって言うのよ!

「何で分からないの!……ほんと、反吐が出るわ」

 本当に理解できない。

 人をいじめることでしか笑いを作れない集団……クソくらえ!



 私がクラスの笑いに憤りを感じ始めた頃……そんな時だ。

 私がピエロマスターの周りで不思議な現象を体験し始めたのは。
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