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第83話 表彰式

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「それでは表彰の準備に移りますので、しばしの間休憩です」

 メロディーさんの話では今から休憩らしい。
 表彰が始まるまでどれだけの時間があるかわからないが、とりあえず勝利の舞をしているうちの子たちのところへと向かう。

「まて」
「ん?どうしましたか?レオン殿下」
「その大鎌はなんだ?なぜ俺に攻撃が当たる」

 すごい形相で俺に詰めってきたレオン殿下。
 すごく怒っているようだが、別に教えなくてもいいんだけど……
 レオン殿下も契約時に代償のこと教えてくれなかったよね?
 あまり根にもたないタイプだけど、代償が大きすぎるからね。今回は根に持たせてもらう。
 ただ、何も言わないのも問題になりそうなので。

「大鎌のせいではありませんよ。んー。契約のせいで言えることは見えない物には注意してくださいぐらいでしょうか」

 笑みを浮かべ、レオン殿下に返答する。
 契約で話せない内容が多いからね。これ以上は怖くて言えないということにしておこう。
 口止めしたあんたが悪いんだぞ?

 レオン殿下の表情は変わらないが、契約のことを出されるとすこし悔しそうな雰囲気を出している。

「それなら二人だけで話そう」
「申し訳ないですが、お断りします。俺はそのことについて一切口にしませんし、紙にも書きません。契約では他者に伝えるのは禁止みたいですし、レオン殿下も俺からすると他者になりますので、伝えることはできません」
「そのことなら気にするな。俺には話しても大丈夫だ」
「すみません。リスク管理のため生涯それに触れたくありません」

 きっぱりと拒否の意思を伝える。
 レオン殿下は目を見開いて、驚き悔しそうな顔をしているが。
 俺は騙されないぞ?あんたは俺の魔力のことなんか一ミリも考えちゃいない。
 レオン殿下は俺が契約違反で魔力が使えなくなるとしても、攻撃を受けた理由を聞き出したいのだろうが。
 こちとら、ネットで詐欺が溢れかえっている世界出身なんでな。
 そういう言葉の言い回しも気を付けているんだよ。
 残念だったな。物理的な戦いが少ないからこそ、この世界より地球は言葉の戦いが上手いのだ。
  
「ソーラー」
 
 うちの天使が俺めがけて飛んでくる。
 モコの上から飛んだのだが、このままでは俺に届く前に地面に落ちてしまいそうだ。

 即座に風魔法を発動し、ティナの体を浮かせる。
 俺の風魔法とほぼ同じタイミングで、ティナが結界に包まれ、落下地点には水の塊が生まれ、黒い毛のしっぽにつかまれる。
 これぞ三匹と一人の完璧なコンビネーション。
 ティナはいきなり様々な魔法に包まれたので、びっくりしていたが、すぐに楽しそうな顔になる。
 無邪気に楽しんでいる姿を見ていると、何とも言い難い幸せな気持ちになる。
 が、さすがに危なかったので今回は注意しないとな。

「こーら。モコから飛んだらあぶないでしょ?だめだよ?」
「うー、ごめんなさい。でもソラが勝ったのが嬉しくてっ」

 様々な魔法から解放されたティナは謝りながらも俺に抱き着いてくる。
 あー。武闘大会に出てよかった。
 褒美なんかもうどうでもいいな。これが俺にとって一番の褒美だ。
 この天使の笑顔に勝るものを俺は知らない。

 ステージ近くで観客の視線を全く気にせず、うちの子たちとの時間を満喫していく。


「それでは表彰の準備ができましたので、ソラ君とレオン殿下はステージ上に集まってください」

 うちの子たちと触れ合っていると、メロディーさんから集合の連絡がくる。
 どうやら表彰されるのは優勝と準優勝の二名だけみたいだ。
 ティナの希望で参加した武闘大会だったため、褒美のことなど考えていなかったが、毎年何をもらっているのだろうか。
 いまさらだけど、すこし楽しみになってきた。

「それでは表彰を始めます」

 メロディーさんの声で表彰は進められるらしいが、目の前には知らない金髪の男性。高級そうな純白のコートに身をつつみ、静かに立っている。
 その横を護衛するかのように、白と金で作られた鎧を纏って立っている騎士数名。
 王宮でも見たことない鎧だな。

「では、まずレオン。こちらに来なさい」
「はい」

 横にいるレオン殿下がそのおじさんの言葉を聞き、即座に行動に移る。
 皇子様をレオン呼びが許される人……
 そういえば、皇帝から直々に褒美をもらえるんだっけか?
 確かそんなことを聞いた気がする。
 
 だったら、今、目の前にいる金髪ダンディーなおじさんが皇帝なのか。
 王様のイメージなんてものはもともとなかったが、案外こうやって見ると普通のおじさんと変わらないな。
 もちろん、服やアクセサリーは豪華な装備品だけどね。
 レオン殿下ほどの存在感は感じない。これはレオン殿下が俺の想像する理想の皇子様像に近いからなのかもしれないけど。
 
「決勝戦見ておったぞ。これでわかっただろう?お前は最強ではない。世界は広いのだ。十歳の子供でもこれほどの才能を持ち合わせた者がおる」
「ですが、去年は優勝して今年は準優勝です」
「それはわかっておる。お前の力を否定しているわけではない。ただ、戦闘では上がいる。それに力だけで負けたと思うのではないぞ?試合中に頭を働かせ、答えを導きだす思考力。その冷静な思考力は身につけようとして得れるものではない」

 二人の会話を聞いているが、なぜか皇帝からべた褒めされている気がする。
 皇帝はレオン殿下を諭すように話しているが、王族間でどのような話し合いのもと武闘大会にでているのやら。
 レオン殿下は皇帝の話を聞いて悔しそうに表情を歪めている。

「ワシはお前たちのやりたいことをやらせてきた。だが、お前の思考はどうにも戦闘に走りすぎだ。王族たる者。戦いのことだけ考えているわけにいかない。国としての行動の中で戦いは最終決定だ。そのことをゆめゆめ忘れるでないぞ?」
「それは理解しております。ただ、初代皇帝のように力の象徴は必要です。俺は初代皇帝のような皇帝になりたい」
「うむ。その気持ちは理解した。だが、お前はもっと見識を広めなさい。世界は広い。力の使い方を誤れば、取り返しのつかないことになる。もっと精進しなさい。ではこれで以上だ」

 これって武闘大会の表彰式だよね?なんだ?
 話が王族のことだけだけど……
 もしかして王位継承権の争いでもしているのか?
 皇帝直々の王族たるお話しを聞かされたが、これを闘技場にいる観客に聞かせてよかったのだろうか。

 観客も静かに聞いていたが、二人の握手が終わると、レオン殿下の健闘を称える声が聞こえ始める。
 王族の知識がなにもない俺には何が何だか。
 まあ、あとでフィリアにでも聞いてみよう。

「では、ソラ・カゲヤマ。こちらに」
「はい」
「さきほどの戦闘見事だった。よくぞ、息子をわからせてくれた。感謝する」

 皇帝は少し頭を下げ、俺への感謝を述べている。
 いやいや、なにしているの。
 皇帝が簡単に頭を下げないでくれ。礼儀などがわからないからとりあえず、俺も身をかがめ、頭を下げる。
 
 これであっているのか? 
 頭を少し上げ、ちらちらと様子を伺うが、皇帝の横にいる騎士さんは何も表情を変えていない。
 怒ってはいないかな?

「もうよいぞ。それよりも無色透明の魔法を使うらしいの。前から透明について研究させているが、魔法だけと言っても成功させたものはおらん。誰から教わった?」
「えーっと。独学です。師匠はいますけど、ほとんどのことは自分で研究しました」
「独学だと?透明な魔法も自らが編み出したと申すのか?」
「はい」

 透明魔法について聞かれているが、ここ公共な場なんだけどな…… 
 戦闘を見ている人なら気づいている人もいるだろうけど、言葉として発せられるとみんなに知れ渡るじゃないか。
 もう、個人情報保護法を作ってくれ。
 魔法に関しては命に関わるんだからな?

「どのように透明を作り出した?」

 瞳孔を開き、俺を見つめてくる皇帝。
 なんか楽しそうだが、皇帝さんも魔法が好きなのかな?

「どのようにと言われましても、イメージして魔法を発動させているだけです。私の魔法は風なので、目に見える方がおかしくないですか?ほら、今吹いている風も無色透明でしょ?そこには確実に風はあり、物理的にも干渉することができている」
「なるほどな。風魔法と自然の風を同一視、そのイメージで魔法を発動。頭が柔軟な子供だからできる発想か。では、風以外だと透明にはできないか?」

 皇帝がぶつぶつと魔法論を話しているが、そもそも魔法がなかった世界出身には風といったら無色透明でしかないんだよ。
 緑色の風とか、アニメや漫画で知っているだけだからね。
 
「火だと透明は難しいかもしれませんが限りなく、透明にはできると思います。水は水蒸気にできるなら、できますけど。どうなのでしょうか。俺の魔法が風だけなので、他の属性のことはわかりません」
「ふむ。やはりできないことはないのだな。初代皇帝のスキル透明でないとできない芸当だという者もおったが、やはりわしは正しかったの」

 ほー。初代皇帝さんのスキルは透明なのか。
 そりゃー建国もできるわけだ。体が消えるだけでもチートに近いが、どこまで透明にできるかでまたチート度が変わってくる。
 皇帝さんの話からすると、魔法も透明にできたようだし、チートすぎるんだろうな。
 見えない魔法は最強です。
 まあ、俺が使えるからあんまこんなこと言いたくないが、透明は卑怯だ。
 
「すこし話がそれたの。褒美の話をしよう。ソラのことを欲しがっている騎士隊がおったから騎士として雇おうと思ったが、話を聞いてそれはやめた。王宮の研究者としてソラに一室を与え、そこの室長に任命する」

 威厳のある声で高々と宣言する皇帝さん。
 周りの観客もその声を聴いて、大歓声。闘技場が拍手に包まれる。
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