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第56話 零番隊は変人の集まりなのだ

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クロエさんについていくと広い運動場みたいなところについた。

「ここが騎士や魔法士が訓練で使う訓練場よ。周りに騎士がいるけど気にしないでいいから」

 気にしないでいいというが視線がこちらに集まっているんですけど。
 それに一人騎士がこちらに歩いてきているように見える。

「クロエ、今度はなにするんだ」
「話しかけないでもらっていい?あなたのこと嫌いなの」
「なっ。人をバカにするのもいい加減にしろよ」

 近づいてきた男性はクロエさんに対して文句を言っている。
 でも、クロエさんはそれをまったく取り合っていない。
 状況はまったくわからないが、とりあえず仲が悪いということはわかった。
 人に嫌いと伝えるのはどうかと思うけど……

「ガキなんか訓練場に連れてくるな。騎士を愚弄しているのか」
「ここは魔法士も使うでしょ?あなたの少ない脳みそにはなにも入ってないのかしら。だから回復魔法もロクに使えず、私に近接でも負けるのよ」
「貴様、もう我慢ならん。決闘だ。杖を持て」

 あーあ。怒りだしちゃった。
 話を聞く限り、以前はクロエさんがボコボコにしたのかな?
 ん-。見た目だとどっちが強いのかわからない。
 やはり男性の方が圧倒的に体の筋肉が発達しているので強そうには見えるが……。
 
「嫌よ。私は今からこの子に回復魔法を教えるから。あなたに構ってあげる暇なんてないの」
「なっ。俺には教えないくせにそのガキには教えるっていうのか」
「そうよ。あなたより才能はあるわ。回復魔法は知識だけじゃダメなのよ。どれだけ頭がよかろうと関係ないの」
 
 もっとオブラートに包めないのかね……
 ボロカス言われている男性はクロエさんから目を外し、ティナの方を睨みつける。

「やめてくれないかな?うちの子が怖がるだろ?」

 睨みつけた瞬間に、地面を蹴り、男性の後ろに回りこんで声をかける。
 首元には大鎌の刃が寸前のところで止められている。

「なにっ」
「聞こえなかったか?うちの子をにらむな。このまま胴体とおさらばしたいか?」
 
 遠くから騎士が集まってくる音がする。

「何をしている」

 赤髪の顔に傷がある男性がこちらに声をかける。

「ジェイド。またスールが絡んできたのよ。もうこいつどっかに飛ばしてくれない?」
「またお前か、クロエ。で、大鎌を持っている子供は誰だ?できれば、大鎌を首から外してほしいのだが」
「あー、その子は教え子のお兄ちゃんでソラっていう子よ。その状況はスールの自業自得だからその子にお願いしてみたら?」

 つい、体が動いてしまったな。ティナのことになると頭を動かすより先に体が動いていしまう。
 周りに人がいることを忘れていたよ。
 
「ソラというのだな?刃をおさめてくれないだろうか」
 
 赤髪のジェイドと呼ばれた男性は俺に問いかける。
 まあ、スールっていうやつがもう睨んでないからいいか。
 
 そのまま大鎌を首から離す。

「ありがとう。で、どうしてこんな状況になった?スール」
「ジェイド隊長。申し訳ありません。クロエの軽口に乗せられて、どうやらこの子を怒らせてしまったようです」
「お前が悪いのだな。ソラ。何に怒っているのか教えてくれないか?」
「うちの子を睨んだからな。つい、体が反応してしまった」
「それだけか?」
「それだけ?……へー、面白い意見だ。あなたたちの命より重いと思うんだけどな?なんでそんな風に思えたの?すごく気になる。今後の参考にしてみるからさ、教えてくれないか?試しに死んでから考えてみる?」

 抑えている魔力を全開で開放し、騎士たちを囲むように、空中に風で作られた無数の刃、槍、剣、矢を生み出していく。

「ほぉー。綺麗なものだ」

 ジェイドはそう呟くと、ただただ空中に現れた風魔法を見上げている。
 周りの騎士は剣を抜き、警戒を示しているが。

「ソーラ。怒っちゃダメ」

 俺の右腕に温かい感触とともに、ティナの可愛いらしく怒る声が聞こえる。

「ごめん。わかったよ」

 俺は魔法の発動をやめる。
 すると、様々な武器に形どられていた風がそよ風として空中へと消えていく。
 右腕に抱き着いて、すこしふくれているティナのほっぺをツンツン。
 
「ソラ。くすぐったい」
「こちょこちょー」

 うちの天使は今日も天使でした。心が広い天使さんだ。
 テトモコシロも近寄ってきてうちの子たち全員でくすぐりあいが始まる。
 テトモコシロはしっぽをつかってくすぐってくる。
 これが意外にも結構くすぐったいのだ。

「あの、ソラ?ティナちゃん?従魔の子たちもそろそろいいかな?」
「ん?」

 クロエさんの声が聞こえ、周りを見渡すと、周りを囲む騎士が呆然としてこちらを見ていた。
 やっべ。ティナが天使すぎて周りが空気とかしていた。
 これはティナのパッシブスキルだ。
 俺とうちの子たちがいる空間内では、他者を空気とし、干渉できない使用となる。
 もちろん嘘だが。

「あー。ごめんなさい。で、どうしたの?」
「いや、こっちが聞きたいんだけど……もう怒ってないの?」
「うん。ティナに言われたし」
「ルイが手紙で教えてくれたとおりなのね。ふざけてるのかと思ったわ」

 ルイが何を書いたかは知らないが、内容は頭に浮かぶよ。
 どーせ、うちの子のためなら何でもするとかだろ?
 当たり前なことを書くなよ。取扱説明書じゃないんだから。

「あー、ソラ悪いな。怒らせることを言ったみたいだ。それにしてもすさまじい魔法だな」

 赤髪のジェイドさんが謝ってくるが。正直、ちょっと理不尽だったかもしれない。
 普通の人にとってはただの睨みだろうし。
 
 でも、向ける相手によっては睨みもまずいものだろ?
 王様に睨んでみろよ。ひどい国だと不敬罪で死刑じゃないか?
 なら、俺の行動は悪くないはず……
 
 そんな自己肯定を行っている間にもクロエさんは我関せず、ティナに魔法を教えているようだ。
 うちの子たち全員はクロエさんの近くにかたまっている。

「魔法は得意なんだ。お騒がせして申し訳ないです」
「冒険者をしているのか?」
「そうだよ」
「王宮で働かないか?大鎌の使い方も見事だし。魔法士としても優秀だ。それに、面白い思考をしている。そういうやつは大体バカだが、仕事に関しては絶対にやり遂げる。俺の部下に欲しい」

 うわぁ、いきなりジェイドさんに告白されたよ……
 第一印象は絶対よくないと思うんだけどね。会って、速攻で魔法をしかけたんだし。
 もしかしてジェイドさんってM……?
 
「変なことを考えていないか?」
「いえ、遠慮します。権力の巣窟では働きたくありません」
「権力の巣窟か……それは嫌われたもんだな。否定はしないがな」

 豪快に笑いながらも、俺の拒否の言葉を受け取ってくれる。
 
「気が変わったらこの手紙を王宮に持ってきてくれ。即入隊させてやる」

 そういうと手紙を俺に渡してくる。
 あれー?何もしてないのに、再就職の道が開いている。
 とりあえず、もらえるのならもらっておこう。

「中みていい?」
「あー、いいけど。静かに読めよ」

 中を開いて読み始める。
 
 なになに。ほー。この人が零番隊の隊長さんか。
 そこには、零番隊への推薦と赤文字で大きく書かれていた。
 そして、零番隊隊長の名前がジェイド・マリントと書かれている。
 手紙は門番に渡さず、ジェイド・マリント宛の手紙だと言えば、王宮に入れるようになるとも。

 再度ジェイドさんに視線を向ける。
 ふーん。この人がルイの上司か。なんかも思いっきりがいい人だな。
 訓練場にいきなり現れた少年にその日のうちに隊への推薦をするのか。
 零番隊は一応エリート部隊だと思うんだけどね。
 まあ、そういったところには変わった人が多いのかな?
 ルイも変だし。

「手紙ありがと。困ったら使わせてもらうよ」
「それぐらいでいい。今は冒険者を楽しんでくれ。そういや、ルイの知り合いらしいな。元気にしていたか?」
「初対面の俺に剣を向けるぐらいには元気にしているよ」
「ちゃんと仕事をしているのだな。それはよかった」
「……剣向けたことを怒ってもいいと思うんだけど。見て?か弱い少年なんだけど……」
「ソラがか弱いなら、ここにいる騎士の大半が幼児レベルだ。化け物が来たと思って訓練場に来てみればそこにいるのがソラだったよ」
 
 ジェイドさんは声をあげ笑っているが。
 ルイも、ジェイドさんも人を化け物判定するなよな。

「もういいよ」
「おう、じゃー、ソラも元気でな。仕事に戻るわ」

 そういうとジェイドさんは訓練場を後にする。
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