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第33話 気を取り直して

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 翌朝、俺たちはスレイロンの西側の門に集合している。

「ソラ、ティナちゃん準備はできているの?」

 今日も元気に黄色のワンピースを着ているフィリアが尋ねてくる。

「できているよ」
「できてるっ」
「きゅうー」

 ティナとシロもご機嫌に答える。
 昨日一日フィリアといたので、俺もそれなりにフィリアとの仲は深まった。
 フィリアが敬語禁止というので、俺はそれに従っている。
 まあ、もともと敬語なんて苦手だし。
 フィリアのことをフィリアさんと呼ぶと怒ったような、悲し気な顔をされるので、呼び方もフィリアに固定した。
 もちろん、ティナはフィリアおねえちゃんのままだ。
 
 今日はティナもシロローブを纏い、防御力を上げている。
 ローブができてから、初めて街の外にいくので、喜々として着ていた。
 フィリアにとっては攻撃力が上がっているが、これには慣れるしかない。
 何をどうしようとも、ティナの可愛さは変わらないのだから。
 
 だからといって、ティナよ。
 フィリアの前でシロを抱き、兄弟みたい?と問うのはやめてあげてくれ。
 外だからか、気丈にふるまっているが、辛いことには変わりがない。

「はいはい、ティナとシロは兄弟に見えるよー」
「きゅううー」

 シロも大喜びだ。
 ティナの腕のなかで、四つのしっぽが揺れに揺れている。

「もう、シロちゃんじっとしてて。くすぐったいよー」
「……早く私も従魔が欲しい」

 フィリアが恍惚とした顔でつぶやいている。

「ソラ君、ティナちゃん、フィリア様のことをお願いしますね」
「はい、無理しないように見ておきます」
「はぁーい」

 セバスさんは今回も見送りに来ていた。
 正直、セバスさんにはついてきてほしいが、エドさん専属だから来れないらしい

「では、行くわよ」

 フィリアが馬車に乗り、俺たちを招く。
 馬車の中には、フィリア、メイドのサナさん、そして俺たちだ。
 同行するお付きの騎士は五人で、それぞれ馬に騎乗するらしい。
 外で俺たちも護衛したほうがいいかと訪ねたが、必要ないと言われた。
 街道にあまり魔物もよってこないし、騎士がいる馬車は貴族の馬車だから、盗賊もあまり狙ってこないらしい。
 商会の馬車の方が、リスクも少なく、現金収入になるそうだ。
 小説でよくある貴族の馬車を狙う盗賊って何目当てなんだろう。
 貴族相手に身代金目的?
 まあ、金は持っているだろうが、俺が貴族なら、全勢力をもって叩き潰しにいくけどな。


 
 俺たちの乗せた馬車は門をでて、街道を進んでいく。
 この方面は、コトサカ草原のダンジョンがある街道だな。
 周りは草原がつづいており、馬車の中もここちいい風が吹いている。
 
 テトモコはスレイロンをでて早々に、馬車からおり、草原を走り回っている。
 街中では、あまり走らせてやれないからな。
 シロは朝が早いため、ティナのお膝で寝息を立てている。
 そんなティナも俺の肩に寄りかかり寝ている。

「フィリアはいつも何をしているんだ?」
「いつもは学校に通っているわよ?今は春休みなの」
「学校?」
「そうよ、帝都にあるクリスタル学園ね」
「学校なんてあるんだな」
「何を言ってるのよ。どこの国にもあるでしょ?」
「そ、そうだな。忘れてたよ」

 そうか、学校か。
 ティナは五歳だからわからないけど、いつごろから行くんだろう。

「フィリアの年齢の子が多いのか?」
「んー、ある程度お金が必要になるから、全員ではないけど、結構通っているわ」
「何歳から入るもんなんだ?」
「クリスタル学園は十一歳から十五歳が多く通ってるわね。」
「十一歳からなのか」
「なに入りたいの?」
「いや、俺は入らないよ。ティナがさ、どうゆうかなって」
「貴族の子だったら入る子は多いわね」
「なるほど」

 通わせてあげた方がいいかな?
 その場合俺は帝都に住む可能性があるのか。
 これは帝都を見に行かないとな。

「ちなみ、学校は長くても五年よ」
「どういうシステムなんだ?」
「一年ごとに卒業資格はあるわ。いろんなことを学べるけど、人気があるのは、魔法、近接、遠距離武器などの戦闘が学べる教室、マナー、手芸、歴史などが学べる教室、計算や商売に関係する内容が学べる教室ね」
「なるほど。まあ、どうせまだ五年も先の話しか」
「そうね、その間にどんなことをするかで学校への興味が変わるしね。冒険者してたら、そのまま冒険者を続ける可能性が高いかも」

 確かにそうかもしれない。
 
 現在ティナが興味あるものは、ご飯に、読書、テトモコシロに回復魔法。
 あと何かあったかな。
 服もワンピース着るとき以外、最近はテトモコシロパーカーにはまっているし。
 あ、そういえば、宝物集めていたな。宝物が魔物の素材だけど。
 思いつくのはそれぐらいか。
 というか、まず、学校に行ってどんな仕事につながるかも知らないな。
 
「フィリアは将来なにするんだ?」
「私?私は結婚して、領地経営かしら」
「結婚するの?」
「ほとんどの人はするでしょ。私は一六歳になったら、婚約者と結婚するつもりよ」

 一六歳で結婚か。早いな。
 そういえば、一五歳が成人になる年だと聞いたことがある。

「友達とかはどうするんだ?」
「騎士になる人、魔法研究する人、帝都で文官として働く人とか様々かな。商会を立ち上げる人もいたかな」

 結構いろんな人がいるらしい。
 ティナはどんな未来を歩んでいくのだろう。

「ソラはどうするの?」
「俺は冒険者として世界を巡ってみるかな」
「ずっと?」
「んー、おじいちゃんとかになったらしないだろうけど、若いうちはそうかな」
「ふーん。ティナちゃんはいつぐらいに結婚するんだろうね」
「え……」

 こんな可愛いうちの天使が??
 今も、俺の肩に頭を乗せすやすや寝ている天使が?
 ありえない。
 天使だから可愛いくて、性格がよくて、頭もよくて……
 はっ、欠点がないティナはモテル。
 このままでは、お兄ちゃんを捨てて、結婚してしまう……

「そんなこの世の終わりみたいな顔して。バカじゃないの?」 
「うー」
「ティナちゃんはいい子だし可愛いし、当たり前でしょ?お兄ちゃんなら喜んで祝福しなさいよ」

 頭では理解しているが、心が理解したくないと叫んでいる。

「ソラっ?」
「おっ、おはよ」
「ん、お腹すいた」
「そうね。そろそろ、お昼にしましょうかね」

 考えるのはやめよう。
 タラればを考えても意味ないよね。
 現実逃避ではないよ。決して。

 街道を少しずれ、草原に馬車を止める。

 フィリアたちのご飯は、サンドウィッチらしい。
 マジックバックから取り出して、メイドのサナさんが配っていた。

 俺たちも影収納から、昨日作ったスープと屋台の肉串、パンを食べていく。
 スープは温めた状態で収納したので、そのままの温度を保っている。
 肉串は、バーベキューコンロで温めなおしだ。

「な、なんで出したばっかの鍋が温かいの?」
「ん?厨房で火を入れているところから収納したら温かいでしょ?」
「も、もしかして、ソラの収納って時間停止?」
「うん、マジックバックもそうでしょ?」
「そんなわけないでしょ。時間停止付きのマジックバックなんて王族ぐらいしか持ってないわよ」

 まじか。
 うちのマジックボックスが時間停止だったから、この世界のマジックバックは時間停止がデフォルトだと思っていた。
 それに、影収納も時間停止だったからな。
 時間経過が普通だと思ってもみなかった。
 
「えっと、食べる?」

 時間経過するってことは作らないかぎり、温かい食事なしってことだよね。
 スープでもあげよう。

「食べる」

 真っ先にフィリアが答える。
 皿ならいっぱいあるし、騎士の人とサナさんにもあげておこう。

「だから、一昨日、屋台にものすごい量注文してたのね。テトモコシロちゃんがすごい量食べるもんだと思ってたわ」
「さすがにそんなに食べないよ。それだと食費で金が全部とんじゃう。収納の中に二週間ぐらい分の料理はあるかな」
「うらやましいわ」
「食材もあるし、夜に時間があれば、即興でなんかつくるよ」
「それは助かるわ。依頼料に食費代もいれておいて」

 そう、サナさんにフィリアが言うと、サナさんは今回食べているスープ代金を紙に書き始めた。

「ソラ君、これぐらいでいかがですか?」

 そこに書かれているのは、屋台のおよそ二倍の金額。
 こんな素人がつくったスープに出す金額ではない。

「もらいすぎです。半分で結構です」
「でも、外での食事はそれほどの価値があります」
 
 サナさんは臆すことなく、自分の意見を言う。
 この人意外に気が強い。

「ソラ、うちでは水の魔道具のおかげで、水には困らないけど。水の魔道具が買えない冒険者なんかは水ですら貴重なのよ?こんぐらいもらいなさい」

 なぜかフィリアに怒られているんだけど、なんでだ?
 
 俺たちは、魔道具さえいらず、ずっと移動中はテトのだした水を飲んでいた。
 ただ飲み水を出すだけなら、テトの魔力自然回復量の方が多いんじゃないだろうか。
 すなわち、ほぼ無限に水が飲める。

「にゃー」

 フィリアの水の話を聞いてか、俺の頭の中を読んでか知らないが、テトが水を皿に出し始めた。

「あら、テトちゃん水魔法が使えるのね。……はっ、聖水」

 慌てて、飲もうとするフィリア。
 もう、バカはスルーだ。
 あの状態のフィリアにかまっていると、何回ツッコミすればいいかわからなくなるからな。

 フィリアにも怒られたことだし、おとなしくサナさんの言い値で売ることにした。
 依頼料に上乗せしてくれるので、こちらとしても、手間がなくて助かるよ。

 無事?に食事を終え、再度馬車を進める。   

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