赤い糸のさきに

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◇

「紡久？　もう放課後だぞ」

　どんよりとした心に、突然爽やかな風がふきこんで、ハッと顔を上げる。
　俯いた俺の顔を、希輝の整った顔が心配そうに覗いていて、どきりとした。
　周りを見渡せば、人が去ってから大分経つのか、部屋の温度も心なしか冷たい気がする。

「いつの間に……」
「前の席に座っても全然反応ないと思ったら。なにか考え事か？」
「そう！ それなんだけど」

　勢いよく立ち上がれば、椅子が存在を主張するかのように大きな音を立てた。
　その音に少し冷静さを取り戻して、慌てて席に座り直す。
　俺の狼狽えぶりにまぶたを開閉させた希輝が、次の瞬間には肩を揺らして笑った。

「そんなに慌てなくても、俺は逃げないよ」
「……知ってる」

　仏頂面になった俺に何を思ったのか。笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭った希輝が、ずいっと身を乗り出す。

「話聞こうか？」
「最初からそのつもり」
「はは。じゃあ今日はもう帰るだけだし。どこかで食いながら話そう」

　床に置かれていた鞄を手に取った希輝が、満面の笑みを浮かべて、また厄介な心臓がドキリと音を立てた。