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「正直に言うと、あの子とは繋がってない」
「……そうか」
「でも、相手はいて――っ」

 ふらついた友樹がペンケースを手に取ったかと思えば、ハサミを手にしていて、顔から血の気が引いた。

「友樹……!? 何して」
「あの子と繋がってない赤い糸なんか、俺は要らない」

 友樹には見えていない筈なのに、刃先はしっかりと赤い糸を捉えていた。
 止めようと手を伸ばすも、友樹の指先が動く方が早く、刃先が閉じた瞬間に赤い糸がプツリと消える。

「そんな」

 絶対に切れないからこその運命の赤い糸だと思っていたのに、呆気なく消えた糸に呆然とする。

「友樹? 大丈夫なのか!?」

 思わず両肩を掴んで揺さぶれば、胡乱な目を俺に向けながらも片頬を上げて皮肉に笑った。

「なんだよ、そんな必死な顔して。紡久らしくもない。まさか本当に赤い糸が存在するわけでもあるまいし」

 小指をぷらぷらと揺らした友樹に何も言えなくなりながらも、視線は赤い糸があった筈の箇所から目が離せなかった。

「とりあえず、さっきも言ったけど。俺は今の彼女と繋がってない赤い糸なんか信じる気もないし、いらないと思ってるから」

 氷のような冷たい表情を浮かべながら、自分の席へと戻って行った友樹を追っても、きっと何も言えない。
 全てを拒絶するような背中を、ただただ見つめていることしか出来なかった。

「あんな、簡単に……」

 俺と希輝に繋がる赤い糸も、あんな風にハサミ一つで簡単に切れてしまうものなのだろうか。
 赤い糸を断ち切ったのは友人なのに、自分と希輝の未来を見たようで、胸がえぐれたかのように痛んだ。
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