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「そんな……すれ違っただけだろ?」
「いや。俺たちの目の前で転んで、彼女が助けたんだよ」

「あいつなんだけど」と言いながら、窓の下を指差した友樹の指の先を視線で追う。
 前髪は目にかかるくらい長く、なんだか野暮ったい丸眼鏡をかけ、漫画が沢山詰まってそうな大きいリュックを胸に抱えた男子が、昇降口へと吸い込まれていった。
 一瞬しか見えなかったけど、視線はキョロキョロと落ち着かなく、おどおどとしていた気がする。

「人の彼女を横取りしそうな子には見えなかったけど……」
「それはそうなんだけどさ」

 俺には友樹の彼女とも、あの男子とも深い縁がないから、二人が赤い糸で結ばれているのかどうかを確認する術はない。
 それでも、暗いまなざしで窓の外を眺める友樹を励ますことだけはしてあげたかった。

「……めちゃくちゃ唐突なことを聞くけど、友樹って運命の赤い糸とか……信じる?」
「は?」

 本当に唐突だなとでも言いたげな視線に恥ずかしくなりながらも、友樹の小指を指した。

「ほら。よく小指には、運命の人と赤い糸で結ばれてるって言うじゃん」
「……それが、なに」
「俺には友樹の赤い糸が見えてるって言ったら、信じるか?」

 ドキドキと心臓が早鐘を打つのを感じながらも瞳を見つめたら、友樹の表情のかげりが増す。

「信じるか信じないかは置いておいて、紡久からしたら、俺の赤い糸は彼女に繋がっているのか?」
「それは……」

 あまりにも暗い表情を見せるから、正直に言うか嘘を吐くか迷いかけたけど、嘘を吐くために打ち明けたわけじゃないと思いなおす。
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