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「ま、まあいいや。とにかく、希輝がそんなに嫌がるなら俺ももう彼女をつくろうとかしないよ」
「本当か」
「そもそも、作ろうとして出来るものでもないしな」

 腕を組んで、うんうんと頷く俺の前で、希輝が瞳を輝かせた。
 嬉しそうな顔がなんだか癪に障って、ずいっと人差し指を突きつける。

「そのかわり、希輝も無理しないこと」
「え?」
「もう俺の代わりに彼女を作ろうとして、愛想をふりまいたりしなくて良いって言ってんの」

 顎に指をそえて、考える素振りを見せた希輝が小さな声で「確かに」とつぶやいた。

「そうだな。それなら、女子と無理に会話をする必要もないし、その時間を全て紡久に割けるな」
「は? なんで急に俺?」
「分からないけど、そうしたいと思った。初めて出来た……友達だからかな」

 今なにかを誤魔化されたような気がしたけど、希輝が柔らかく目元を細めた瞬間、ふわりと優しい風が吹いた気がして何も聞き返せなかった。
 なんだかドキドキして、焦点が希輝の顔へと定まらなくなる。
 泳いだ視線が、自然と希輝の指に結ばれた赤い糸に止まって、とてもいたたまれない気持ちになった。

「希輝さ、あんまりそういうこと、他の人には言わないほうが良いよ」

 口を尖らせれば、不思議そうに希輝が首をことりと傾ける。

「紡久以外に言うわけがないだろ」

 一点の曇りもない澄んだ瞳で言われてしまえば、何もいえなくなり、ますます俺の顔に熱が集っていった。
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