上 下
10 / 56

10

しおりを挟む

「母さん、これが見えてる!?」
「やあね。もう今は見えないわよ。紡久を産んだ時には薄っすらと消えかかっていたし、この子を産んだ時には綺麗サッパリ見えなくなったわ」

 妹を指さした母さんが、少し寂しそうに笑った。
 バッサリと切られて落胆しそうになったけど、その発言だと昔は見えていたということだ。
 暗闇の中に一筋の光が差し込んだ気がする。

「不思議だったわあ。私と縁が出来た相手のだけ突然見えるようになってね」
「たしかに……」

 俺の友達と、俺の小指に結ばれた赤い糸だけ見えていた気がする。
 そうじゃなければ、きっと廊下は赤い糸の海になっていただろうし、俺の気も狂っていただろうから、ホッとした。

「これって、俺にしか見えないのか」
「正確には紡久と紡久の運命の相手以外にはね」
「は!?」

 また爆弾発言が飛び出してきたせいで、自分でも驚くほどの大きな声が出た。
 妹が驚いた顔をしたから、慌てて小さな頭を撫でて作り笑いを浮かべる。

「俺のうんめ……糸の先のやつには見えてなかったみたいなんだけど」
「最初は私もそうだったわよ。だけど、ある日突然……そうね。お父さんと手を繋いだ次の日には見えてた気がするわ」

 やっぱり、母さんの赤い糸の相手は父さんなのか。
 この糸が運命の赤い糸という線が再び濃くなってきて、つい頭を抱える。
 さっきまで見えていた一筋の光が、暗闇にかき消されていった。

「それで、紡久の運命の相手はどんなこだったの? 可愛かった?」

 母さんの一言がとどめとなって、力なく床に倒れ伏せば、母さんと妹が不思議そうに首を傾げた。
 可愛いとか可愛くないとか、それ以前の問題で、男だったなんて言える筈がない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。 そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。 そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。 気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。 それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。 魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。 GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く、が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

処理中です...