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春吉
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「おうい、俺は隣の国からやってきた妖怪退治屋だ。君たち、ちょっと今いいかな?」
妖怪退治屋、と聞いて、やんちゃな目がきらりと光った。
「えー!お兄ちゃん退治屋さんなの!?」
「すげえ、初めて見たー!」
「うわー、籠背負ってる!中に弓矢が入ってるんだよ、俺知ってる!!」
わいわいと集まってくる少年たちに、葉助の顔がほころんだ。背後で途方にくれた顔をしている役人には構わず、かがんで子供たちに目線を合わせる。
惚れ惚れとした眼差しで見てくれる彼らに、心がこそばゆくなった。
見とれてしまうのは、こちらのほうだよ。
・・・・・・・・・・・・?
思わず葉助は己の胸の辺りをぎゅっと押さえる。
―――なんや、今の。
一瞬だけ降って湧いた感情を、葉助は上手く処理できずに戸惑う。固まる葉助をよそに、子供たちは興奮した面持ちだ。
「退治屋のお兄ちゃん、どうしてこんな村に来たの?」
「・・・・・・あっ、もしかして!あの山にいるお化けを退治しに来たんだ!ねっ、そうでしょお兄ちゃん!」
変声期を迎える直前の、涼やかでどこか地に足がつかない、夢の中にいるようなふわふわの声色。
甘く甘く葉助の鼓膜をくすぐった。
どうしてそれがここまで心地よく感じるのか、自分でも訳がわからない。
―――俺は、・・・・・・一体?
どうして。どうして、もっともっと聞きたいと思ってしまうのだろう。どうして、この声に抗いがたく魅力を感じるのだろう。
どうして、彼らの声が俺の心の奥深く・・・・・・、硬く閉じた門に手をかけられるような感覚を起こすのだろう・・・・・・。
何か恐ろしいような、どうあがいても太刀打ちできないようなものを自分の中に感じながら、葉助は自分を納得させられる理由を探す。
―――そ、そや・・・・・・。暑さのせいや。
暑さで頭がぼうっとしていて、無邪気に遊ぶ少年らを見て自分の幼い頃を連想したに違いない。懐かしさと切なさで、彼らに憧憬の目を向けてしまったのだろう。彼らに自分の過去を重ねて、もう帰らないあの日々を思い出したことで彼らの笑顔に惹き付けられたに違いない。
―――そうや、きっとそんだけや。最近じいちゃんに見合いのことでずっと小言を言われて参っとったしな。これから大事な仕事やいうのに俺としたことが。腑抜けとらんでしっかりせんと。
「そ、そうだよ。あの山のことで依頼を受けてきたんだ。君たち、あの山の話を聞いてもいいかな?何でもいいんだ。君たちの周りで、あの山の化け物について何か見たり聞いたりしたってことがあったら教えてくれ。何でもいいんだ」
気を入れなおした葉助だが、彼らの声が聞きたい、彼らともっと話がしたい。そんな思いはついぞ消えることはなかった。それに突き動かされ、葉助は”何でもいいんだ”と二回言った。これもきっと現状から逃げたいという己の甘えが引き起こしていることなのだ、そうに決まっている。そう葉助は自分に言い聞かせる。
「それならこいつが知ってるぜ!な、春吉!」
「お、俺はいいよ・・・・・・」
春吉と呼ばれた一際小柄な少年が、居心地悪そうに縮こまった。その様子を見た途端、葉助の頭がくらりとなり、どっくんどっくんと鼓動が早まる。頭にかーっと血が上るように感じた。
「話してみろってー」
「ほら、退治屋のお兄ちゃん待ってるぞ」
「山で死んだ犬に会ったんだろー?」
仲間たちに促されて、春吉は渋々前に出る。
「・・・・・・もしかしたら、気のせいだったかもしれないんだけど、いい?お兄ちゃん」
そう上目遣いに言われ、胸の高鳴りが激しくなる。
こんなに可愛らしい男の子が、この世にいたんだ。
「あ、ああもちろん・・・・・・」
やっとのことで返した葉助に、春吉はぽつぽつと語りだした。
先月のことなんですけど。
父ちゃんと一緒に、あの山に山菜採りに入ったんです。なんですけど、俺、途中ではぐれちゃって。おおーい、父ちゃーんって呼びながら歩いたんですけど、なんだかおんなじところをぐるぐる回ってるような気になって。
そのうち疲れて、座りたいなと思ってたら、なんか山の中なのに妙に開けた場所に着いたんです。そこだけ木とか藪とかもなんもなくって、あれえと思ったら・・・・・・。
ワウウン、ワウウンって。
すごい聞き憶えある、犬の鳴き声がしたんです。
あれは間違いない、こないだ死んだ、タロウの声だって。
俺、すぐに思いました。そんで、「タロウ?」って呼んだら、そしたら・・・・・・。
どこからともなく、タロウが。
絶対タロウでした、耳の形に少し特徴あったから、分かるんです。俺、もう嬉しくて嬉しくて。もう会えないと思ってたから。思わず抱き締めたら、タロウも俺の顔とか口の周りをペロペロ舐めてきたのを覚えてます。本当に嬉しかった。思わず泣いちゃうくらい。そしたらアイツも俺が泣いてるのをまたペロペロ舐めてきて。・・・・・・昔から、アイツ優しくて、俺が泣いてたらいつも寄って来て、顔舐めて慰めてくれてたんですよね。
・・・・・・でも、なぜか俺途中で寝ちゃったみたいで、気が付いたら父ちゃんが俺のこと覗き込んで真っ青な顔してました。タロウは・・・・・・どこかに行っちゃったみたい。・・・・・・夢だったのかなあ?って思うけど、あの山は死んだ人に会える山なんですよね?他の人もそう言ってます。だから、俺もきっとあの時本当にタロウに会ったんだと思います。
え?何ですか?ああ、そうですね。俺も数日は布団から起き上がれないし、水も飲めないくらい全身だるくて大変でした。俺は幸い数日で治ったんですけど。両親がてんやわんやで、大変でしたね。・・・・・・え、身体にべとべとしたものがついてなかったかって?何で知ってるんですか?ええ、はい、父ちゃんが言ってました。発見された時、俺の顔中に、唾みたいなべとべとした透明なのが付いてたって。タロウが舐めたせいだと思いますけど。タロウ、どこいっちゃったのかなあ。また会いたいなあ・・・・・・。
妖怪退治屋、と聞いて、やんちゃな目がきらりと光った。
「えー!お兄ちゃん退治屋さんなの!?」
「すげえ、初めて見たー!」
「うわー、籠背負ってる!中に弓矢が入ってるんだよ、俺知ってる!!」
わいわいと集まってくる少年たちに、葉助の顔がほころんだ。背後で途方にくれた顔をしている役人には構わず、かがんで子供たちに目線を合わせる。
惚れ惚れとした眼差しで見てくれる彼らに、心がこそばゆくなった。
見とれてしまうのは、こちらのほうだよ。
・・・・・・・・・・・・?
思わず葉助は己の胸の辺りをぎゅっと押さえる。
―――なんや、今の。
一瞬だけ降って湧いた感情を、葉助は上手く処理できずに戸惑う。固まる葉助をよそに、子供たちは興奮した面持ちだ。
「退治屋のお兄ちゃん、どうしてこんな村に来たの?」
「・・・・・・あっ、もしかして!あの山にいるお化けを退治しに来たんだ!ねっ、そうでしょお兄ちゃん!」
変声期を迎える直前の、涼やかでどこか地に足がつかない、夢の中にいるようなふわふわの声色。
甘く甘く葉助の鼓膜をくすぐった。
どうしてそれがここまで心地よく感じるのか、自分でも訳がわからない。
―――俺は、・・・・・・一体?
どうして。どうして、もっともっと聞きたいと思ってしまうのだろう。どうして、この声に抗いがたく魅力を感じるのだろう。
どうして、彼らの声が俺の心の奥深く・・・・・・、硬く閉じた門に手をかけられるような感覚を起こすのだろう・・・・・・。
何か恐ろしいような、どうあがいても太刀打ちできないようなものを自分の中に感じながら、葉助は自分を納得させられる理由を探す。
―――そ、そや・・・・・・。暑さのせいや。
暑さで頭がぼうっとしていて、無邪気に遊ぶ少年らを見て自分の幼い頃を連想したに違いない。懐かしさと切なさで、彼らに憧憬の目を向けてしまったのだろう。彼らに自分の過去を重ねて、もう帰らないあの日々を思い出したことで彼らの笑顔に惹き付けられたに違いない。
―――そうや、きっとそんだけや。最近じいちゃんに見合いのことでずっと小言を言われて参っとったしな。これから大事な仕事やいうのに俺としたことが。腑抜けとらんでしっかりせんと。
「そ、そうだよ。あの山のことで依頼を受けてきたんだ。君たち、あの山の話を聞いてもいいかな?何でもいいんだ。君たちの周りで、あの山の化け物について何か見たり聞いたりしたってことがあったら教えてくれ。何でもいいんだ」
気を入れなおした葉助だが、彼らの声が聞きたい、彼らともっと話がしたい。そんな思いはついぞ消えることはなかった。それに突き動かされ、葉助は”何でもいいんだ”と二回言った。これもきっと現状から逃げたいという己の甘えが引き起こしていることなのだ、そうに決まっている。そう葉助は自分に言い聞かせる。
「それならこいつが知ってるぜ!な、春吉!」
「お、俺はいいよ・・・・・・」
春吉と呼ばれた一際小柄な少年が、居心地悪そうに縮こまった。その様子を見た途端、葉助の頭がくらりとなり、どっくんどっくんと鼓動が早まる。頭にかーっと血が上るように感じた。
「話してみろってー」
「ほら、退治屋のお兄ちゃん待ってるぞ」
「山で死んだ犬に会ったんだろー?」
仲間たちに促されて、春吉は渋々前に出る。
「・・・・・・もしかしたら、気のせいだったかもしれないんだけど、いい?お兄ちゃん」
そう上目遣いに言われ、胸の高鳴りが激しくなる。
こんなに可愛らしい男の子が、この世にいたんだ。
「あ、ああもちろん・・・・・・」
やっとのことで返した葉助に、春吉はぽつぽつと語りだした。
先月のことなんですけど。
父ちゃんと一緒に、あの山に山菜採りに入ったんです。なんですけど、俺、途中ではぐれちゃって。おおーい、父ちゃーんって呼びながら歩いたんですけど、なんだかおんなじところをぐるぐる回ってるような気になって。
そのうち疲れて、座りたいなと思ってたら、なんか山の中なのに妙に開けた場所に着いたんです。そこだけ木とか藪とかもなんもなくって、あれえと思ったら・・・・・・。
ワウウン、ワウウンって。
すごい聞き憶えある、犬の鳴き声がしたんです。
あれは間違いない、こないだ死んだ、タロウの声だって。
俺、すぐに思いました。そんで、「タロウ?」って呼んだら、そしたら・・・・・・。
どこからともなく、タロウが。
絶対タロウでした、耳の形に少し特徴あったから、分かるんです。俺、もう嬉しくて嬉しくて。もう会えないと思ってたから。思わず抱き締めたら、タロウも俺の顔とか口の周りをペロペロ舐めてきたのを覚えてます。本当に嬉しかった。思わず泣いちゃうくらい。そしたらアイツも俺が泣いてるのをまたペロペロ舐めてきて。・・・・・・昔から、アイツ優しくて、俺が泣いてたらいつも寄って来て、顔舐めて慰めてくれてたんですよね。
・・・・・・でも、なぜか俺途中で寝ちゃったみたいで、気が付いたら父ちゃんが俺のこと覗き込んで真っ青な顔してました。タロウは・・・・・・どこかに行っちゃったみたい。・・・・・・夢だったのかなあ?って思うけど、あの山は死んだ人に会える山なんですよね?他の人もそう言ってます。だから、俺もきっとあの時本当にタロウに会ったんだと思います。
え?何ですか?ああ、そうですね。俺も数日は布団から起き上がれないし、水も飲めないくらい全身だるくて大変でした。俺は幸い数日で治ったんですけど。両親がてんやわんやで、大変でしたね。・・・・・・え、身体にべとべとしたものがついてなかったかって?何で知ってるんですか?ええ、はい、父ちゃんが言ってました。発見された時、俺の顔中に、唾みたいなべとべとした透明なのが付いてたって。タロウが舐めたせいだと思いますけど。タロウ、どこいっちゃったのかなあ。また会いたいなあ・・・・・・。
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