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第二章 派手に、生まれ変わります!
59 異母妹が魔法を使えるようになりました!
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それは、突然の出来事だった。
「コートニーが魔法を発動させただと!?」
ロバートは、目を剥いて息を呑む。クリスは厚化粧の顔を上気させて、興奮気味に旦那様に報告を始めた。
「そうなのです! 今日の授業中に突然! しかも、かなりの強い魔力だそうでっ!!」
「そうか……!」
侯爵は思わず破顔する。にわかに嬉しさが込み上げて来た。
やっと……やっとだ。
姉と違って使い物にならないと諦めていた妹が、ついに魔法を使えるようになったのだ。それも強力な魔力らしい。
やはり、あの子もパリステラ家の血筋だった。これで家門も安泰だ。
ロバートはすぐさま愛しい娘のもとへ向かって、抱き締め、抱き上げ、頬にキスをして、頭を撫でて、大いに褒め称えた。
コートニーもとっても嬉しそうに終始笑顔で、久し振りに降り注がれた父の愛情を、大いに享受する。
これで、やっとお父様から認められた。お母様のガミガミうるさいお説教からもおさらばだ。
きっとまた、別邸にいた頃のように親子三人で仲良く暮らせるはず。お父様もお母様もまた愛し合うはず。だって、あたしは凄い魔法使いなんだもの。
あとは邪魔な異母姉を排除して、婚約者を奪うだけだ。
(見てなさいよ、あの女。絶対に潰してやるわ……!)
その日は、ロバートとクリス、コートニーで王都の中心街へ向かって、父親は娘の欲しいものはなんでも買ってあげた。妻にも一等級の宝石をプレゼントした。
それから予約が一年待ちのレストランで食事をして、彼らにとって夢のような最高の一日だった。
◆◆◆
「まぁっ! ついにコートニーも魔法が使えるようになったのね! 良かったわね、おめでとう」
翌朝、朝食の席でクロエはまるで自分のことのように喜んで、祝福の言葉を贈った。
コートニーはふふんと勝ち誇ったように笑いながら、
「ま、あたしの実力なら当然だわ! 先生がこれまでにないくらいのすっごく強い魔力だって言っていたの。お異母姉様なんかすぐに追い越しちゃうかもね」
「そうね。コートニーならきっと国一番の魔導士になれるわ」とクリス。
「あぁ、そうだな。お前たち姉妹なら魔導騎士団が束になっても敵わないだろう」と、朝から上機嫌なロバート。
「私もコートニーに追い抜かされないように、これまで以上に頑張らなくちゃいけないわね」
「その意気だ、クロエ。二人とも期待しているぞ」
「ま、せいぜいコートニーに置いていかれないように努力しなさいね。パリステラ家の恥にならないように」
「精進しますわ、お継母様」
そのあとも、コートニーの明るい未来の話が続く。
クロエは、家族の夢物語のような薄ら寒い会話劇を冷めた目で見ていた。
(本当に、良かったわね。つかの間の幸せを噛み締めなさい。もう、こんな明るい日常は二度と来ることはないのだから……)
クロエは、コートニーにかけていた魔法を解除した。
停止していた異母妹の体内の魔力は忽ち流れ出して、もとより天才だった彼女は立ち所に魔法が使えるようになった。それも、逆行前と変わらず、非常に強力な。
クロエには、とある目的があった。
時間を遡る前、魔法が使えなかったせいで凄惨な目に合った彼女は、「コートニーへの報復は魔法で」と、決めていたのだ。
異母妹の一番得意な分野で完膚なきまでに叩きのめす。彼女が最高潮に有頂天になっている瞬間に、名誉も権力も矜持でさえも、粉々に打ち砕くのだ。
そのためには、コートニーにかけた魔法を一旦解除する必要があった。
「ところで、コートニーは来月の魔法大会は出場するの?」と、クロエは何食わぬ顔で尋ねる。
来月に国王主催の魔法大会が開催されるのだ。逆行前に、コートニーが圧倒的な実力で優勝した曰く付きの大会だ。
この優勝によって、異母妹の国内での立場は確実なものとなり、反対にクロエは不名誉な烙印を押されることとなったのだ。
それからは……地獄だった。
「もちろん出るわ! もう出場届けも出しているの。必ずあたしが優勝してみせるっ!!」と、コートニーは意気込む。
「あなたなら優勝間違いなしだわ」とクリス。
「祝宴は盛大に開かなければな」とロバート。
「そう、あなたも出場するのね」
クロエの言葉に三人とも目を見張る。
聞き間違いでなければ、今、姉は「も」と言っていたが……。
彼女はにっこりと微笑んで、
「実は私も出場することにしたの。お互いに精一杯頑張りましょうね、コートニー」
一拍して、
「「「えぇっ!?」」」
三人の驚きの声が同時に鳴り響いた。
「出場って……お異母姉様も出るんですかぁ!?」
「えぇ、そうよ」
「あ、あなた……聖女じゃないの? 戦えるの?」
「そう呼ばれていますが……一応は回復以外の基礎魔法も使えますので。自分の実力を試してみたくて」
「おぉ! クロエも出場するのか! これは一位二位は姉妹で独占だな!」
「そうなれば良いのですが。コートニーの足を引っ張らないように努めますわ」
ご機嫌なロバートの陰で、クリスとコートニーは無言で目を合わせて、にやりと歪んだ笑みを漏らした。
――これは、クロエを潰す絶好のチャンス!
クロエは聖女として名高いが、それは回復魔法が専門で、戦いに参加したことは一度たりともなかった。
それに対して、コートニーは石像をもいとも簡単に粉砕できる、超強力な魔法。どちらが大会で有利だなんて一目瞭然だ。
この国王主催の魔法大会で、いつもツンと澄ましている生意気なクロエのプライドをへし折る。そして惨めな様子を貴族たちに見せ付けて、社交界での地位も引きずり下ろして、コートニーが取って代わってやる。
(……なんてことを考えているのでしょう。せいぜい今のうちに逞しい妄想をしていればいいわ)
クロエは涼しげな顔で紅茶を飲む。
静かな食卓は、興奮を無理に抑えたじわじわする熱気に包まれていた。
それから、コートニーは珍しく魔法の練習を頑張った。これまで異母姉から馬鹿にされてきた分、こっ酷く仕返しをしようという魂胆である。
母クリスも、大会でなんとしてでもクロエを叩き伏せて、愛娘を優勝させようと画策していた。
一方クロエは、表面上は平常運転を心がけつつも、水面下でユリウスに使い走りをさせて大会に備えた。
スコットは、クロエに優勝して欲しいけど、聖女なのに野蛮な戦いなんて大丈夫なのかと気を揉んでいた。
そして、二度目の魔法大会が始まる。
「コートニーが魔法を発動させただと!?」
ロバートは、目を剥いて息を呑む。クリスは厚化粧の顔を上気させて、興奮気味に旦那様に報告を始めた。
「そうなのです! 今日の授業中に突然! しかも、かなりの強い魔力だそうでっ!!」
「そうか……!」
侯爵は思わず破顔する。にわかに嬉しさが込み上げて来た。
やっと……やっとだ。
姉と違って使い物にならないと諦めていた妹が、ついに魔法を使えるようになったのだ。それも強力な魔力らしい。
やはり、あの子もパリステラ家の血筋だった。これで家門も安泰だ。
ロバートはすぐさま愛しい娘のもとへ向かって、抱き締め、抱き上げ、頬にキスをして、頭を撫でて、大いに褒め称えた。
コートニーもとっても嬉しそうに終始笑顔で、久し振りに降り注がれた父の愛情を、大いに享受する。
これで、やっとお父様から認められた。お母様のガミガミうるさいお説教からもおさらばだ。
きっとまた、別邸にいた頃のように親子三人で仲良く暮らせるはず。お父様もお母様もまた愛し合うはず。だって、あたしは凄い魔法使いなんだもの。
あとは邪魔な異母姉を排除して、婚約者を奪うだけだ。
(見てなさいよ、あの女。絶対に潰してやるわ……!)
その日は、ロバートとクリス、コートニーで王都の中心街へ向かって、父親は娘の欲しいものはなんでも買ってあげた。妻にも一等級の宝石をプレゼントした。
それから予約が一年待ちのレストランで食事をして、彼らにとって夢のような最高の一日だった。
◆◆◆
「まぁっ! ついにコートニーも魔法が使えるようになったのね! 良かったわね、おめでとう」
翌朝、朝食の席でクロエはまるで自分のことのように喜んで、祝福の言葉を贈った。
コートニーはふふんと勝ち誇ったように笑いながら、
「ま、あたしの実力なら当然だわ! 先生がこれまでにないくらいのすっごく強い魔力だって言っていたの。お異母姉様なんかすぐに追い越しちゃうかもね」
「そうね。コートニーならきっと国一番の魔導士になれるわ」とクリス。
「あぁ、そうだな。お前たち姉妹なら魔導騎士団が束になっても敵わないだろう」と、朝から上機嫌なロバート。
「私もコートニーに追い抜かされないように、これまで以上に頑張らなくちゃいけないわね」
「その意気だ、クロエ。二人とも期待しているぞ」
「ま、せいぜいコートニーに置いていかれないように努力しなさいね。パリステラ家の恥にならないように」
「精進しますわ、お継母様」
そのあとも、コートニーの明るい未来の話が続く。
クロエは、家族の夢物語のような薄ら寒い会話劇を冷めた目で見ていた。
(本当に、良かったわね。つかの間の幸せを噛み締めなさい。もう、こんな明るい日常は二度と来ることはないのだから……)
クロエは、コートニーにかけていた魔法を解除した。
停止していた異母妹の体内の魔力は忽ち流れ出して、もとより天才だった彼女は立ち所に魔法が使えるようになった。それも、逆行前と変わらず、非常に強力な。
クロエには、とある目的があった。
時間を遡る前、魔法が使えなかったせいで凄惨な目に合った彼女は、「コートニーへの報復は魔法で」と、決めていたのだ。
異母妹の一番得意な分野で完膚なきまでに叩きのめす。彼女が最高潮に有頂天になっている瞬間に、名誉も権力も矜持でさえも、粉々に打ち砕くのだ。
そのためには、コートニーにかけた魔法を一旦解除する必要があった。
「ところで、コートニーは来月の魔法大会は出場するの?」と、クロエは何食わぬ顔で尋ねる。
来月に国王主催の魔法大会が開催されるのだ。逆行前に、コートニーが圧倒的な実力で優勝した曰く付きの大会だ。
この優勝によって、異母妹の国内での立場は確実なものとなり、反対にクロエは不名誉な烙印を押されることとなったのだ。
それからは……地獄だった。
「もちろん出るわ! もう出場届けも出しているの。必ずあたしが優勝してみせるっ!!」と、コートニーは意気込む。
「あなたなら優勝間違いなしだわ」とクリス。
「祝宴は盛大に開かなければな」とロバート。
「そう、あなたも出場するのね」
クロエの言葉に三人とも目を見張る。
聞き間違いでなければ、今、姉は「も」と言っていたが……。
彼女はにっこりと微笑んで、
「実は私も出場することにしたの。お互いに精一杯頑張りましょうね、コートニー」
一拍して、
「「「えぇっ!?」」」
三人の驚きの声が同時に鳴り響いた。
「出場って……お異母姉様も出るんですかぁ!?」
「えぇ、そうよ」
「あ、あなた……聖女じゃないの? 戦えるの?」
「そう呼ばれていますが……一応は回復以外の基礎魔法も使えますので。自分の実力を試してみたくて」
「おぉ! クロエも出場するのか! これは一位二位は姉妹で独占だな!」
「そうなれば良いのですが。コートニーの足を引っ張らないように努めますわ」
ご機嫌なロバートの陰で、クリスとコートニーは無言で目を合わせて、にやりと歪んだ笑みを漏らした。
――これは、クロエを潰す絶好のチャンス!
クロエは聖女として名高いが、それは回復魔法が専門で、戦いに参加したことは一度たりともなかった。
それに対して、コートニーは石像をもいとも簡単に粉砕できる、超強力な魔法。どちらが大会で有利だなんて一目瞭然だ。
この国王主催の魔法大会で、いつもツンと澄ましている生意気なクロエのプライドをへし折る。そして惨めな様子を貴族たちに見せ付けて、社交界での地位も引きずり下ろして、コートニーが取って代わってやる。
(……なんてことを考えているのでしょう。せいぜい今のうちに逞しい妄想をしていればいいわ)
クロエは涼しげな顔で紅茶を飲む。
静かな食卓は、興奮を無理に抑えたじわじわする熱気に包まれていた。
それから、コートニーは珍しく魔法の練習を頑張った。これまで異母姉から馬鹿にされてきた分、こっ酷く仕返しをしようという魂胆である。
母クリスも、大会でなんとしてでもクロエを叩き伏せて、愛娘を優勝させようと画策していた。
一方クロエは、表面上は平常運転を心がけつつも、水面下でユリウスに使い走りをさせて大会に備えた。
スコットは、クロエに優勝して欲しいけど、聖女なのに野蛮な戦いなんて大丈夫なのかと気を揉んでいた。
そして、二度目の魔法大会が始まる。
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