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第一章 地味な、人生でした

21 生活は変わりました

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※虐待による不快なシーンあり※








 コートニーが国王主催の魔法大会で優勝した。

 それは他を凌駕する圧倒的な強さだった。彼女の実力は、王立魔導騎士団長が認めるほどで、国内でも屈指の魔力の持ち主として名前を轟かせていった。

 これには父親のロバートも鼻高々で、他の貴族たちに大いに自慢をして回っていた。
 魔力至上主義の彼は、魔法の使えないクロエに対して非常に憤りを感じていた。
 名門パリステラ家の当主としてずっと肩身の狭い思いをしていたが、ここにきてコートニーの大快挙である。彼は今までの鬱屈していた黒い気持ちを発散するように、娘の能力を大いに誇っていた。

 まるでクロエなんか初めから存在しなかったかのように、彼の愛する娘はコートニーただ一人だった。


 そして、魔法大会の祝賀パーティーでは、コートニーとスコットの婚約……及びクロエとスコットの婚約破棄が発表された。

 理由はクロエの素行不良である。
 ロバートは「あの恥知らずはもう社交の場には出さない」と、貴族たちに触れ回っていた。

 そして、まことしやかに囁かれる前侯爵夫人の裏切りの噂。
 クロエも亡き母も、名誉なんて少しも残されていなかった。




◆◆◆





「餌よ」


 ゴトリ――と、乱暴に床に食器が置かれる。
 それは木材の器で、欠けたふち、中央に大きなひびも入っていて、犬の餌入れとしても心許ない、酷くみすぼらしい容器だった。

「えっ……?」

 クロエは、目をぱちくりさせながら眼前の食器を見た。驚きのあまり、身体が強張る。

(どういうこと? 餌、って……私の?)

 困惑して動こうとしない異母姉にコートニーは苛立ちを隠せずに、強い語気でもう一度言う。

「だから、餌。ほら、早く食べなさいよ」

 コートニー付きのメイドたちが主人の後ろでくすくすと意地悪そうに笑う。「餌」は、クロエの座っているソファーの目の前に無造作に置かれて、その中身は残飯のようなものが、ぐちゃぐちゃに入っているだけだった。

「…………」

 クロエは戸惑ってなおも動けない。

「こうやって食べるのよ」

 痺れを切らせたコートニーは、メイドに指図をしてクロエをソファーから引きずり下ろして、床に跪かせる。
 そして異母姉の髪を強く引っ張ってから、

「っんっ……!?」

 彼女の顔を容器の中に思いっ切り突っ込んだ。さらにぐりぐりと後頭部を押さえ付ける。
 クロエは息ができずにもがくが、三人がかりで全身を押さえ付けられて、身動きできない。


「ぷはっ!!」

 しばらくして、やっと開放される。容器の中身が周囲に飛び散る。ぜいぜいと大きく肩で息をした。
 彼女の顔も上半身も、ぐちゃぐちゃに汚れていた。

「まぁっ、汚い!」コートニーは顔をしかめる。「餌もまともに食べられないの? 呆れちゃうわぁっ!」

 クロエは息を整えてからおもむろに顔を上げた。そこには、おぞましい表情をした異母妹が、不気味に弧を描いて笑っていた。

 そくり、と鳥肌が立つ。
 それは今まで見たこともない顔だった。慈悲の欠片も宿っていない、真っ暗闇の深淵のような悪魔の笑顔。

 異母妹はこれまでもクロエに対して貶めるような行為をやっていたが、このようなぎらついた様相を見るのは初めてだった。

 コートニーはさらに視線を険しくして、

「あんたなんか大嫌い。今まであたしがいるべきだった場所を奪ってきたのだから、当然の報いよ。これからは身の程を弁えなさい、不貞の娘が」

「ちがっ――」

 クロエが反論する前に、額を蹴られた。鈍い痛みが頭蓋骨に響く。

「なにが違うの? 魔法も使えないくせに。――聞けば、あんたの母親は強い魔力持つ家系なんだってねぇ? それにお父様も偉大な力を持っているし、あんただけが魔法が使えないなんて、どう考えても不貞の証拠じゃない? あぁ、下男と遊ぶような女の娘だから、あんたも夜な夜な男と遊び歩いているのね~? 今じゃ社交界はその話題で持ち切りよ。本当、パリステラ家の恥ね」

「っ……!」

「じゃ、片付けておきなさいよ。自分で汚したんだから責任持ちなさい? あぁ、汚い!」

 コートニーはメイドたちとくすくすと笑いながら部屋を出て行く。

 一人ぽつねんと残されるクロエ。
 彼女の顔もドレスも床も、悪臭漂う残飯にまみれていた。









※25話まで胸糞展開続きます※

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