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49 第一王子の婚約者
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誕生パーティーからすっかり潮流が変わってしまった。
第一王子の予言通りにモデナ国の王女との婚約話は解消になり、わたくしは正式に彼の婚約者となったのだった。
もちろん最初はなんとか回避できないかと必死で抵抗したのだけれど、王家主催のパーティーで第一王子があんな風に大々的発表したのだから今更否定なんてできないと、お父様から強く言い聞かされたわ。
国王陛下と王妃様が身分が下のわたくしに頭を下げてくださったこともあって、これ以上拒み続けるのも憚られるので承諾するしか選択肢はなかった。
たしかに国内の情勢を鑑みたら仕方のないことだし、わたくし自身も男爵令嬢を断罪するときに覚悟を決めたはずだって……頭では理解しているつもりだった。
…………それでも感情は追いつけずに、わたくしは失意の日々を過ごしていた。
ハリー殿下とは前回の人生と同様に「第一王子の婚約者と第一王子の弟」という関係に戻ってしまって、わたくしたちはこれまでに比べて会う機会が著しく減ってしまった。
第一王子の婚約者であるわたくしの警護も増やされて、もう第二王子が秘密裏に護衛をする必要もない。だから、わたくしたちが懇意にする理由はもう皆無なのだ。
今朝も第一王子がわざわざヨーク家の屋敷まで迎えに来て、王族専用の馬車で二人一緒に登校をした。
そして学園内でも、これまでの不仲説を振り払うように彼と共に過ごす時間が多くなっていた。
第一王子は人前ではわたくしに優しく接してくれるけど二人きりになると途端に冷ややかな対応になって、あまつさえ「お前は一度目の人生も二度目も馬鹿な女のままだな。少しは学習したらどうだ」なんて嫌味を言ってきて、本当に……本当に殺意が湧いてきたわ…………。
誰のせいでわたくしがこんな目に……。
悔しさと憎しみでいっぱいで、彼の隣にいる間は動悸がしっぱなしだった。
もう処刑になっても構わないからアルバートお兄様に頼んで毒薬を用意してもらおうかと……何度考えたことかしら。その度になんとか大切な人たちのお顔を思い出して、これ以上彼らを悲しませてはいけないって、思い直したわ……。
「やぁ、シャーロット嬢」
「アーサー様、ご機嫌よう」
「一人でいるなんて珍しいね」
「えぇ、まぁ……」
わたくしは曖昧に返事をしながら苦笑いをする。最近は学園では第一王子かダイアナ様たちと一緒にいて、一人になることなんて滅多にないのだ。
今は偶然彼らがそれぞれの用事を済ましに行っていて、わたくしは久し振りの一人の時間を満喫していた。……ま、こちらから見えない場所に護衛が見張っているのだけれど。
「第一王子の婚約者の生活は窮屈かな?」
アーサー様はそんなわたくしの様子を見て、見透かしているように苦笑いをした。
「は、はい……」
わたくしは彼に心を読まれたみたいで、恥ずかしくて思わず赤面した。嫌だわ、高位貴族として感情を顔に出さないように教育されてきたのに、なにをやっているのかしら。
「その……最近のわたくしの態度にそういったものが透けて見えているでしょうか?」
アーサー様は軽く首を振って、
「いや、他の者は気付いていないと思うよ。相変わらず君は国一番の完璧な令嬢だよ」と、片目を瞑った。
「まぁっ、相変わらずお上手ですこと」
わたくしは小さく胸を撫で下ろす。曲がりなりにも第一王子の婚約者が感情を律することができないと露見されると、彼自身になんて皮肉を言われるか分からないもの。
「さすがアーサー様ですわね。見事な洞察力ですわ。わたくし、降参ですわよ」
「いや……」アーサー様は口元に手を当てて、なにやら踏ん切りがつかない様子を見せて「その、違うんだ……」
「どうされたのですか?」
わたくしは彼らしくない様子に首を傾げた。
彼は普段は堂々としていらっしゃるのに、なんだか思い切りが悪いような……。一体どうしたのかしら?
アーサー様は躊躇った様相でこちらを見てから一拍した後になにかを決意した様子で、
「その……心当たりがなければ、これから話すことは夢から醒めない夢遊病患者の妄言だと一笑に付して欲しいのだが……」
「えっ……?」
アーサー様は少し辺りを窺ってから声を潜めてわたくしの耳元で言った。
「もしかして、君は……前の人生の記憶があるんじゃないのか?」
第一王子の予言通りにモデナ国の王女との婚約話は解消になり、わたくしは正式に彼の婚約者となったのだった。
もちろん最初はなんとか回避できないかと必死で抵抗したのだけれど、王家主催のパーティーで第一王子があんな風に大々的発表したのだから今更否定なんてできないと、お父様から強く言い聞かされたわ。
国王陛下と王妃様が身分が下のわたくしに頭を下げてくださったこともあって、これ以上拒み続けるのも憚られるので承諾するしか選択肢はなかった。
たしかに国内の情勢を鑑みたら仕方のないことだし、わたくし自身も男爵令嬢を断罪するときに覚悟を決めたはずだって……頭では理解しているつもりだった。
…………それでも感情は追いつけずに、わたくしは失意の日々を過ごしていた。
ハリー殿下とは前回の人生と同様に「第一王子の婚約者と第一王子の弟」という関係に戻ってしまって、わたくしたちはこれまでに比べて会う機会が著しく減ってしまった。
第一王子の婚約者であるわたくしの警護も増やされて、もう第二王子が秘密裏に護衛をする必要もない。だから、わたくしたちが懇意にする理由はもう皆無なのだ。
今朝も第一王子がわざわざヨーク家の屋敷まで迎えに来て、王族専用の馬車で二人一緒に登校をした。
そして学園内でも、これまでの不仲説を振り払うように彼と共に過ごす時間が多くなっていた。
第一王子は人前ではわたくしに優しく接してくれるけど二人きりになると途端に冷ややかな対応になって、あまつさえ「お前は一度目の人生も二度目も馬鹿な女のままだな。少しは学習したらどうだ」なんて嫌味を言ってきて、本当に……本当に殺意が湧いてきたわ…………。
誰のせいでわたくしがこんな目に……。
悔しさと憎しみでいっぱいで、彼の隣にいる間は動悸がしっぱなしだった。
もう処刑になっても構わないからアルバートお兄様に頼んで毒薬を用意してもらおうかと……何度考えたことかしら。その度になんとか大切な人たちのお顔を思い出して、これ以上彼らを悲しませてはいけないって、思い直したわ……。
「やぁ、シャーロット嬢」
「アーサー様、ご機嫌よう」
「一人でいるなんて珍しいね」
「えぇ、まぁ……」
わたくしは曖昧に返事をしながら苦笑いをする。最近は学園では第一王子かダイアナ様たちと一緒にいて、一人になることなんて滅多にないのだ。
今は偶然彼らがそれぞれの用事を済ましに行っていて、わたくしは久し振りの一人の時間を満喫していた。……ま、こちらから見えない場所に護衛が見張っているのだけれど。
「第一王子の婚約者の生活は窮屈かな?」
アーサー様はそんなわたくしの様子を見て、見透かしているように苦笑いをした。
「は、はい……」
わたくしは彼に心を読まれたみたいで、恥ずかしくて思わず赤面した。嫌だわ、高位貴族として感情を顔に出さないように教育されてきたのに、なにをやっているのかしら。
「その……最近のわたくしの態度にそういったものが透けて見えているでしょうか?」
アーサー様は軽く首を振って、
「いや、他の者は気付いていないと思うよ。相変わらず君は国一番の完璧な令嬢だよ」と、片目を瞑った。
「まぁっ、相変わらずお上手ですこと」
わたくしは小さく胸を撫で下ろす。曲がりなりにも第一王子の婚約者が感情を律することができないと露見されると、彼自身になんて皮肉を言われるか分からないもの。
「さすがアーサー様ですわね。見事な洞察力ですわ。わたくし、降参ですわよ」
「いや……」アーサー様は口元に手を当てて、なにやら踏ん切りがつかない様子を見せて「その、違うんだ……」
「どうされたのですか?」
わたくしは彼らしくない様子に首を傾げた。
彼は普段は堂々としていらっしゃるのに、なんだか思い切りが悪いような……。一体どうしたのかしら?
アーサー様は躊躇った様相でこちらを見てから一拍した後になにかを決意した様子で、
「その……心当たりがなければ、これから話すことは夢から醒めない夢遊病患者の妄言だと一笑に付して欲しいのだが……」
「えっ……?」
アーサー様は少し辺りを窺ってから声を潜めてわたくしの耳元で言った。
「もしかして、君は……前の人生の記憶があるんじゃないのか?」
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