上 下
49 / 85

49 第一王子の婚約者

しおりを挟む
 誕生パーティーからすっかり潮流が変わってしまった。


 第一王子の予言通りにモデナ国の王女との婚約話は解消になり、わたくしは正式に彼の婚約者となったのだった。
 もちろん最初はなんとか回避できないかと必死で抵抗したのだけれど、王家主催のパーティーで第一王子があんな風に大々的発表したのだから今更否定なんてできないと、お父様から強く言い聞かされたわ。
 国王陛下と王妃様が身分が下のわたくしに頭を下げてくださったこともあって、これ以上拒み続けるのも憚られるので承諾するしか選択肢はなかった。

 たしかに国内の情勢を鑑みたら仕方のないことだし、わたくし自身も男爵令嬢を断罪するときに覚悟を決めたはずだって……頭では理解しているつもりだった。

 …………それでも感情は追いつけずに、わたくしは失意の日々を過ごしていた。


 ハリー殿下とは前回の人生と同様に「第一王子の婚約者と第一王子の弟」という関係に戻ってしまって、わたくしたちはこれまでに比べて会う機会が著しく減ってしまった。
 第一王子の婚約者であるわたくしの警護も増やされて、もう第二王子が秘密裏に護衛をする必要もない。だから、わたくしたちが懇意にする理由はもう皆無なのだ。

 今朝も第一王子がわざわざヨーク家の屋敷まで迎えに来て、王族専用の馬車で二人一緒に登校をした。
 そして学園内でも、これまでの不仲説を振り払うように彼と共に過ごす時間が多くなっていた。

 第一王子は人前ではわたくしに優しく接してくれるけど二人きりになると途端に冷ややかな対応になって、あまつさえ「お前は一度目の人生も二度目も馬鹿な女のままだな。少しは学習したらどうだ」なんて嫌味を言ってきて、本当に……本当に殺意が湧いてきたわ…………。

 誰のせいでわたくしがこんな目に……。
 悔しさと憎しみでいっぱいで、彼の隣にいる間は動悸がしっぱなしだった。
 もう処刑になっても構わないからアルバートお兄様に頼んで毒薬を用意してもらおうかと……何度考えたことかしら。その度になんとか大切な人たちのお顔を思い出して、これ以上彼らを悲しませてはいけないって、思い直したわ……。





「やぁ、シャーロット嬢」

「アーサー様、ご機嫌よう」

「一人でいるなんて珍しいね」

「えぇ、まぁ……」

 わたくしは曖昧に返事をしながら苦笑いをする。最近は学園では第一王子かダイアナ様たちと一緒にいて、一人になることなんて滅多にないのだ。
 今は偶然彼らがそれぞれの用事を済ましに行っていて、わたくしは久し振りの一人の時間を満喫していた。……ま、こちらから見えない場所に護衛が見張っているのだけれど。

「第一王子の婚約者の生活は窮屈かな?」

 アーサー様はそんなわたくしの様子を見て、見透かしているように苦笑いをした。

「は、はい……」

 わたくしは彼に心を読まれたみたいで、恥ずかしくて思わず赤面した。嫌だわ、高位貴族として感情を顔に出さないように教育されてきたのに、なにをやっているのかしら。

「その……最近のわたくしの態度にそういったものが透けて見えているでしょうか?」

 アーサー様は軽く首を振って、

「いや、他の者は気付いていないと思うよ。相変わらず君は国一番の完璧な令嬢だよ」と、片目を瞑った。

「まぁっ、相変わらずお上手ですこと」

 わたくしは小さく胸を撫で下ろす。曲がりなりにも第一王子の婚約者が感情を律することができないと露見されると、彼自身になんて皮肉を言われるか分からないもの。

「さすがアーサー様ですわね。見事な洞察力ですわ。わたくし、降参ですわよ」

「いや……」アーサー様は口元に手を当てて、なにやら踏ん切りがつかない様子を見せて「その、違うんだ……」

「どうされたのですか?」

 わたくしは彼らしくない様子に首を傾げた。
 彼は普段は堂々としていらっしゃるのに、なんだか思い切りが悪いような……。一体どうしたのかしら?

 アーサー様は躊躇った様相でこちらを見てから一拍した後になにかを決意した様子で、

「その……心当たりがなければ、これから話すことは夢から醒めない夢遊病患者の妄言だと一笑に付して欲しいのだが……」

「えっ……?」

 アーサー様は少し辺りを窺ってから声を潜めてわたくしの耳元で言った。


「もしかして、君は……前の人生の記憶があるんじゃないのか?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...