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21 お兄様が王都へ
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今日はアルバートお兄様が王都へ戻る日だ。
この国の貴族は16歳になると3年間王都にある王立学園に通うことが慣例となっている。強制的ではないが、将来のための人脈作りや未来の伴侶を見つけるために基本的には全ての貴族の子供たちがそこに通っていた。
お兄様も春から学園に通うことになるので、今日は少し早めのお引越しなのだ。
「お兄様……寂しくなりますわ」
「僕もだよ、ロッティー。必ず手紙を書くからね」
「はい。わたくしもいっぱいお手紙を書きますわ!」
「楽しみにしているよ。お勉強も頑張るんだよ?」
「もちろんですわ! あ、お兄様、こちらをダイアナ様へ渡していただけますか?」
わたくしは手紙とお土産をお兄様に託した。お兄様はちょっと照れくさそうにそれを受け取っていた。
ついにお兄様とダイアナ様の婚約が決まったのだ!
ダイアナ様が領地から帰ったあとにお兄様がお父様に手紙を書いたみたいで、それからあれよあれよという間にヨーク家とバイロン家で婚約の内定が成立した。もともと両家の間で内密に話を進めていたみたい。家柄的にも釣り合うし、なにより両家とも国王派なのですんなりと決まったようだ。これで派閥が強固になるものね。
それで、お兄様は王都で婚約式を行うために入学より一月以上も前に引っ越すのだ。
婚約式にはお母様も参列するので、しばらくお母様ともお別れとなる。
わたくしも行きたいと何度も懇願したが、現在の自身の微妙な立場ではまだ王都に戻らないほうが良いだろうと、お父様から頑なに拒まれた。せっかくのお兄様の晴れ舞台なのに、残念だわ……。
「お兄様、ダイアナ様によろしくお伝えしてくださいませ」
「分かったよ」
「わたくしも心より祝福しております、と」
「了解。ありがとう」
「絶対これらを渡してくださいましね?」
「大丈夫だよ」
「ダイアナ様を泣かせるようなことがあったら絶対に許しませんからね」
「そんなことしないよ」
「学園で浮気をしたら駄目ですよ?」
「浮気なんてするわけないだろっ!」
珍しくお兄様が大声を上げた。
甘いですわよ、お兄様。今はそう思っていても学園ではどんな出会いがあるか分かりませんわ。だって前回の人生の第一王子がそうだったんですもの。
ま、仮にお兄様が浮気をしようものなら、わたくしが妹として責任を持って成敗して差し上げますわ。
「ロッティー、いい加減になさい。お兄様を困らせてはいけませんよ」
「分かっていますわ、お母様」
「わたくしやアルがいなくても規則正しい生活をしてお勉強もちゃんとするのですよ?」
「分かっておりますって」
「念のため監視を付けて逐一報告させますからね」
「もうっ、お母様ったら! 早く行ってください!」
「お母様は離れていてもいつもロッティーを見ていますからね?」
慌ただしい別れの挨拶を終えて、二人を乗せた馬車が去って行った。
「しばらく寂しくなりそうね……」わたくしはぽつりと呟く。
「大丈夫ですよ! お嬢様には私たち使用人が付いていますから!」と、ミリーが満面の笑みで言った。
「そうね、あなたたちがいるものね」
「はいっ! 奥様にしっかりとお嬢様を見張るようにと仰せつかっていますから!」
「あ、そう……」
そういうことね。わたくしはがっくりと肩を落とした。せっかく領地に一人なのだから贅沢三昧しようと思ったのに。
「さあさ、お嬢様。薬学の先生がお待ちですよ。午後はダンスと剣のお稽古です! 行きましょう!」と、ミリーがわたくしを促す。
「今日くらい休んでもいいじゃない!」
「駄目です! お嬢様はもしかすると未来の王太子妃になられるかもしれないのですから!」
わたくしはにわかに頭が痛くなった。
あぁ、そうだったわね。婚約はまだ宙ぶらりんの状態でどう転ぶか分からないのだったわ。
もう全てを忘れてしまって、領地で余生を楽しく過ごしたいわ……。
願わくば、王家が婚約者を決めかねている間に第一王子とモーガン男爵令嬢が恋に落ちて、さっさと婚約まで漕ぎ着けて欲しいものよね。
この国の貴族は16歳になると3年間王都にある王立学園に通うことが慣例となっている。強制的ではないが、将来のための人脈作りや未来の伴侶を見つけるために基本的には全ての貴族の子供たちがそこに通っていた。
お兄様も春から学園に通うことになるので、今日は少し早めのお引越しなのだ。
「お兄様……寂しくなりますわ」
「僕もだよ、ロッティー。必ず手紙を書くからね」
「はい。わたくしもいっぱいお手紙を書きますわ!」
「楽しみにしているよ。お勉強も頑張るんだよ?」
「もちろんですわ! あ、お兄様、こちらをダイアナ様へ渡していただけますか?」
わたくしは手紙とお土産をお兄様に託した。お兄様はちょっと照れくさそうにそれを受け取っていた。
ついにお兄様とダイアナ様の婚約が決まったのだ!
ダイアナ様が領地から帰ったあとにお兄様がお父様に手紙を書いたみたいで、それからあれよあれよという間にヨーク家とバイロン家で婚約の内定が成立した。もともと両家の間で内密に話を進めていたみたい。家柄的にも釣り合うし、なにより両家とも国王派なのですんなりと決まったようだ。これで派閥が強固になるものね。
それで、お兄様は王都で婚約式を行うために入学より一月以上も前に引っ越すのだ。
婚約式にはお母様も参列するので、しばらくお母様ともお別れとなる。
わたくしも行きたいと何度も懇願したが、現在の自身の微妙な立場ではまだ王都に戻らないほうが良いだろうと、お父様から頑なに拒まれた。せっかくのお兄様の晴れ舞台なのに、残念だわ……。
「お兄様、ダイアナ様によろしくお伝えしてくださいませ」
「分かったよ」
「わたくしも心より祝福しております、と」
「了解。ありがとう」
「絶対これらを渡してくださいましね?」
「大丈夫だよ」
「ダイアナ様を泣かせるようなことがあったら絶対に許しませんからね」
「そんなことしないよ」
「学園で浮気をしたら駄目ですよ?」
「浮気なんてするわけないだろっ!」
珍しくお兄様が大声を上げた。
甘いですわよ、お兄様。今はそう思っていても学園ではどんな出会いがあるか分かりませんわ。だって前回の人生の第一王子がそうだったんですもの。
ま、仮にお兄様が浮気をしようものなら、わたくしが妹として責任を持って成敗して差し上げますわ。
「ロッティー、いい加減になさい。お兄様を困らせてはいけませんよ」
「分かっていますわ、お母様」
「わたくしやアルがいなくても規則正しい生活をしてお勉強もちゃんとするのですよ?」
「分かっておりますって」
「念のため監視を付けて逐一報告させますからね」
「もうっ、お母様ったら! 早く行ってください!」
「お母様は離れていてもいつもロッティーを見ていますからね?」
慌ただしい別れの挨拶を終えて、二人を乗せた馬車が去って行った。
「しばらく寂しくなりそうね……」わたくしはぽつりと呟く。
「大丈夫ですよ! お嬢様には私たち使用人が付いていますから!」と、ミリーが満面の笑みで言った。
「そうね、あなたたちがいるものね」
「はいっ! 奥様にしっかりとお嬢様を見張るようにと仰せつかっていますから!」
「あ、そう……」
そういうことね。わたくしはがっくりと肩を落とした。せっかく領地に一人なのだから贅沢三昧しようと思ったのに。
「さあさ、お嬢様。薬学の先生がお待ちですよ。午後はダンスと剣のお稽古です! 行きましょう!」と、ミリーがわたくしを促す。
「今日くらい休んでもいいじゃない!」
「駄目です! お嬢様はもしかすると未来の王太子妃になられるかもしれないのですから!」
わたくしはにわかに頭が痛くなった。
あぁ、そうだったわね。婚約はまだ宙ぶらりんの状態でどう転ぶか分からないのだったわ。
もう全てを忘れてしまって、領地で余生を楽しく過ごしたいわ……。
願わくば、王家が婚約者を決めかねている間に第一王子とモーガン男爵令嬢が恋に落ちて、さっさと婚約まで漕ぎ着けて欲しいものよね。
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