立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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その後の話:未来の話をしよう

第21話 伯母

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 レシオとティンバーの姿は、エルザ城の地下にあった。
 彼らの前をハルが迷いなく歩いていく。まるで、何度もこの場に来たことがあるような慣れた足取りだ。

 ハルの後姿を見ながら、彼、いや彼女から聞かされた告白を思い出していた。その時、自分が感じた違和感についても。

"どうして……、ハルが女だって聞いて、俺は驚かなかったんだ?"

 彼女の告白、それに対して微塵も驚かなかった自分に、ずっと疑問を抱いていたのだ。ティンバーもハルが女性と知って、あれだけの斜め上行く反応を見せたのだ。レシオ自身も、何かしらのショックを受けるのが普通だろう。

 しかし全く驚かなかった。むしろ、女であると言われしっくりと心に馴染むものがあった。

"確かに……、前にちょっと女っぽいなとは思ったけど……。それでも……"

 以前、ティンバーがハルに惚れている話をした夜の事、眠りに落ちる前に見た、ハルの横顔が思い出される。ゆらゆらと揺れる炎に照らされるハルの顔は、まるで女性のように見えた。かと言って、ハルが女だと知って驚かない理由にはならない。
 
"ハルの記憶……、ティンバーの記憶……、俺の記憶……。何が正しいのか、さっぱり分からない……。とにかく、親父に何があったのか聞かなければ……"

 思考によって重くなる頭を振ると、レシオは締め付けられて苦しい胸を抑えつつ、足を進めていった。

 彼らがたどり着いたのは、家族がプライベートで楽しむ庭園だった。城の中庭とは違い規模は小さいが、綺麗に手入れされ季節に応じた花や草木が、皆を楽しませてくれる。
 この場所は人目に触れることがない為、気心知れた友人などもこの庭に招かれることがあった。

 この庭園に、父親であるエルザ王の姿があった。彼の前には、二つの人影が見える。レシオたちに背を向けている為、顔までは分からないが、ここにいるという事は、エルザ王とかなり親しい関係の者たちという事が想像出来た。

 本来であれば客人に配慮するレシオだが、今はそれどころではなかった。
 大股で先を行くハルを抜くと、和やかに会話を楽しむ父の前に姿を現した。近づく影に気づいたエルザ王は席を立つと、軽く右手を上げて彼らを迎えた。

「お、戻って来たか、レシオ、ティンバー」

 危険だと言われている魔界に送り出した息子の帰還に対して、あまりにも軽すぎる口調。この一言で、父が魔界と繋がりを持っており、安全な世界だと知っていたという事が分かった。

 ミディ王女を救い出せなどという無茶な命令も、父親がその場のノリで考えた事なのだろう。そう思うと、レシオの中にふつふつと怒りが込み上げてくる。
 
「お客様方には申し訳ありませんが、今すぐ父と話したいことがあります」

 もし客人がいなければ、その場で掴みかかっていただろう。辛うじて理性を保ちながら、レシオは父親を睨みつけた。
 息子の只ならぬ様子にエルザ王の表情から、和やかな笑みが消えた。席に座ると、少し諦めた表情で息を吐いた。

 その時、

「私たちに気を遣う必要はないわ。元はといえば、こちらの問題ですもの」

 一点の乱れのない真っすぐな女性の声。エルザ王の前に座る客人から発されたものだ。
 客人は立ち上がると、後ろに立つレシオとティンバーに振り返った。その容貌に、2人の視線は釘付けになり、言葉を失った。

「しばらく見ないうちに、大きくなったわね。レシオ、ティンバー」

 青く腰まで流れる艶やかな髪を靡かせ、彼女は二人の肩を優しく抱きしめた。花よりも香しい甘い香りが、二人の鼻孔をくすぐる。光を纏った青い瞳は細められ、形の良い唇から笑みが溢れた。

 目の前にいるのは、自分たちが今まで見たことのない、美貌の持ち主。
 彼女から目が逸らせずにいながらも、レシオはどこかでこの顔に近いものを見たことがあった。記憶を探ると、城に飾っていた肖像画と何処となく似ている。

「……ミディ……伯母さん?」

「そうよ。あなたと会うのは10年ぶりかしら? あの時も、私の美しさに目が釘付けになっていたわね」

 ふふっと小さく笑うと、女性――ミディは二人から身体を離した。前髪が動き、額に埋め込まれている宝石が光を返す。
 肖像画もそれなりに美しく描かれていたが、現物とはあまりにかけ離れ過ぎている。彼女の美しさは、絵ですら描き表すことが出来ないということなのだろう。

「あなたとは……、赤ん坊の時以来かしら? 10年前は確か、どこかに出かけていて会えなかったから」

 ミディは、頬を赤くして固まっているティンバーに声を掛けた。突然話しかけられ、上ずった声でティンバーが返答をする。

「はっ、はいなのですっ!! ミディ様、初めましてなのですっ!! 『女神さま』って呼ばせて貰っていいですか!?」

「……どことなく、ユニと同じ匂いがする子ね」

 憧れの人、心の師と仰ぐ本人を目の前にして緊張しつつも、ティンバーはいつものティンバーだった。
 青く澄んだ瞳を細め、ミディは苦笑いをしてティンバーの頭を軽く撫でた。女神に触れられ、ティンバーの頬がさらに赤みを増す。
 
 ミディは後ろを振り返ると、黙って息子たちの様子を見ていたエルザ王に言葉をかけた。
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