立派な魔王になる方法

めぐめぐ

文字の大きさ
上 下
208 / 220
その後の話:未来の話をしよう

第15話 町2

しおりを挟む
「ほら、お兄様、これどうぞなのですっ!!」

「んぐっ!!」

 レシオの呼吸が一瞬止まった。咄嗟に中に物を吐き出そうとしてしまったのだが、口の中に広がる肉汁と何とも言えない香ばしい香草と肉の香りに、口内が勝手に咀嚼を開始する。そして無言でもぐもぐすると、口の中の物を喉の奥に押し込んだ。名残惜しそうに唇を舐めると、手のひらを額に置いた。

「うっ、美味過ぎる……。なんだこれ……。絶対にフォークが止まらんやつじゃないか……」

 自分が口にした物の存在に、レシオの中で最上級の称賛を与えた。先ほどの味がまだ残っていないかと、舌で口の中を探っている。
 兄の前に、刺さる物がなくなったフォークを持ったティンバーが立っている。その表情は、自分が作ったわけでもないのにドヤ顔だ。

「ほら、美味しいでしょう、お兄様。お店の人が、さっきの香草をまぶして焼いたお肉を、試食用に下さったのですっ」
  
「まじか……、俺の求めていた味は、ここにあったというのか……。帰ろう、今すぐ帰ろう。そしてめっちゃ肉焼かせよう……、肉パしよう……」

「ちょっ、ちょっと、お兄様っ!! 本来の目的を忘れてはいけないのですっ!」

「もういいだろ、伯母さんなんて。帰って肉食おう、肉」

「だからお兄様っ! 馬を引いて戻ろうとしないでくださいっ!!」

 馬を引いて、本気で元来た道を引き返そうとする兄を、ティンバーが慌てて引き止めた。妹に行く手を塞がれ、小さく舌打ちをするレシオ。よほど、香草焼肉が美味しかったらしい。

 ハルから分けて貰った香草の香りを楽しみながら、ティンバーは彼と店主とのやり取りを思い出した。

「ハルは、この店の常連さんなのですか?」

「常連という程ではないが、何度かあの店で買い物をしていてね。店主が顔を覚えていたみたいだな」

 彼的には常連とまでは思っていないようだ。一方的に店主が、何度か来た彼の事を覚えていたのだろう。まあ、綺麗な顔立ちをしている少年だ。印象に残っていても不思議はない。

 肉パの誘惑を断ち切れないハルは、何かに取り付かれたような空ろな目でハルのフードを引っ張った。

「先ほどの香草のお金ですけど……、あなたは魔界の通貨も持っているんですね」

「あっ、ああ……、少しだが……。ありふれた物を売って、こちらの通貨に変えている」

「……という事は、俺も何か売ったらあの香草が買えるということですね」

「……その為に、『道』を使う許可が出るとは思えないがね。……と言うかレシオ、君、目がやばいぞ……」

 被害者はどっちだと言わんばかりに頬を引きつらせながら、ハルはレシオの手からフードを取り返した。その後、ティンバーから、城に戻ったら香草で肉パをする約束を取り付けたことによって、ようやくレシオがいつもの状態に戻る事となる。

「さて、寄り道してしまったな。ここを真っすぐ行けば、魔界の城だ」

 ハルが向けた視線の先には、魔界とは思えない茶を基調とした美しい造形の城がそびえ立っていた。魔界に降り立った時に見た時に予想した通り、非常に大きな建物だ。城の周りには花が綺麗に咲き乱れており、鮮やかに彩っている。その辺も、魔王が住む城とは思えない一因だろう。

「あの中に、ミディ様がいるのですね……」

 ティンバーが少しだけ緊張した様子で、城を見上げる。

「そうだな……。でもあれだけ大きな城だ。やみくもに探しても、見つかって捕まるのがオチだろうな。そもそもこの城の中にどうやって入るか……だな……」

 レシオは唇を噛んで唸った。父親から、器用だからちゃっちゃっと出来るだろうとか言われたが、正直器用で何とか出来るレベルではない。
 一応国王命令であり、もしかすると何とかなるかもしれないという軽い気持ちでやって来たが、いざ城を目の前にすると途方に暮れてしまった。

 いつもの調子と違う、深刻そうな二人の様子を見て、ハルが口を開いた。

「まあとにかく、城の前まで案内する。付いてきてくれ」

「了解です……、ハル隊長……」

「了解なのです……、ハル隊長……」

「……君たち、感情の起伏が激しいな……」

 いつもと違う、テンションダダ下がりの2人を見ながら、ハルは一つため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...