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その後の話:未来の話をしよう
第14話 町
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馬を走らせた3人は、途中休憩をはさみつつも、意外と早く魔界の城のある町――グレインに辿り着いた。
魔界にたった一つだけある城、その周りに出来た町という事もあり、とても広く大きい。
町を仕切る門を通り抜けると、目の前にはレンガが敷き詰められたメインストリートが広がっている。この町で一番広く長い道であり、城に続く唯一の道である。
馬車や馬の往来が許されており、道行く者たちの横を通り抜けていく。レシオたちは目立たぬよう馬には乗らず、人の波に従いながら歩いていた。
様々な店が立ち並び、エルザ城のあるディートの町と同じく、ここも活気に満ちている。たくさんの人々が行き来し、日々生活している様子は平和そのものだ。ただプロトコルと違うのは、
”これが全て、魔族という事だ”
馬を引きながら進むレシオは、周囲を見回している事を悟られぬよう、出来るだけ視線だけを動かしていた。彼の横を、人間にはない特徴を持つ者たちが時々通り過ぎていく。
ハルの言う通り、ほとんどの魔族は人間と変わらない容姿をしている。しかし時たま、角や爪、目の数などなど、人間にはない特徴を持つ者の姿が見られた。
初めてその特徴を目の当たりにしたレシオとティンバーの表情が固まったのは、言うまでもない。
しかし今はそういう者たちを見ても、平常心を保てるぐらいの余裕は出ている。
「ほんと、こっちの世界と変わらないんですね」
側を歩くハルに、小さくレシオが尋ねた。その言葉に、ハルが小さく頷く。
「そうだろう? だから向こうにいる時と同じようにしていたら大丈夫だ。すでに馴染んで、あそこの露店を見ている者がいるようだが」
「てぃっ、ティンバーっ!!」
ハルが視線で示したのは、彼らから離れて店の前にいるティンバーの姿だった。何やら商品を見て、指を指している。その行動は、馴染みの店に顔を出して談笑を楽しむ常連客そのものだ。めっちゃ馴染んでいる。
レシオは大声で妹の名を呼ぶと、慌てて彼女を連れ戻しに行った。
ティンバーは様々な香草が籠に詰められ、並べられている店の前にいた。どうやら様々な香辛料を取り扱っている店のようだ。
籠に入った香草の他、店先には吊るされ乾燥途中の草花も並べられている。
店の前に立った瞬間、様々な香草の香りが鼻を刺激する。好きな人は好きだが、苦手な人は苦手な香りだ。
そんな兄の心配をつゆとも知らず、ティンバーは呑気に店主と会話を楽しんでいる。
「わー、この葉っぱすっごくいい香りなのですー。お肉料理にめちゃくちゃ合いそうなのですっ」
「お、お嬢さん、香りの分かる方だね? お嬢さんの言う通り、お肉料理の仕上げに振りかけると、とってもいいんだよ。後はこれとこれを組み合わせると……ほら」
「わ―――!! すっごいのですっ!! こんなのかけたら、絶対にフォークが止まらなくなるのですっ!! ダイエット中の女性は、絶対知っちゃダメなやつなのですっ!」
「そうだろそうだろ! このブレンドを買って行ったお客さんは、ほぼ常連になってくれるんだ。……ちょっと目の下に隈を作り、いくら値を張ってもいいから譲ってくれっていいながら……ね……」
「それ絶対にあかんやつだろ―――――――!!!」
妹に変な物を売りつけるなとばかりに、レシオはティンバーを押しのけて突っ込んだ。いきなり可愛い少女が横に倒れ、代わりに大声を上げて突っ込む青髪の少年が現れた為、店主は一瞬怯んだ。しかし次の瞬間、自分のボケを拾ってくれた事に気づき大笑いした。
そんな二人の様子を見かねて、ハルがやって来た。近づくハルに、店主が気づき声を掛ける。
「やあ、お客さん。久しぶりだね」
「……ああ、相変わらずだな、店主。さっきのやつ、一つ貰えるか?」
「いつものやつね。ありがとね」
店主は先ほどティンバーに紹介した、『一度購入するとほぼ常連になるブレンド』を袋に詰めると、彼の手から硬貨を受け取って商品と交換した。
その様子を、唇を震わせ手遅れだったと悔しそうにレシオは膝から崩れ落ちると、拳を地面に叩き付けた。
「ハル……、あなたがすでに被害者の一人だったとは……」
「……断じて違う」
頬を引きつらせながら、レシオの後悔を即座に否定するハル。店主は店主で、レシオの反応が超楽しいらしく、
「ははははっ!! お兄さん、面白いね!! さっきの話は冗談に決まってるだろ?」
そう言って膝をついているレシオの背中をバシバシ叩くと、豪快に笑った。彼を叩く力の強さに、レシオは思わず咳き込んでしまった。
咳で苦しんでいる彼の横では、ハルとティンバーが和気あいあいと、先ほど購入した香草を分け合っている。
”何なんだ……、今から魔界の城に乗り込むっていうのに、この和やかな雰囲気は……。これ物語だと、絶対この後誰か死ぬやつだろ……”
物語でよくある、これから始まる急展開の前の穏やか場面の事だ。この時に、旅が終わった後の約束をしたり、仲の良くなかった相手と心が通じ合ったり、結婚を心に決めたりすると誰かが死ぬ、アレである。
そんな事を考えていると、ティンバーから物凄い勢いで、レシオの口の中に何かが放り込まれた。
魔界にたった一つだけある城、その周りに出来た町という事もあり、とても広く大きい。
町を仕切る門を通り抜けると、目の前にはレンガが敷き詰められたメインストリートが広がっている。この町で一番広く長い道であり、城に続く唯一の道である。
馬車や馬の往来が許されており、道行く者たちの横を通り抜けていく。レシオたちは目立たぬよう馬には乗らず、人の波に従いながら歩いていた。
様々な店が立ち並び、エルザ城のあるディートの町と同じく、ここも活気に満ちている。たくさんの人々が行き来し、日々生活している様子は平和そのものだ。ただプロトコルと違うのは、
”これが全て、魔族という事だ”
馬を引きながら進むレシオは、周囲を見回している事を悟られぬよう、出来るだけ視線だけを動かしていた。彼の横を、人間にはない特徴を持つ者たちが時々通り過ぎていく。
ハルの言う通り、ほとんどの魔族は人間と変わらない容姿をしている。しかし時たま、角や爪、目の数などなど、人間にはない特徴を持つ者の姿が見られた。
初めてその特徴を目の当たりにしたレシオとティンバーの表情が固まったのは、言うまでもない。
しかし今はそういう者たちを見ても、平常心を保てるぐらいの余裕は出ている。
「ほんと、こっちの世界と変わらないんですね」
側を歩くハルに、小さくレシオが尋ねた。その言葉に、ハルが小さく頷く。
「そうだろう? だから向こうにいる時と同じようにしていたら大丈夫だ。すでに馴染んで、あそこの露店を見ている者がいるようだが」
「てぃっ、ティンバーっ!!」
ハルが視線で示したのは、彼らから離れて店の前にいるティンバーの姿だった。何やら商品を見て、指を指している。その行動は、馴染みの店に顔を出して談笑を楽しむ常連客そのものだ。めっちゃ馴染んでいる。
レシオは大声で妹の名を呼ぶと、慌てて彼女を連れ戻しに行った。
ティンバーは様々な香草が籠に詰められ、並べられている店の前にいた。どうやら様々な香辛料を取り扱っている店のようだ。
籠に入った香草の他、店先には吊るされ乾燥途中の草花も並べられている。
店の前に立った瞬間、様々な香草の香りが鼻を刺激する。好きな人は好きだが、苦手な人は苦手な香りだ。
そんな兄の心配をつゆとも知らず、ティンバーは呑気に店主と会話を楽しんでいる。
「わー、この葉っぱすっごくいい香りなのですー。お肉料理にめちゃくちゃ合いそうなのですっ」
「お、お嬢さん、香りの分かる方だね? お嬢さんの言う通り、お肉料理の仕上げに振りかけると、とってもいいんだよ。後はこれとこれを組み合わせると……ほら」
「わ―――!! すっごいのですっ!! こんなのかけたら、絶対にフォークが止まらなくなるのですっ!! ダイエット中の女性は、絶対知っちゃダメなやつなのですっ!」
「そうだろそうだろ! このブレンドを買って行ったお客さんは、ほぼ常連になってくれるんだ。……ちょっと目の下に隈を作り、いくら値を張ってもいいから譲ってくれっていいながら……ね……」
「それ絶対にあかんやつだろ―――――――!!!」
妹に変な物を売りつけるなとばかりに、レシオはティンバーを押しのけて突っ込んだ。いきなり可愛い少女が横に倒れ、代わりに大声を上げて突っ込む青髪の少年が現れた為、店主は一瞬怯んだ。しかし次の瞬間、自分のボケを拾ってくれた事に気づき大笑いした。
そんな二人の様子を見かねて、ハルがやって来た。近づくハルに、店主が気づき声を掛ける。
「やあ、お客さん。久しぶりだね」
「……ああ、相変わらずだな、店主。さっきのやつ、一つ貰えるか?」
「いつものやつね。ありがとね」
店主は先ほどティンバーに紹介した、『一度購入するとほぼ常連になるブレンド』を袋に詰めると、彼の手から硬貨を受け取って商品と交換した。
その様子を、唇を震わせ手遅れだったと悔しそうにレシオは膝から崩れ落ちると、拳を地面に叩き付けた。
「ハル……、あなたがすでに被害者の一人だったとは……」
「……断じて違う」
頬を引きつらせながら、レシオの後悔を即座に否定するハル。店主は店主で、レシオの反応が超楽しいらしく、
「ははははっ!! お兄さん、面白いね!! さっきの話は冗談に決まってるだろ?」
そう言って膝をついているレシオの背中をバシバシ叩くと、豪快に笑った。彼を叩く力の強さに、レシオは思わず咳き込んでしまった。
咳で苦しんでいる彼の横では、ハルとティンバーが和気あいあいと、先ほど購入した香草を分け合っている。
”何なんだ……、今から魔界の城に乗り込むっていうのに、この和やかな雰囲気は……。これ物語だと、絶対この後誰か死ぬやつだろ……”
物語でよくある、これから始まる急展開の前の穏やか場面の事だ。この時に、旅が終わった後の約束をしたり、仲の良くなかった相手と心が通じ合ったり、結婚を心に決めたりすると誰かが死ぬ、アレである。
そんな事を考えていると、ティンバーから物凄い勢いで、レシオの口の中に何かが放り込まれた。
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