立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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その後の話:君が花開く場所

第10話 再会

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 アクノリッジが魔界に来て、もうすぐ半月が経とうとしていた。
 相変わらず、毎日のように物の修理依頼が来て、彼は物いじりに日々の大半を費やしていた。

 フェクトとはあれ以来、プロトコルの話はしていない。しかし、時折何か考え、すぐに頭を振ってため息をついている姿を見ると、アクノリッジの申し出に迷っている様子が伺えた。

 そんなある日。

「おお――い!! 魔王様が!! 魔王様がお越しになられるぞ!!」

 一人の魔族が息を切らしながら、村に知らせを持って戻ってきた。この言葉に、村中の魔族たちが集まって来た。

 以前、城に送った手紙が届き、その返事がすぐさまやって来たのだという。

 魔王自ら赴くという返答が。それも、今日これから。

 恐らく、1ヶ月かかる道のりを、転移魔法でぶっ飛ばしてやって来るのだろう。それ程、魔王にとって、この人間の一件は重要な事だと示していた。

「どういうこと? こんな辺境の地に、魔王様がお見えになるなんて……」

 フェクトが信じられない様子で呟いている。しかしすぐに何かに気が付いたかのように、隣にいる金髪の青年に視線を向けた。

「まっ……、まさか、あんたの為に!?」

「まあ、そうだろうな」

 特に驚いた様子もなく、アクノリッジはフェクトの言葉に頷いた。

 ジェネラルの性格を考えると、アクノリッジが魔界にいると知った瞬間、すぐにでも彼を迎えに来ると分かっていたからだ。

 魔族たちが、村の入口に移動した。

 しばらくすると、1台の馬車と、それを取り囲んで走る4頭の馬の姿が見えてきた。来るタイミングがドンピシャなのを見る限り、恐らく、手紙が届く時間を見計らってやって来たのだろう。
 少人数で来ているところを見ると、公にしたくない訪問だとわかる。

 それはみるみる村に近づき、村の入口に辿り着くと止まった。
 金色に縁どられた赤茶色の立派な馬車に、魔族たちは驚きの表情を浮かべて見ている。この村では、お目にかかれない代物だ。

 馬車を取り囲む護衛の魔族たちは、馬から降りると、馬車のドアを開いた。開いたドアから、中に乗っていた者たちが村人たちの前に姿を現す。

 フェクトを含む村人たちは、初めて見るその姿に視線を逸らせずにいた。

 この世界を司る魔王――ジェネラルの存在に。

 艶を放つ黒髪に、魔力に満ちた黒い瞳。
 男性として、誰もが目を惹く魅力的なその姿の中に、この国を守る者としての威厳と強さが感じられる。
 肩当てのついた黒のマントを身に着け、ジェネラルは馬車から村へと降り立った。

 この地に降り立ったのは、彼だけではなかった。

 馬車の中から現れた、彼よりも小さな影。
 それに対し、魔王はまるで壊れ物を扱うようにそっと手を差し伸べる。
 この国を統べる者が、恭しく手を差し伸べたその者の姿に、村の者たちの動きが止まった。

 言葉では言い尽くせない、至高の美姫がそこにいた。

 腰まで届くかと思われる青い髪をなびかせ、青い瞳に光を宿らせながら、優雅な手つきで魔王の手を取ると、ゆっくりと地に足を付けた。その輝かしい容姿とは反対に、服装は白いブラウスに青いスカートという、非常に簡素な物だ。形の良い耳たぶには、黒い石のイヤリングが輝きを放っている。

「ありがとう、ジェネ」

 そう言って、女性は魔王に軽く礼を言うと、自分に魅了され動けずにいる魔族たちに視線を向けた。

 そして、目的の人物をその青い瞳に捕えた。

「アクノリッジ!!」

 美しき女性の口から、この村にいる人間の名が呼ばれた。その声に、フェクトは驚いて隣にいる青年を見た。

 しかしアクノリッジに、全く驚いた様子はない。寧ろニヤニヤして、手を上げて声に応えている。

「よおミディ。久しぶりだな。元気そうじゃねえか」

 そう言いながらアクノリッジは、魔族たちを押しのけながら、魔王と女性のそばに向かって行った。
 フェクトも、慌てて彼の後を追う。

 呑気な青年の挨拶に、女性の表情が険しくなった。

「元気そうじゃねえか、じゃないわよ! 何故あなたが魔界にいるの!? 知らせを聞いた時、もうびっくりしたわ!」

「本当にそうですよ! 助けて貰えたから良かったものの、下手したら死んでたかもしれないんですよ!?」

 女性――ミディが心配が混じった怒りの表情で、声を荒げた。さらに彼女の言葉を引き継ぎ、ジェネラルもアクノリッジの軽率な行動を咎める。

 ミディを攫った後、知らない気配が魔界に入り込んだら分かるようにしていたジェネラルだったが、相手がよく知るアクノリッジだった為、気づくのが遅れたのだという。

「それに、帰りはどうするつもりだったんですか! プロトコルへ帰る『道』の場所、ご存知ないでしょう!?」

「まっ、とりあえずお前に会えりゃ、何とかしてくれんだろって思ってたから、深く考えてなかったな。お前への信頼ってやつ?」

「アクノリッジさん……、それは信頼じゃなくてただの無計画っていうんですよ!」

「まあいいじゃん。こうしてお前らにも会えた事だし」

「良くないですよ!!」

 手紙でアクノリッジの事を知り、いても経ても居られず最速で迎えに来たのだ。一歩間違えれば危ないところだったのに、結果オーライと言われ、安堵と呆れでジェネラルの心にどっと疲れが押し寄せた。
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