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第155話 略奪
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ジェネラルの口元が、緩んだ。
次の瞬間、まばゆい光が謁見の間にいる人々の目をくらました。あまりの眩しさに、反射的に瞳を庇う人々。
光の影響がなくなり閉じた瞳を開いた時、人々が見たのは。
「ミディ!?」
「みっ、ミディ王女!!」
謁見の間にいる者たちが、口々に王女の名を呼んだ。
それもそのはず。
瞳を開き、真っ先に視界に入っていたのは、王女を抱きかかえるジェネラルの姿だったからだ。抱きかかえられているミディは、状況が把握できてない様子で瞳を見開き、言葉なくジェネラルを見上げている。
ライザーは素早く立ち上がると、キャリアを守るように傍に立った。さらにその彼を守るように、数人の護衛が剣を抜いて立つ。
この状況に、部屋の外で控えていた兵士たちが、大きな足音と武器を鳴らしながら謁見の間に乱入してきた。そして魔王の傍にいたモジュール家の兄弟を引き離すと、素早く剣を抜き、ジェネラルの周りを取り囲む。
しかしそれが無駄な努力だという事は、ここにいる誰もが知っている。
一体これから何が起こるのかと、皆緊張の面持ちで魔王を見つめていた。
そんな緊張感に包まれる空間の雰囲気に対し、ジェネラルには余裕すら感じられる。たくさんの剣を突きつけられているのにも関わらず、彼の表情には笑みが浮かんでいた。
そして、ぽつりと呟く。
「ちょっと、数が多すぎて邪魔かな」
次の瞬間、兵士たちの手から剣が落ちた。もちろん、彼らの意志で剣を取り落としたわけではない。
ジェネラルが魔法を使って、兵士たちの剣をちょいっと動かしたのだ。
魔王が使うには小さな魔法であったが、兵士たちの混乱を引き起こすには十分だった。その混乱の乗じ、ジェネラルはミディを抱き上げたまま、魔法で兵士たちの頭上を飛び越えた。
軽く兵士達の包囲網を抜け出すと、バルコニーに飛び出す。
「にっ、逃がすな!」
護衛の声に、人々が導かれるようにジェネラルたちの後を追う。
魔王はバルコニーの柵を背に、自分を追って来た人々を待っていた。
追い詰められているのに、彼から焦りや恐怖心は、全く感じられない。
ジェネラルの瞳が、すっと細められた。
彼がドラゴンと共に降り立った時と同じ、只ならぬ雰囲気がその場を支配する。
口元に薄く笑みを浮かべると、彼は言い放った。
「エルザの華――ミディローズ・エルザは、我が貰い受ける。返して欲しければ、我を倒しに来るがよい」
凛とした声が、人々の鼓膜を振るわせる。
次の瞬間、物凄い風が人々を襲った。バルコニーからせりあがる巨大な黒い姿に、人々は悲鳴を上げる。
やって来たのは、一体の巨大なドラゴンだった。巨大な四肢と鋭い牙と爪、人々に恐怖を与えるには十分な姿だ。
恐怖に慄き、足を止めている人々を後目に、魔王は魔法で簡単に柵を乗り越えると、衝撃なくドラゴンの上に飛び乗った。
凶暴そうな未確認生物の存在を恐れ、この国の王女が連れ去られると分かっていても、誰も魔王に近づくことは出来ない。
彼は、ドラゴンの上から紙きれを飛ばした。
紙きれは魔力によって、護衛に守られるようにバルコニーに立ちすくむライザーの前にやってくる。魔力に守られたそれにライザーが受け取ったのを見届けると、魔王は口を開いた。
「四大精霊によって作られた、魔界とプロトコルを繋ぐ『道』を示す地図だ」
「四大精霊の……地図だと……?」
王の手には、ミディが四大精霊から授かった『道』を指し示す地図が握られていた。魔界に来る時に使えという事だろう。
魔王は、エルザ王の言葉に一つ頷くと、この場にいる全てに聞こえるよう言葉を発した。
「どのような者がミディローズを救いに来るのか、楽しみに待っている。……我が全力を以て、相手することを約束しよう」
魔王の全力。
目の前の青年は笑いを浮かべているが、後半の言葉には手加減なしの本気を感じさせた。
この言葉に、マジでヤル気だ…という気持ちが、得体の知れない恐怖と共に人々の心を満たす。
ドラゴンが、翼を大きく開いた。強い風が再び人々に襲い掛かる。未確認生物ドラゴンは、魔王と王女を乗せたままバルコニーの上で数回旋回すると、そのまま飛び去っていった。
次の瞬間、まばゆい光が謁見の間にいる人々の目をくらました。あまりの眩しさに、反射的に瞳を庇う人々。
光の影響がなくなり閉じた瞳を開いた時、人々が見たのは。
「ミディ!?」
「みっ、ミディ王女!!」
謁見の間にいる者たちが、口々に王女の名を呼んだ。
それもそのはず。
瞳を開き、真っ先に視界に入っていたのは、王女を抱きかかえるジェネラルの姿だったからだ。抱きかかえられているミディは、状況が把握できてない様子で瞳を見開き、言葉なくジェネラルを見上げている。
ライザーは素早く立ち上がると、キャリアを守るように傍に立った。さらにその彼を守るように、数人の護衛が剣を抜いて立つ。
この状況に、部屋の外で控えていた兵士たちが、大きな足音と武器を鳴らしながら謁見の間に乱入してきた。そして魔王の傍にいたモジュール家の兄弟を引き離すと、素早く剣を抜き、ジェネラルの周りを取り囲む。
しかしそれが無駄な努力だという事は、ここにいる誰もが知っている。
一体これから何が起こるのかと、皆緊張の面持ちで魔王を見つめていた。
そんな緊張感に包まれる空間の雰囲気に対し、ジェネラルには余裕すら感じられる。たくさんの剣を突きつけられているのにも関わらず、彼の表情には笑みが浮かんでいた。
そして、ぽつりと呟く。
「ちょっと、数が多すぎて邪魔かな」
次の瞬間、兵士たちの手から剣が落ちた。もちろん、彼らの意志で剣を取り落としたわけではない。
ジェネラルが魔法を使って、兵士たちの剣をちょいっと動かしたのだ。
魔王が使うには小さな魔法であったが、兵士たちの混乱を引き起こすには十分だった。その混乱の乗じ、ジェネラルはミディを抱き上げたまま、魔法で兵士たちの頭上を飛び越えた。
軽く兵士達の包囲網を抜け出すと、バルコニーに飛び出す。
「にっ、逃がすな!」
護衛の声に、人々が導かれるようにジェネラルたちの後を追う。
魔王はバルコニーの柵を背に、自分を追って来た人々を待っていた。
追い詰められているのに、彼から焦りや恐怖心は、全く感じられない。
ジェネラルの瞳が、すっと細められた。
彼がドラゴンと共に降り立った時と同じ、只ならぬ雰囲気がその場を支配する。
口元に薄く笑みを浮かべると、彼は言い放った。
「エルザの華――ミディローズ・エルザは、我が貰い受ける。返して欲しければ、我を倒しに来るがよい」
凛とした声が、人々の鼓膜を振るわせる。
次の瞬間、物凄い風が人々を襲った。バルコニーからせりあがる巨大な黒い姿に、人々は悲鳴を上げる。
やって来たのは、一体の巨大なドラゴンだった。巨大な四肢と鋭い牙と爪、人々に恐怖を与えるには十分な姿だ。
恐怖に慄き、足を止めている人々を後目に、魔王は魔法で簡単に柵を乗り越えると、衝撃なくドラゴンの上に飛び乗った。
凶暴そうな未確認生物の存在を恐れ、この国の王女が連れ去られると分かっていても、誰も魔王に近づくことは出来ない。
彼は、ドラゴンの上から紙きれを飛ばした。
紙きれは魔力によって、護衛に守られるようにバルコニーに立ちすくむライザーの前にやってくる。魔力に守られたそれにライザーが受け取ったのを見届けると、魔王は口を開いた。
「四大精霊によって作られた、魔界とプロトコルを繋ぐ『道』を示す地図だ」
「四大精霊の……地図だと……?」
王の手には、ミディが四大精霊から授かった『道』を指し示す地図が握られていた。魔界に来る時に使えという事だろう。
魔王は、エルザ王の言葉に一つ頷くと、この場にいる全てに聞こえるよう言葉を発した。
「どのような者がミディローズを救いに来るのか、楽しみに待っている。……我が全力を以て、相手することを約束しよう」
魔王の全力。
目の前の青年は笑いを浮かべているが、後半の言葉には手加減なしの本気を感じさせた。
この言葉に、マジでヤル気だ…という気持ちが、得体の知れない恐怖と共に人々の心を満たす。
ドラゴンが、翼を大きく開いた。強い風が再び人々に襲い掛かる。未確認生物ドラゴンは、魔王と王女を乗せたままバルコニーの上で数回旋回すると、そのまま飛び去っていった。
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