立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第146話 追憶4

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 変わらず、メディアは日々の大半を仕事に費やし、国の為に力を尽くしていた。
 ミディとの関係は変わってしまったが、それが彼女の幸せに繋がると信じ、ひたすら自分の心に目を瞑った。

 そして突然、それはやってきた。

 久しぶりに自邸に戻り、自室に入ったメディアを待っていたのは、フードのついたマントを羽織り、目元を隠した出で立ちの黒い男だった。
 自室に忍び込み、彼を待ち伏せていたようだ。

 部屋の扉を閉めた瞬間、現れた影のような存在に驚いたメディアだが、声を上げる事もなくすぐさま冷静に状況を判断する。
 そして盗賊か何かと結論付けると、腰にさしている剣をすぐさま構え、侵入者に問答無用で切りかかった。

 素早い動きと、鋭い太刀。
 ミディには敵わないが、それでもその辺の兵士とは一線を画す剣技。

 しかし男は、すっと小さな動きで彼の攻撃をかわした。そして、両手を上げて戦う意志がない事を示すと、一つの名を口にした。

「私に、あなた様と戦う意志はありません。……ディレイ・スタンダード様」

 メディアの動きが止まった。
 剣を振り下ろさんとした体制のまま、驚愕の表情で目の前の男を見ている。

「……何故、その名を」

 思わず、心の声が口に出てしまった。

 それもそのはずだ。
 全ての繋がりを消す為に、ディレイ・スタンダードを死んだことにし、他人の人生を買ったのだから。

 普通に調べただけでは、決して自分と繋がるはずのない名を、目の前の男が口にしている。
 彼が驚き、動きを止めたのも仕方なかった。

 男は、メディアの剣の範囲から離れると、彼に非礼を詫びた。

「申し訳ございません。あなた様をよく知る為、少し調べさせて頂いたのです。ディレイ……、いや今はメディア・ティック様とお呼びした方が良さそうですね」

 相手の動きが止まり余裕が出たのか、敵は小さく笑って言う。
 その様子に、メディアの警戒感がますます高まった。
 
「……お前は何者だ。何が目的だ」

「私は、あなた様の協力者ですよ。あなた様の望みを叶える為に、やってきました」

「望み……だと?」

 男の言っている事が分からず、思わず言葉を反芻する。男は口端を上げた。目元は隠されている為分からないが、メディアの言葉に同意するかのように笑みを浮かべているようだ。

「その通り。ここしばらくあなた様を観察させて頂きましたが……、悩まれているご様子だったので。……恐らく、あなたの望みと我々の望みには共通するものがある。きっと、お役に立てると思いますよ」

「……言っている事が理解出来ない。悩んでいる? 私の望みがお前たちと共通する? 何を企んでいるか知らないが、この国に害を成すものは、生かしてはおけない」

 楽しそうに理由を語る男に、メディアは再度剣を向けた。

 男の言っている事が理解できないが、男の雰囲気、そして話し方から、何かを企んでいる事は伝わってくる。それが、この国にとって良くない事であるのは、間違いない。

 このまま切り捨てようと一歩踏み出した時。

「ミディローズ様を、愛していらっしゃるのでしょう?」

 男の言葉に、そのまま相手の胸元に突き刺さるはずだった剣先が止まった。
 メディアの心に強い衝撃が走り、足元から冷たい何かが上がってくるのが感じられる。息が上がり、口の中が乾いていく。 

「……何を言って……いる」

 男の言葉に反論しようにも、それ以上彼の口から言葉が続くことはなかった。
 メディアの瞳は男に向けられているが、男を映していない。

 今まで一度も見ようとしなかった、押さえつけてきた思いが、目の前の侵入者の言葉によって、解放されようとしていた。

 始めは、不思議な力を使う王女への興味から。
 その次は、自分に心を与えてくれた王女への感謝から。

 何も持たない自分が出来る事で、王女の幸せだけを願ってきた。
 その気持ちに、変化が起こっていた事に気づきながらも、ずっと気づかない振りをしてきた。

 ミディに憎まれまでして、自分の気持ちをずっと押さえつけてきたというのに、それがたった一言で解放されようとしている。

「私は、こういった隠された気持ちとやらを、見抜くのが得意でしてね……。ふむ……、まだご自身のお気持ちに気づいておられないご様子。それなら少し、協力して差し上げましょう」

 男は、無力化されたメディアの剣を払った。払われた剣が、厚い絨毯の上に音を立てずに落ちる。そうされてもなお動けぬメディアに向かって、影は囁いた。

「あなた様が、ミディローズ王女をどれ程想っているのかを……。そして愛する王女に、あなた様が本当は何をしたいのかを……ね」

 次の瞬間、メディアの体に衝撃が走り、彼は意識を失った。


 男は、レージュからの使者プリングと名乗った。
 メディアはこの男の策略にはまり、ずっと隠し、偽り続けたミディへの気持ちを突きつけられることになる。

 彼にとって最悪ともいえる方法で。

 それによって、確かにメディアは認めざるを得なかった。

 自分が、ただ幸せを願った王女を愛している事を。

 そして同時に、直視できぬ程のドス黒い感情も引きずり出された。

 ―—何としてでも、ミディローズを自分のものにしたいという気持ちを。


 絶望に暗く沈んだ瞳で、メディアはプリングの―—レージュ王国の手を取った。
 自分の心を救ってくれた王女の為、国に尽くした青年は、全てを裏切りエルザ王国に仇なす存在へと成り下がった。
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