145 / 220
第144話 追憶2
しおりを挟む
王女から贈られた感謝は、メディアの心に変化をもたらした。
今まで空っぽだった自分の心が脈打ち動き始めた時、ようやく自分が人間らしい人間になれたと感じた。
ディレイ・スタンダードだった過去から、ようやく解放された気がした。
そのきっかけをくれたミディに、何としてでも報いたかった。
しかし身一つでこの国にやってきた為、権力の後ろ盾も財力も、彼にはない。
あるのは、彼の能力だけ。
今の立場、そして能力を使って、王女の為に出来ること。それは、
“この国の繁栄の為、力を尽くそう。ミディローズ様がこの先、何の不自由も不安もなく、幸せに過ごして頂けるように”
国を発展させ、王女の幸せを確たるものとする。それが、メディアがミディに還すことが出来る恩だと思った。
それからのメディアは、それまで以上に仕事に注力した。
しばらくして、自分を補佐に抜擢した大臣の退任により、国を支える4人の大臣の一人に任命されることになる。
大臣となり、忙しい日々を送る中でも、時折ミディから剣術稽古の相手を申し込まれ、剣を交えることもあった。それはメディアにとって、心を満たす大切な時間でもあった。
全てが順調だった。
誰よりも幸せにと願ってきた王女に、結婚話がもちあがるまでは。
* * *
「ミディローズ様の結婚相手……ですか……」
大臣長兼相談役となったメディアは、少し戸惑った様子で王の言葉を反芻した。
ライザーは腕を組むと困った表情を浮かべ、彼の言葉に頷いた。
「まあミディも16歳だから、そろそろな。しかし、本人がな……」
「ミディローズ様が、どうかされましたか?」
「ああ……。何か『結婚相手は、自分よりも強い者じゃないと嫌!』とか言って、聞く耳を持たない」
「自分より強い者ですか……。あれだけ武術に長けたミディローズ様に敵うものなど、そう簡単には見つかりそうになさそうですが。特に、貴族や王族ともなると、なおさら……」
王族や貴族は、基本守られる立場の者たちだ。護身術や趣味で剣術を学ぶものはごまんといるが、ミディのように極めている者はそういない。
メディアの言葉に、王も同感だと頷く。
「あの娘は頑固だからな。自分が決めたことは、そう簡単には曲げまい。しかし、このまま相手が見つからず、行き遅れても困るし、『自分よりも強い』という条件を満たしたからと、危険な相手を選ばれても困る」
娘の気持ちは尊重したいが、親として心配もある。王の顔にはそう書いてあった。
王が何を求めているかを感じ取ったメディアは、安心させるように口元に笑みを浮かべて提案した。
「では、私の方でミディローズ様の結婚相手を見定めましょう。これから来る縁談は、全て私を通して頂きたい。相手が相応しいか調べ、問題がなければミディローズ様と会わせる。そうすれば、王が心配されているような相手を選ぶこともないでしょう」
相談役の提案に、ライザーの表情が明るくなった。
「それなら安心だな。ただでさえ、膨大な量の仕事があるというのに、ミディの事まで……。負担をかけるな、メディア」
「……いえ。これも全て、エルザ王国の繁栄の為です」
王の謝罪に、メディアは瞳を伏せ首を横に振った。
ライザーの心配事が解決した為、ミディの結婚話は別の話題へと切り替わった。
メディアは王の言葉に相槌を打ち、時折意見を述べながら、頭の中では別の事を考えていた。
“ミディローズ様の結婚は、この国の為に必要な事。あの方の幸せに大切な事なはずなのに……、何だ、この気持ちは……?”
理性と感情。今まで一つとなって同じ道を進んでいたものが、小さなずれを発生させた瞬間だった。
今まで空っぽだった自分の心が脈打ち動き始めた時、ようやく自分が人間らしい人間になれたと感じた。
ディレイ・スタンダードだった過去から、ようやく解放された気がした。
そのきっかけをくれたミディに、何としてでも報いたかった。
しかし身一つでこの国にやってきた為、権力の後ろ盾も財力も、彼にはない。
あるのは、彼の能力だけ。
今の立場、そして能力を使って、王女の為に出来ること。それは、
“この国の繁栄の為、力を尽くそう。ミディローズ様がこの先、何の不自由も不安もなく、幸せに過ごして頂けるように”
国を発展させ、王女の幸せを確たるものとする。それが、メディアがミディに還すことが出来る恩だと思った。
それからのメディアは、それまで以上に仕事に注力した。
しばらくして、自分を補佐に抜擢した大臣の退任により、国を支える4人の大臣の一人に任命されることになる。
大臣となり、忙しい日々を送る中でも、時折ミディから剣術稽古の相手を申し込まれ、剣を交えることもあった。それはメディアにとって、心を満たす大切な時間でもあった。
全てが順調だった。
誰よりも幸せにと願ってきた王女に、結婚話がもちあがるまでは。
* * *
「ミディローズ様の結婚相手……ですか……」
大臣長兼相談役となったメディアは、少し戸惑った様子で王の言葉を反芻した。
ライザーは腕を組むと困った表情を浮かべ、彼の言葉に頷いた。
「まあミディも16歳だから、そろそろな。しかし、本人がな……」
「ミディローズ様が、どうかされましたか?」
「ああ……。何か『結婚相手は、自分よりも強い者じゃないと嫌!』とか言って、聞く耳を持たない」
「自分より強い者ですか……。あれだけ武術に長けたミディローズ様に敵うものなど、そう簡単には見つかりそうになさそうですが。特に、貴族や王族ともなると、なおさら……」
王族や貴族は、基本守られる立場の者たちだ。護身術や趣味で剣術を学ぶものはごまんといるが、ミディのように極めている者はそういない。
メディアの言葉に、王も同感だと頷く。
「あの娘は頑固だからな。自分が決めたことは、そう簡単には曲げまい。しかし、このまま相手が見つからず、行き遅れても困るし、『自分よりも強い』という条件を満たしたからと、危険な相手を選ばれても困る」
娘の気持ちは尊重したいが、親として心配もある。王の顔にはそう書いてあった。
王が何を求めているかを感じ取ったメディアは、安心させるように口元に笑みを浮かべて提案した。
「では、私の方でミディローズ様の結婚相手を見定めましょう。これから来る縁談は、全て私を通して頂きたい。相手が相応しいか調べ、問題がなければミディローズ様と会わせる。そうすれば、王が心配されているような相手を選ぶこともないでしょう」
相談役の提案に、ライザーの表情が明るくなった。
「それなら安心だな。ただでさえ、膨大な量の仕事があるというのに、ミディの事まで……。負担をかけるな、メディア」
「……いえ。これも全て、エルザ王国の繁栄の為です」
王の謝罪に、メディアは瞳を伏せ首を横に振った。
ライザーの心配事が解決した為、ミディの結婚話は別の話題へと切り替わった。
メディアは王の言葉に相槌を打ち、時折意見を述べながら、頭の中では別の事を考えていた。
“ミディローズ様の結婚は、この国の為に必要な事。あの方の幸せに大切な事なはずなのに……、何だ、この気持ちは……?”
理性と感情。今まで一つとなって同じ道を進んでいたものが、小さなずれを発生させた瞬間だった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。
Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。
そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。
二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。
自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。
仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。
実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。
たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。
そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。
そんなお話。
フィクションです。
名前、団体、関係ありません。
設定はゆるいと思われます。
ハッピーなエンドに向かっております。
12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。
登場人物
アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳
キース=エネロワ;公爵…二十四歳
マリア=エネロワ;キースの娘…五歳
オリビエ=フュルスト;アメリアの実父
ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳
エリザベス;アメリアの継母
ステルベン=ギネリン;王国の王
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる