140 / 220
第139話 傷跡
しおりを挟む
ミディは、ジェネラルの叫びも耳に入らない状態で、ただ目的地へと向かって走った。
監禁中、ほとんど動いていなかった為、そしてボロアの葉の影響で、急激な運動は彼女に大きな負担をかけていた。
次第に足は震え出し、走るための安定感を失っていった。しかし言う事を聞かない足を何とか動かし、壁に手をついてそれでも進んで行く。
メディアが投獄されている地下牢へ。
全てを、確かめるために。
ミディが地下牢の入口にたどり着いた時、地下牢内は騒然となっていた。主に兵士たちが集まり、何かを口々に叫びながら、起こった非常事態に慌ただしく対処している。
「報告を!! 早く王に報告を!!」
王女の耳に、兵士が侍女に怒鳴りつける声が聞こえた。
只ならぬ地下牢の様子に不安を感じつつも、ミディは何度か大きく息を吸い呼吸と整えると、地下牢に足を踏み入れた。
ただでさえ非常事態の中、決して居てはならない人物が現れ、兵士たちの間に更なる混乱が起こった。皆、突然現れたミディの存在に、驚きを隠せない表情をしている。
地下牢という場所の為、これ以上王女の侵入を許さないよう、兵士がミディの行く手を塞いだ。
「ミディローズ様!! このようなところにいらっしゃっては……」
「いいからそこを空けなさい!! 私は、メディアに用があるのです!!」
兵士の言葉を最後まで聞かず、ミディは兵士を怒鳴りつけた。
王女の鬼気迫る表情に圧され、兵士は思わず敬礼し、牢に続く道を開けてしまう。
メディアの元に向かうミディの不安が、どんどん大きく膨らんでいく。思うように動かない体、そして重くなっていく胸の苦しみを抱きながら、ミディは進んで行った。
目的地にたどり着いた。
彼女の目の前に、牢に囚われたメディアの姿が映る。
「……そんな……」
目の前に飛び込んできた光景に、ミディは手に持っていたハンカチを落とし、絶句した。
メディアは壁を背に座り込み、まるで眠っているかのように瞳を閉じていた。
彼の横には城医が控え、メディアの腕や首元に指を置いて、脈を測っている。
そして、これ以上は無駄だとばかりに、首を左右に振った。脈を測っていた手を放し、そっと彼の膝の前に置いた。
城医は、この場所にあるはずのない存在に気づき、目を見開いた。城医が口を開く前に、ミディがメディアの状況をかすれる声で尋ねた。
「どうしたの……? メディアは……。この男は……」
「お亡くなりになりました。毒をあおって……自害なされました」
「えっ……」
城医の言葉に、ミディはただ短い言葉を漏らしただけだった。
何かに操られるかのように、ミディは牢に入ると、メディアの横に座った。ひんやりとした石の床は決して清潔ではなかったが、着ている物が汚れる事など、今のミディにはどうでもよかった。
震える手でメディアの左腕をとった。
ミディの練習相手となる程の剣術の腕を持っていたのだ。一見細く見える腕だったが、手に取るとずっしり重く、そして冷たい。
ミディは、手元がおぼつかない様子で左腕の袖をめくり上げた。
メディアの肌が現れた。そこには、
――—白く残った傷跡。
「……あっ……、ああっ……」
ミディは言葉にならない声を上げ、メディアの腕を城医と同じく、死者の膝の上に置いた。
確かめなければならないことに、答えが出たのだ。
「……うそ…よ……。あの人が……、私を助けてくれたあの…人が……」
王女の体から力が抜けた。立つことは、出来なかった。
ただ、心に留めておくことのできない言葉が、彼女の唇から漏れる。その瞳は、メディアの遺体だけを映していた。
ジェネラルたちが地下牢に着いた。目的地が分からず、城内の人々の話を聞きながらやって来た為、遅くなってしまったのだ。
そこで彼らが目にしたのは、
「嘘よ!! 嘘よ嘘よ嘘よ!!! うっ……、あっ……ああああああああ――――――!!」
自分を傀儡にし、国を乗っ取ろうとした反逆者にすがり、涙を流して叫ぶミディの姿だった。
監禁中、ほとんど動いていなかった為、そしてボロアの葉の影響で、急激な運動は彼女に大きな負担をかけていた。
次第に足は震え出し、走るための安定感を失っていった。しかし言う事を聞かない足を何とか動かし、壁に手をついてそれでも進んで行く。
メディアが投獄されている地下牢へ。
全てを、確かめるために。
ミディが地下牢の入口にたどり着いた時、地下牢内は騒然となっていた。主に兵士たちが集まり、何かを口々に叫びながら、起こった非常事態に慌ただしく対処している。
「報告を!! 早く王に報告を!!」
王女の耳に、兵士が侍女に怒鳴りつける声が聞こえた。
只ならぬ地下牢の様子に不安を感じつつも、ミディは何度か大きく息を吸い呼吸と整えると、地下牢に足を踏み入れた。
ただでさえ非常事態の中、決して居てはならない人物が現れ、兵士たちの間に更なる混乱が起こった。皆、突然現れたミディの存在に、驚きを隠せない表情をしている。
地下牢という場所の為、これ以上王女の侵入を許さないよう、兵士がミディの行く手を塞いだ。
「ミディローズ様!! このようなところにいらっしゃっては……」
「いいからそこを空けなさい!! 私は、メディアに用があるのです!!」
兵士の言葉を最後まで聞かず、ミディは兵士を怒鳴りつけた。
王女の鬼気迫る表情に圧され、兵士は思わず敬礼し、牢に続く道を開けてしまう。
メディアの元に向かうミディの不安が、どんどん大きく膨らんでいく。思うように動かない体、そして重くなっていく胸の苦しみを抱きながら、ミディは進んで行った。
目的地にたどり着いた。
彼女の目の前に、牢に囚われたメディアの姿が映る。
「……そんな……」
目の前に飛び込んできた光景に、ミディは手に持っていたハンカチを落とし、絶句した。
メディアは壁を背に座り込み、まるで眠っているかのように瞳を閉じていた。
彼の横には城医が控え、メディアの腕や首元に指を置いて、脈を測っている。
そして、これ以上は無駄だとばかりに、首を左右に振った。脈を測っていた手を放し、そっと彼の膝の前に置いた。
城医は、この場所にあるはずのない存在に気づき、目を見開いた。城医が口を開く前に、ミディがメディアの状況をかすれる声で尋ねた。
「どうしたの……? メディアは……。この男は……」
「お亡くなりになりました。毒をあおって……自害なされました」
「えっ……」
城医の言葉に、ミディはただ短い言葉を漏らしただけだった。
何かに操られるかのように、ミディは牢に入ると、メディアの横に座った。ひんやりとした石の床は決して清潔ではなかったが、着ている物が汚れる事など、今のミディにはどうでもよかった。
震える手でメディアの左腕をとった。
ミディの練習相手となる程の剣術の腕を持っていたのだ。一見細く見える腕だったが、手に取るとずっしり重く、そして冷たい。
ミディは、手元がおぼつかない様子で左腕の袖をめくり上げた。
メディアの肌が現れた。そこには、
――—白く残った傷跡。
「……あっ……、ああっ……」
ミディは言葉にならない声を上げ、メディアの腕を城医と同じく、死者の膝の上に置いた。
確かめなければならないことに、答えが出たのだ。
「……うそ…よ……。あの人が……、私を助けてくれたあの…人が……」
王女の体から力が抜けた。立つことは、出来なかった。
ただ、心に留めておくことのできない言葉が、彼女の唇から漏れる。その瞳は、メディアの遺体だけを映していた。
ジェネラルたちが地下牢に着いた。目的地が分からず、城内の人々の話を聞きながらやって来た為、遅くなってしまったのだ。
そこで彼らが目にしたのは、
「嘘よ!! 嘘よ嘘よ嘘よ!!! うっ……、あっ……ああああああああ――――――!!」
自分を傀儡にし、国を乗っ取ろうとした反逆者にすがり、涙を流して叫ぶミディの姿だった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます
めぐめぐ
恋愛
公爵令嬢であるアンティローゼは、婚約者エリオットの想い人であるルシア伯爵令嬢に嫌がらせをしていたことが原因で婚約破棄され、彼に突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んでしまった。
気が付くと闇の世界にいた。
そこで彼女は、不思議な男の声によってこの世界の真実を知る。
この世界が恋愛小説であり《読者》という存在の影響下にあることを。
そしてアンティローゼが《悪役令嬢》であり、彼女が《悪役令嬢》である限り、断罪され死ぬ運命から逃れることができないことを――
全てを知った彼女は決意した。
「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」
※全12話 約15,000字。完結してるのでエタりません♪
※よくある悪役令嬢設定です。
※頭空っぽにして読んでね!
※ご都合主義です。
※息抜きと勢いで書いた作品なので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです(笑)
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。
だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。
そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました
やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>
フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。
アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。
貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。
そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……
蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。
もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。
「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」
「…………はぁ?」
断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。
義妹はなぜ消えたのか……?
ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?
義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?
そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?
そんなお話となる予定です。
残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……
これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……
多分、期待に添えれる……かも?
※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。
領主様、冒険者ギルドの窓口で謎解きの依頼はおやめください
悠木真帆
恋愛
冒険者ギルド職員のサリサは冒険者たちの活動のために日々事務仕事に追われている。そんなある日。サリサの観察眼に目をつけた領主ヴィルテイト・リーベルトが冒険者ギルドにやってきてダンジョンで見つかった変死体の謎解きを依頼してくる。サリサはすぐさま拒絶。だが、その抵抗を虚しく事件解決の当事者に。ひょんなことから領主と冒険者ギルド職員が組んで謎解きをすることに。
はじめは拒んでいたサリサも領主の一面に接して心の距離が縮まっていくーー
しかし事件は2人を近づけては引き離す
忙しいサリサのところに事件が舞い込むたび“領主様、冒険者ギルドの窓口で謎解きの依頼はおやめください”と叫ぶのであった。
【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください
未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。
「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」
婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。
全4話で短いお話です!
私は悪くありません。黙って従うように言われたのですから。
田太 優
恋愛
お貴族様に見染められて幸せに暮らせるなんて物語の世界の中だけ。
領主様の次男であり街の代官という立場だけは立派な人に見染められたけど、私を待っていたのは厳しい現実だった。
酒癖が悪く無能な夫。
売れる物を売り払ってでも酒を用意しろと言われ、買い取りを頼もうと向かった店で私は再会してしまった。
かつて私に好意の眼差しを向けてくれた人。
私に協力してくれるのは好意から?
それとも商人だから?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる