立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第120話 伝言2

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「ジェネラル様からのご伝言です。『魔族たちの説得は済んだ』と。後一つ、『しばらくは身動きが出来ない。しかし約束の日には必ず間に合わせる。後は手配通りに』との事です」

「……そうか。わざわざありがとうな、ユニ」

「いえ、これが私《わたくし》の務めですから」

 微笑みを浮かべ、ユニが言葉を返した。穏やかな、そして城の女中たちを取り仕切る誇り高き女中頭の顔が、そこにあった。
 
 ユニの言葉に思うところがあったのか、シンクが少女に頭を下げる。

「プロトコルの事なのに、魔族まで巻き込んですまなかったな」

 本来であれば、プロトコルの事はプロトコルで解決すべきことだ。ミディの事が好きなジェネラルならともかく、その他の魔族までこの件に絡むことになり、申し訳なく思っていたのだ。

 てっきり本心を隠し、差し障りのない回答をするかと思っていたシンクだったが、ユニの反応は違った。
 やはり、何がトリガーになったのか分からないが、再び、先ほどの謎の暴走モードに突入する。

「いえいえいえいえ!! 何を仰いますか!! ミディ様のお役に立てるなんて、至極光栄の至り!! 魔界では、ミディ様はジェネラル様を鍛えて下さった恩人として称えられております。その恩人の危機を見過ごすなど、我々の中にそんな魔族の良心を失った低俗な輩はおりません。皆、喜んで賛同いたしましたわ!! それなのにジェネラル様は、我々に頭を下げて……。まあそういうお優しさが、ジェネラル様の良いところであり、我々の誇りであるのですが。ああ……、頭など下げずとも、一つ命令さえ下してくだされば、ジェネラル様を切りつけたあの輩を……、ジェネラル様のお体に傷をつけたあの……あの輩を!! 我が地獄の業火で人生3回分は焼き尽くしましたのに!!」  

「おっ…、おう…。なんか……、悪かったな……」

 シンクが、完全に引きながら、悪い事を一言も言っていないのに謝った。
 後半よく意味が分からなかったが、とりあえず問題なく説得が出来たという事と、目の前の少女が崇高に近い並々ならぬ感情をジェネラルに抱いていることは伝わってきた。

 先程までの、誇り高き女中頭の顔はどこに行ったのか。

 ユニは言いたい事を言い、スッキリした表情で香茶に口を付けた後、立ち上がった。
 一つ礼をし、若干引いたままの二人にお暇を告げる。

「ごちそうさまでした。それでは私《わたくし》はまだやらなければならない事がありますので、ここで失礼させて頂きます」

 連絡役以外にも、仕事を課せられているらしい。

「もう行くのか? ここまで長旅だったんだろ? 少し休んで行けば……」

「いえ、そういうわけには参りません。しかしお気遣い感謝いたします、シンク様」

「そうか、足止めして悪かったな。本来なら、目的地まで送るべきなんだけどよ……」

 シンクの表情が陰る。こんな夜中に少女一人行かせるなど、危険極まりない。訪問者が少女だと知った今、誰もが思う事だろう。この二人も例外ではない。

 しかし、メディアに見張られている可能性を考えると、モジュール家が動くわけにはいかなかった。ただでさえ、情報を得る為に危険な橋を渡っているのだ。

 これ以上、危険を抱え込むことは出来なかった。

 ユニも、その辺の事情は聞いているらしい。二人を安心させるよう、自分が選ばれた理由を述べる。

「ふふっ、大丈夫ですよ、シンク様。私《わたくし》、魔族の中では随一の移動の速さを誇るのです。だから、お二人の連絡役として選ばれたのですよ」

「移動が速い? 足が速いのか?」

「えー……、足が早いと申しますか……」

 どう説明しようかと、ユニは人差し指を唇に当て、視線を上に向けて考えていた。
 が、少女はおもむろに、二つくくりしている髪を解く。

 髪が肩につくのと同時に、耳の少し上のあたりから、ぴょんっと何かが飛び出した。

 小さな一対の蝙蝠羽根に見える。

「……我が血を以て、大空を翔る力のみ覚醒せよ」

 ユニの口から、呪文が紡がれる。それと同時に、ユニの茶色の瞳が虹色に変わり、頭から突き出た小さな蝙蝠羽根に変化が起こった。

 アクノリッジもシンクも、見覚えがあった。
 ユニの頭には、彼女の倍あるかと思われる、翼が生えていたのだ。

 数か月前、モジュール家の城を破壊したドラゴンの翼が。

 言葉を失う二人を前に、ユニは小さな胸を張って頭の翼を揺らした。
 そして先ほどと変わらない笑顔で、自分は大丈夫なのだと重ねて伝える。

「これで空を飛んでまいりますので、ご心配無用です」

「おっ…、おう…。なんか……、まあ、気を付けてな」

「はい! ありがとうございます、アクノリッジ様」

 ユニが元気に答えた。が、アクノリッジは完全に引いている。

 多分、こちらに来る際も、この翼で飛んできたのだろう。空を飛ぶのだから、危険と遭遇する可能性は、かなり少ない。
 万が一飛んでいる姿が見つかったとしても、あの姿だ。
 未確認生物ドラゴンと思われ、町でちょっとした噂になるくらいだろう。

 翼をしまい、秘密の穴を入るユニの姿を見ながら、

“……魔族って、もしかしてこんなやつらばっかりなのか?”

 かつてジェネラルが人間に対して感じた事を、今、魔族に対しアクノリッジも思っていた。
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