121 / 220
第120話 伝言2
しおりを挟む
「ジェネラル様からのご伝言です。『魔族たちの説得は済んだ』と。後一つ、『しばらくは身動きが出来ない。しかし約束の日には必ず間に合わせる。後は手配通りに』との事です」
「……そうか。わざわざありがとうな、ユニ」
「いえ、これが私《わたくし》の務めですから」
微笑みを浮かべ、ユニが言葉を返した。穏やかな、そして城の女中たちを取り仕切る誇り高き女中頭の顔が、そこにあった。
ユニの言葉に思うところがあったのか、シンクが少女に頭を下げる。
「プロトコルの事なのに、魔族まで巻き込んですまなかったな」
本来であれば、プロトコルの事はプロトコルで解決すべきことだ。ミディの事が好きなジェネラルならともかく、その他の魔族までこの件に絡むことになり、申し訳なく思っていたのだ。
てっきり本心を隠し、差し障りのない回答をするかと思っていたシンクだったが、ユニの反応は違った。
やはり、何がトリガーになったのか分からないが、再び、先ほどの謎の暴走モードに突入する。
「いえいえいえいえ!! 何を仰いますか!! ミディ様のお役に立てるなんて、至極光栄の至り!! 魔界では、ミディ様はジェネラル様を鍛えて下さった恩人として称えられております。その恩人の危機を見過ごすなど、我々の中にそんな魔族の良心を失った低俗な輩はおりません。皆、喜んで賛同いたしましたわ!! それなのにジェネラル様は、我々に頭を下げて……。まあそういうお優しさが、ジェネラル様の良いところであり、我々の誇りであるのですが。ああ……、頭など下げずとも、一つ命令さえ下してくだされば、ジェネラル様を切りつけたあの輩を……、ジェネラル様のお体に傷をつけたあの……あの輩を!! 我が地獄の業火で人生3回分は焼き尽くしましたのに!!」
「おっ…、おう…。なんか……、悪かったな……」
シンクが、完全に引きながら、悪い事を一言も言っていないのに謝った。
後半よく意味が分からなかったが、とりあえず問題なく説得が出来たという事と、目の前の少女が崇高に近い並々ならぬ感情をジェネラルに抱いていることは伝わってきた。
先程までの、誇り高き女中頭の顔はどこに行ったのか。
ユニは言いたい事を言い、スッキリした表情で香茶に口を付けた後、立ち上がった。
一つ礼をし、若干引いたままの二人にお暇を告げる。
「ごちそうさまでした。それでは私《わたくし》はまだやらなければならない事がありますので、ここで失礼させて頂きます」
連絡役以外にも、仕事を課せられているらしい。
「もう行くのか? ここまで長旅だったんだろ? 少し休んで行けば……」
「いえ、そういうわけには参りません。しかしお気遣い感謝いたします、シンク様」
「そうか、足止めして悪かったな。本来なら、目的地まで送るべきなんだけどよ……」
シンクの表情が陰る。こんな夜中に少女一人行かせるなど、危険極まりない。訪問者が少女だと知った今、誰もが思う事だろう。この二人も例外ではない。
しかし、メディアに見張られている可能性を考えると、モジュール家が動くわけにはいかなかった。ただでさえ、情報を得る為に危険な橋を渡っているのだ。
これ以上、危険を抱え込むことは出来なかった。
ユニも、その辺の事情は聞いているらしい。二人を安心させるよう、自分が選ばれた理由を述べる。
「ふふっ、大丈夫ですよ、シンク様。私《わたくし》、魔族の中では随一の移動の速さを誇るのです。だから、お二人の連絡役として選ばれたのですよ」
「移動が速い? 足が速いのか?」
「えー……、足が早いと申しますか……」
どう説明しようかと、ユニは人差し指を唇に当て、視線を上に向けて考えていた。
が、少女はおもむろに、二つくくりしている髪を解く。
髪が肩につくのと同時に、耳の少し上のあたりから、ぴょんっと何かが飛び出した。
小さな一対の蝙蝠羽根に見える。
「……我が血を以て、大空を翔る力のみ覚醒せよ」
ユニの口から、呪文が紡がれる。それと同時に、ユニの茶色の瞳が虹色に変わり、頭から突き出た小さな蝙蝠羽根に変化が起こった。
アクノリッジもシンクも、見覚えがあった。
ユニの頭には、彼女の倍あるかと思われる、翼が生えていたのだ。
数か月前、モジュール家の城を破壊したドラゴンの翼が。
言葉を失う二人を前に、ユニは小さな胸を張って頭の翼を揺らした。
そして先ほどと変わらない笑顔で、自分は大丈夫なのだと重ねて伝える。
「これで空を飛んでまいりますので、ご心配無用です」
「おっ…、おう…。なんか……、まあ、気を付けてな」
「はい! ありがとうございます、アクノリッジ様」
ユニが元気に答えた。が、アクノリッジは完全に引いている。
多分、こちらに来る際も、この翼で飛んできたのだろう。空を飛ぶのだから、危険と遭遇する可能性は、かなり少ない。
万が一飛んでいる姿が見つかったとしても、あの姿だ。
未確認生物ドラゴンと思われ、町でちょっとした噂になるくらいだろう。
翼をしまい、秘密の穴を入るユニの姿を見ながら、
“……魔族って、もしかしてこんなやつらばっかりなのか?”
かつてジェネラルが人間に対して感じた事を、今、魔族に対しアクノリッジも思っていた。
「……そうか。わざわざありがとうな、ユニ」
「いえ、これが私《わたくし》の務めですから」
微笑みを浮かべ、ユニが言葉を返した。穏やかな、そして城の女中たちを取り仕切る誇り高き女中頭の顔が、そこにあった。
ユニの言葉に思うところがあったのか、シンクが少女に頭を下げる。
「プロトコルの事なのに、魔族まで巻き込んですまなかったな」
本来であれば、プロトコルの事はプロトコルで解決すべきことだ。ミディの事が好きなジェネラルならともかく、その他の魔族までこの件に絡むことになり、申し訳なく思っていたのだ。
てっきり本心を隠し、差し障りのない回答をするかと思っていたシンクだったが、ユニの反応は違った。
やはり、何がトリガーになったのか分からないが、再び、先ほどの謎の暴走モードに突入する。
「いえいえいえいえ!! 何を仰いますか!! ミディ様のお役に立てるなんて、至極光栄の至り!! 魔界では、ミディ様はジェネラル様を鍛えて下さった恩人として称えられております。その恩人の危機を見過ごすなど、我々の中にそんな魔族の良心を失った低俗な輩はおりません。皆、喜んで賛同いたしましたわ!! それなのにジェネラル様は、我々に頭を下げて……。まあそういうお優しさが、ジェネラル様の良いところであり、我々の誇りであるのですが。ああ……、頭など下げずとも、一つ命令さえ下してくだされば、ジェネラル様を切りつけたあの輩を……、ジェネラル様のお体に傷をつけたあの……あの輩を!! 我が地獄の業火で人生3回分は焼き尽くしましたのに!!」
「おっ…、おう…。なんか……、悪かったな……」
シンクが、完全に引きながら、悪い事を一言も言っていないのに謝った。
後半よく意味が分からなかったが、とりあえず問題なく説得が出来たという事と、目の前の少女が崇高に近い並々ならぬ感情をジェネラルに抱いていることは伝わってきた。
先程までの、誇り高き女中頭の顔はどこに行ったのか。
ユニは言いたい事を言い、スッキリした表情で香茶に口を付けた後、立ち上がった。
一つ礼をし、若干引いたままの二人にお暇を告げる。
「ごちそうさまでした。それでは私《わたくし》はまだやらなければならない事がありますので、ここで失礼させて頂きます」
連絡役以外にも、仕事を課せられているらしい。
「もう行くのか? ここまで長旅だったんだろ? 少し休んで行けば……」
「いえ、そういうわけには参りません。しかしお気遣い感謝いたします、シンク様」
「そうか、足止めして悪かったな。本来なら、目的地まで送るべきなんだけどよ……」
シンクの表情が陰る。こんな夜中に少女一人行かせるなど、危険極まりない。訪問者が少女だと知った今、誰もが思う事だろう。この二人も例外ではない。
しかし、メディアに見張られている可能性を考えると、モジュール家が動くわけにはいかなかった。ただでさえ、情報を得る為に危険な橋を渡っているのだ。
これ以上、危険を抱え込むことは出来なかった。
ユニも、その辺の事情は聞いているらしい。二人を安心させるよう、自分が選ばれた理由を述べる。
「ふふっ、大丈夫ですよ、シンク様。私《わたくし》、魔族の中では随一の移動の速さを誇るのです。だから、お二人の連絡役として選ばれたのですよ」
「移動が速い? 足が速いのか?」
「えー……、足が早いと申しますか……」
どう説明しようかと、ユニは人差し指を唇に当て、視線を上に向けて考えていた。
が、少女はおもむろに、二つくくりしている髪を解く。
髪が肩につくのと同時に、耳の少し上のあたりから、ぴょんっと何かが飛び出した。
小さな一対の蝙蝠羽根に見える。
「……我が血を以て、大空を翔る力のみ覚醒せよ」
ユニの口から、呪文が紡がれる。それと同時に、ユニの茶色の瞳が虹色に変わり、頭から突き出た小さな蝙蝠羽根に変化が起こった。
アクノリッジもシンクも、見覚えがあった。
ユニの頭には、彼女の倍あるかと思われる、翼が生えていたのだ。
数か月前、モジュール家の城を破壊したドラゴンの翼が。
言葉を失う二人を前に、ユニは小さな胸を張って頭の翼を揺らした。
そして先ほどと変わらない笑顔で、自分は大丈夫なのだと重ねて伝える。
「これで空を飛んでまいりますので、ご心配無用です」
「おっ…、おう…。なんか……、まあ、気を付けてな」
「はい! ありがとうございます、アクノリッジ様」
ユニが元気に答えた。が、アクノリッジは完全に引いている。
多分、こちらに来る際も、この翼で飛んできたのだろう。空を飛ぶのだから、危険と遭遇する可能性は、かなり少ない。
万が一飛んでいる姿が見つかったとしても、あの姿だ。
未確認生物ドラゴンと思われ、町でちょっとした噂になるくらいだろう。
翼をしまい、秘密の穴を入るユニの姿を見ながら、
“……魔族って、もしかしてこんなやつらばっかりなのか?”
かつてジェネラルが人間に対して感じた事を、今、魔族に対しアクノリッジも思っていた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。
Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。
そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。
二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。
自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。
仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。
実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。
たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。
そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。
そんなお話。
フィクションです。
名前、団体、関係ありません。
設定はゆるいと思われます。
ハッピーなエンドに向かっております。
12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。
登場人物
アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳
キース=エネロワ;公爵…二十四歳
マリア=エネロワ;キースの娘…五歳
オリビエ=フュルスト;アメリアの実父
ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳
エリザベス;アメリアの継母
ステルベン=ギネリン;王国の王
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる