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第96話 人形
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両足が地についたのを感じると、ジェネラルがゆっくりと目を開けた。
彼の目には、少年が案内された部屋とは違うバルコニー、そして彼が見ていたよりも高い視界の景色が現れた。
どうやら、移動は成功したらしい。
その事実に、ジェネラルはホッと胸を撫で下ろす。
少年は視線を、バルコニーと部屋を仕切る大きな窓に向けた。
部屋からは、カーテンを通して薄く光が漏れている。
ジェネラルは、見つからないように身を小さくすると、カーテンの隙間から部屋の中を覗いた。
心臓が高鳴る。
椅子に座る女性の後ろ姿。
青く、光沢を放つ長い髪。
髪から出た白く形のいい耳たぶには、部屋の光を吸収し放出する美しい黒石が揺れている。
ジェネラルがプレゼントした、黒石のイヤリングが。
「ミディ……」
無意識のうちに唇が、会いたいと思っていた女性の名を呼ぶ。
逸る気持ちを抑え、ジェネラルはそっと部屋の中に続く窓を開いた。
「ミディ……?」
ジェネラルが彼女の名を呼ぶ。
しかし、王女は振り向くどころか微動だにしない。おかしいと思い、再び小さな声で囁く。
「ミディ……、僕だよ、ジェネラルだよ」
しかし、ミディは動かない。
ジェネラルは眉根を寄せた。
振り向く事もせず、侵入者だと叫ぶ事もない。
いきなり誰かが窓から侵入してきたのだ。普通なら誰だって驚いて振り向くだろう。
なのに、名を呼ばれたのにも関わらず、そして名乗ったにも関わらず、ミディはジェネラルに背を向けたままだった。
“……寝てる? それとも、落ち込んでいるのかな……?”
ミディが部屋に閉じこもっているという話は、侍女長フィルから聞いている。
ジェネラルは思い切って、ミディの正面に立った。
その女性は、間違いなくミディだった。
くぼみ一つない、整った白い肌。
紅を付けずとも、薄く色づいた柔らかな唇。
長い髪が一筋流れる、ほっそりとした首筋。
数か月前と変わらぬ深く澄んだ青い瞳が、彼に向けられている。
しかし、その瞳には光がなかった。
瞳を見開き、ジェネラルはその場から一歩引いた。
ミディは、まるで人形のように無表情な顔を、ジェネラルに向けている。
確かに、全てを魅了してしまう程の美しさではあるが、ミディから人間である証――強い生命力や輝きなどが感じられない。
魔王の前にいる王女の姿は。
美しすぎる人形。
そう称するのにふさわしかった。
“こんなの……ミディじゃない……!”
作り物のように感情の篭らない表情を向けるミディを見、ジェネラルは不気味さに総毛立った。
唾を飲み込むとミディの両肩を掴み、強めに揺さぶる。
「ミディ! どうしたの、ミディ!! 一体何があったの!?」
しかし、ミディは全く反応しない。ジェネラルの腕を振りほどく事もなく、彼に話しかける事もなく、ただ光のない瞳で彼を見ている。
膝の上に置かれていたミディの両腕が、力なく下へ落ちた。
その時彼女の両腕の内側に、虫刺されのような赤い斑点が無数についているのを見た。
“これは……一体!?”
人形のように微動だにしないミディ。
白い両腕についた、無数の赤い斑点。
ジェネラルの背中に、冷たい汗が流れた。
彼の目には、少年が案内された部屋とは違うバルコニー、そして彼が見ていたよりも高い視界の景色が現れた。
どうやら、移動は成功したらしい。
その事実に、ジェネラルはホッと胸を撫で下ろす。
少年は視線を、バルコニーと部屋を仕切る大きな窓に向けた。
部屋からは、カーテンを通して薄く光が漏れている。
ジェネラルは、見つからないように身を小さくすると、カーテンの隙間から部屋の中を覗いた。
心臓が高鳴る。
椅子に座る女性の後ろ姿。
青く、光沢を放つ長い髪。
髪から出た白く形のいい耳たぶには、部屋の光を吸収し放出する美しい黒石が揺れている。
ジェネラルがプレゼントした、黒石のイヤリングが。
「ミディ……」
無意識のうちに唇が、会いたいと思っていた女性の名を呼ぶ。
逸る気持ちを抑え、ジェネラルはそっと部屋の中に続く窓を開いた。
「ミディ……?」
ジェネラルが彼女の名を呼ぶ。
しかし、王女は振り向くどころか微動だにしない。おかしいと思い、再び小さな声で囁く。
「ミディ……、僕だよ、ジェネラルだよ」
しかし、ミディは動かない。
ジェネラルは眉根を寄せた。
振り向く事もせず、侵入者だと叫ぶ事もない。
いきなり誰かが窓から侵入してきたのだ。普通なら誰だって驚いて振り向くだろう。
なのに、名を呼ばれたのにも関わらず、そして名乗ったにも関わらず、ミディはジェネラルに背を向けたままだった。
“……寝てる? それとも、落ち込んでいるのかな……?”
ミディが部屋に閉じこもっているという話は、侍女長フィルから聞いている。
ジェネラルは思い切って、ミディの正面に立った。
その女性は、間違いなくミディだった。
くぼみ一つない、整った白い肌。
紅を付けずとも、薄く色づいた柔らかな唇。
長い髪が一筋流れる、ほっそりとした首筋。
数か月前と変わらぬ深く澄んだ青い瞳が、彼に向けられている。
しかし、その瞳には光がなかった。
瞳を見開き、ジェネラルはその場から一歩引いた。
ミディは、まるで人形のように無表情な顔を、ジェネラルに向けている。
確かに、全てを魅了してしまう程の美しさではあるが、ミディから人間である証――強い生命力や輝きなどが感じられない。
魔王の前にいる王女の姿は。
美しすぎる人形。
そう称するのにふさわしかった。
“こんなの……ミディじゃない……!”
作り物のように感情の篭らない表情を向けるミディを見、ジェネラルは不気味さに総毛立った。
唾を飲み込むとミディの両肩を掴み、強めに揺さぶる。
「ミディ! どうしたの、ミディ!! 一体何があったの!?」
しかし、ミディは全く反応しない。ジェネラルの腕を振りほどく事もなく、彼に話しかける事もなく、ただ光のない瞳で彼を見ている。
膝の上に置かれていたミディの両腕が、力なく下へ落ちた。
その時彼女の両腕の内側に、虫刺されのような赤い斑点が無数についているのを見た。
“これは……一体!?”
人形のように微動だにしないミディ。
白い両腕についた、無数の赤い斑点。
ジェネラルの背中に、冷たい汗が流れた。
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