立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第22話 魔法2

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「いい、ミディ? 何故魔王が『魔王』って呼ばれているか知ってる?」

「悪者だから」

「ちっ、違―――――うっ!!」

 問答無用に即答され、ジェネラルは地団駄を踏んで叫んだ。

 ミディの中にある『魔王=悪』の固定観念は、岩のごとく硬い。
 まずはここから崩していく必要がある。上手く行けば、この修行から解放されるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながら、ジェネラルは説明を始めた。

「魔王はね、『魔法世界』を支配する者、つまり『魔法世界の王』という意味で、魔王って言われているんだよ」 

「魔法……世界?」

「そう、この現実世界の裏にあるのが『魔法世界』。魔王は魔界の王だけど、本来は『魔法世界』を統べているんだ。そこは魔力が集まる世界で、僕たち魔族の魔法は、『魔法世界』から魔力を引き出して使っているんだよ」

 ジェネラルの言葉を少しずつ理解して話を進めようと、ミディはゆっくりと彼の言葉の意味を確認しながら、話を続ける。

「つまり人間が魔法を使えないのは、その『魔法世界』から魔力を引き出す方法を知らないから、という事かしら?」

「その通り。それだけじゃなく、魔界とプロトコルという場所も関係してるんだ。プロトコルは、魔界ほど『魔法世界』の影響をあまり受けていない場所。だから引き出す方法を知らない以前に、引き出せる魔力の少なさから、人間は魔法が使えないんじゃないかな」

 自分の知識と想像を組み合わせ、持論を述べるジェネラル。彼の言葉に、さらにミディは疑問を投げかける。 

「じゃあ、魔族がプロトコルに来たら、魔法の効果が半減するの?」

「きっとそうだと思う。全く使えないわけじゃないけれど、魔界ほどの効果は期待出来ないんじゃないかな」

「え? あなたは大丈夫なの?」

 ミディは少し焦った様子でジェネラルに尋ねた。恐らく、プトロコルで魔王の力が存分に発揮できないと困ると思ったのだろう。

 そんな王女の気持ちを知ってか知らずか、ジェネラルは自分の左手にある魔王の証を見ながら平然とした様子で返答した。

「僕はそんなに影響がないかな? 『アディズの瞳』から直接『魔法世界』の魔力を引き出せるから。魔界とかプロトコルとか、いる場所を選ばずに魔法を使う事が出来るよ」

「そうなの。とりあえずあなたたち魔族の魔法は、『魔法世界』から魔力を引き出して生み出されているという事でいいのね?」

「うん、そうだよ!」

 にこっと笑顔を添え、ジェネラルは頷いた。

 いつもはミディに教えられるジェネラルなのだが、今日は逆なので、それがちょっと嬉しい。

 優越感に浸りながら、調子を乗ってもう一つうんちくを披露する。

「ついでにもう一つ、『魔法世界』の他に『精霊世界』っていうのもあるんだよ? 知ってる?」

「『精霊世界』……」
 
 『魔法世界』の時ほどの驚きの反応を見せないミディ。
 彼女がそれ以上何も言わないことから、名前だけは知っていたのかなと想像する。

“そう言えばミディは、魔法を使うときに四大精霊の名を使っているから、四大精霊の事は知ってるよね”

 魔法を使う際のミディの呪文を思い出しながら、ジェネラルはミディの反復に頷いた。

「そう。『精霊世界』って言うのは、世界を司る四大精霊が集う世界の事。『精霊世界』は『魔法世界』とは違い、魔界とプロトコル共に強い影響を与えているんだ。この世界の影響がなくなれば、魔界もプロトコルも崩壊してしまうくらいね」

「つまり、その『精霊世界』が両世界の基盤となっている訳ね?」

「そうそう。そう思うと、『精霊世界』の影響って凄いよね」

 スケールが違うよね、と言いながら、ジェネラルは空を仰いだ。
 ミディも少年につられ、空を見上げたが、すぐに視線を落とす。

「ちょっと話は逸れちゃったけど、魔王は元々『魔法世界の王』であるからそう呼ばれているだけで、別に悪の権化ってわけじゃないんだよ」

 色々な障害を乗り越え、ようやく自分が悪の権化でないと説明する事が出来たジェネラル。少年の表情は、達成感に満ちている。

 今回は一方的な説明ではなく、ちゃんとミディの質問にも答えたりしたので、彼女の耳にもしっかり届いているだろう。

 達成感に光り輝いているジェネラルの気持ちに反し、ミディの口から反論が漏れる。

「魔王が、『魔法世界の王』というのは分かったわ。でも、過去に魔王がプロトコルを侵略したんでしょう? やっぱり悪だと思うのだけれど」

 ジェネラルの言葉は理解しつつも、過去の魔王の悪事を持ち出され、少年は両手を振って慌てて弁明した。
 このままだと、せっかくの説明も水の泡だ。

「いやいやいや!! そんな事をしたのは、魔界でも悪名高い魔王リセとその子孫だけだよ!! 彼らは魔界だけでなくプロトコルも掌握しようと、魔族や死者の大軍を率いて攻めたらしいけど、僕のご先祖様が魔王となってからは、そんな事一度もしてないから!! むしろ今までの事を考え、プロトコルとの交流を控えたくらいだよ!?」 

 魔王リセの話は、エクスから聞いている為、ミディも特に疑問を思わなかったようだ。が、彼が発した単語の一つに、王女の声がきついものへと変わる。

「……死者の大軍? 魔王って、死者も操れるの?!」

 何て非道なと言いたげに、ミディが声を荒げた。

 死者を冒涜する行為は、プロトコルで最も人の道に外れた行為と忌むされている。墓荒しなどしようものなら、国によっては極刑は免れないだろう。

「ええっと……、まあ……。魔王は、『死者の世界』にも強い影響を持っているから……。生き返らせるとかは出来ないけど、『死者の世界』から魂を呼び出し、死体に定着させて使役する事は……出来る……かな……」

 王女の怒り怯えながら、ジェネラルは少し縮こまってぼそぼそと答えた。

 新たな世界の名前が出てきたが、ミディからの質問はなかった。
 名前だけで、理解できたのだろう。

「って事は……、ジェネもそういう事が出来る訳ね?」

 そう言ってジェネラルに近づくミディ。兜から覗く青い瞳から目が逸らせないまま、魔王はゆっくりと頷いた。

 肯定の頷きに、ミディの瞳がすっと細くなる。

「そんな力があるなんて……」

 王女の形の良い唇から、ジェネラルへの痛恨の一撃が発される。

「やっぱりあなた、悪じゃない」

「違うから―――――!!」

 やっぱりそこに戻ってくるかー!と心の中で泣きながら、ジェネラルは絶叫した。

 いつもの通りの反応に、ミディが手をパタパタ振る。

 表情は分からないが、物凄くいい表情をしているのは安易に想像出来た。彼に悪の才能があるのが分かり喜んでいるみたいだ。

「いいじゃない。悪の権化としての才能があるって事なんだから」

「そんな才能、いらないからっ!!」

「まあ才能があるのだから、いつかジェネも、魔王リセのような悪の部分に目覚めると思うの」

「悪の部分なんてないから!! ってか、何でそんなに嬉しそうなんだよ!!」

「うふっ、そうかしら?」

 滅茶苦茶嬉しそうに、ミディはジェネラルの横を通り過ぎていく。

“あの程度の説明で、わかってもらえるわけないじゃないか……。ミディなんだから……”

 敗北し、その場に膝をつく魔王ジェネラル。
 ミディの『魔王=悪』の固定観念は、まだまだ崩せそうになさそうだ。

 まあ、今日もこんな感じで、魔王の受難は続いていくのであった。
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