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第3話 魔王
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四面を本棚に占領された広い部屋。
その中から、素早い動作で書く音と、書類を捲る音が聞こえてくる。
部屋の中心に置かれている机の上に、今にも崩れそうな勢いで書類の束が積み重ねられており、机の主にどれだけ大量の仕事が課せられているかが、一目で分かるだろう。
不意に紙を捲る音が止まった。
「エクス? ごめん、ちょっとそこの赤表紙の本、取ってもらえる?」
男性、いや子供の声だ。
声と共に書類の束の隙間から顔を出したのは、12、3歳ぐらいと思われる黒髪の少年。
闇夜を思わせる黒い瞳が笑顔と共に、本棚の前に立っていた明るい栗毛色の髪の青年に向けられている。
首筋に付くか付かないかぐらいの黒髪が覆う容貌は、非常に整っている。
男性的なかっこよさというよりも、見ていると胸がきゅんとなってしまう可愛らしさの方が強い。
純粋そうに輝く少し大きめの瞳も、可愛らしく感じる理由の一つかもしれない。
屈託のない笑顔を見ると彼の事を知らない者たちでも、思わず笑顔を返さずにはいられない。
しかし、一般的な少年に見える活発さは見られず、変わりに落ち着いた柔らかい雰囲気を纏っている。
エクスと呼ばれた青年は振り返り、口元を緩めて笑みを返すと、
「こちらで宜しいですか、ジェネラル様?」
そう言って、少年に指示された本を差し出した。
切れ長の黒い瞳と、縦ラインを主体に彫られた刺青を両頬に入れている為に、厳しく少し怖いと見られがちの青年だが、今の表情からは全く感じられない。
少年に対する丁寧口調がなければ、まるで弟を見守る兄のようにも見える。
少年は再び笑顔を浮かべると、礼と共に本を受け取った。
ここは魔界。
そして書類に埋もれかけているこの可愛らしい少年こそ、魔界を統べる者。
――魔王ジェネラルであった。
穏やかな時間は、ずっと続くはずだった。
そう……、ずっと続くはずだった。
しかし、平和な日々の終わりは、突然やって来たのである。
* * *
「……えっ?」
突然感じた異様な気配に、ジェネラルは顔を上げた。
魔王の声に、エクスも何事かとペンを走らせる手を止める。
次の瞬間、目の前のドアが粉々に砕け散ったのだ。
「うわ―――――――――—!!」
ジェネラルの絶叫は、それ以上の爆音にかき消されてしまった。
爆発はドアを吹き飛ばしただけでは飽き足らず、衝撃波が室内を襲う。
とっさにジェネラルは両腕で自分の顔を覆い、防御魔法を掛けた。
しばらくして。
「ううっ……、一体何が起こっ……」
自分に降りかかった小さな残骸を振り落とし、自分に問いかけるように呟きながらジェネラルは両腕の組を解いた。
が、見るも無残に破壊された部屋を見、つぶやいた言葉の残りを飲み込んだ。
彼が握っていた為、唯一被害を間逃れた書類の束が、音を立てて手から滑り落ちる。
予想以上に、部屋は酷い有様だ。
四方を囲んでいた本棚は全て倒れ、大量の書物がただの紙切れとなって散らばっている。
部屋の中央に置かれていた机は、衝撃波が直撃したのか、半分が吹き飛び、もう半分が後ろの壁に足を見せて転がっていた。
部屋の壁に小さく飾っていた絵や装飾品などは、皆例外なく吹き飛ばされ、切り裂かれたカーテンがガラスのなくなった窓から吹き込む風で、不規則に揺れている。
この部屋にある物で、被害に遭わなかった物はないだろう。彼が握っていた書類の束を除いて……。
しばらく呆然としていたジェネラルだったが、この部屋にいたのは自分だけでなかった事を思い出した。
「えっ、エクス? ……エクス!? どこにいるの、エクス!!」
慌てて周囲を見回すが、補佐である青年の姿はどこにもない。
おろおろしながらジェネラルは、先ほどまでエクスがいた場所に駆け寄り、再び彼の名前を呼んだ。
しかし、少年の声に答えたのは、エクスの声ではなかった。
「……あら、部屋を間違えたかしら? ここだって聞いたのだけど」
聞いた事のない、透き通った若い女性の声。
予想しなかった声に、ジェネラルは反射的に声がした方向、数分前にはドアという名の物体があった場所に視線を向けた。
その中から、素早い動作で書く音と、書類を捲る音が聞こえてくる。
部屋の中心に置かれている机の上に、今にも崩れそうな勢いで書類の束が積み重ねられており、机の主にどれだけ大量の仕事が課せられているかが、一目で分かるだろう。
不意に紙を捲る音が止まった。
「エクス? ごめん、ちょっとそこの赤表紙の本、取ってもらえる?」
男性、いや子供の声だ。
声と共に書類の束の隙間から顔を出したのは、12、3歳ぐらいと思われる黒髪の少年。
闇夜を思わせる黒い瞳が笑顔と共に、本棚の前に立っていた明るい栗毛色の髪の青年に向けられている。
首筋に付くか付かないかぐらいの黒髪が覆う容貌は、非常に整っている。
男性的なかっこよさというよりも、見ていると胸がきゅんとなってしまう可愛らしさの方が強い。
純粋そうに輝く少し大きめの瞳も、可愛らしく感じる理由の一つかもしれない。
屈託のない笑顔を見ると彼の事を知らない者たちでも、思わず笑顔を返さずにはいられない。
しかし、一般的な少年に見える活発さは見られず、変わりに落ち着いた柔らかい雰囲気を纏っている。
エクスと呼ばれた青年は振り返り、口元を緩めて笑みを返すと、
「こちらで宜しいですか、ジェネラル様?」
そう言って、少年に指示された本を差し出した。
切れ長の黒い瞳と、縦ラインを主体に彫られた刺青を両頬に入れている為に、厳しく少し怖いと見られがちの青年だが、今の表情からは全く感じられない。
少年に対する丁寧口調がなければ、まるで弟を見守る兄のようにも見える。
少年は再び笑顔を浮かべると、礼と共に本を受け取った。
ここは魔界。
そして書類に埋もれかけているこの可愛らしい少年こそ、魔界を統べる者。
――魔王ジェネラルであった。
穏やかな時間は、ずっと続くはずだった。
そう……、ずっと続くはずだった。
しかし、平和な日々の終わりは、突然やって来たのである。
* * *
「……えっ?」
突然感じた異様な気配に、ジェネラルは顔を上げた。
魔王の声に、エクスも何事かとペンを走らせる手を止める。
次の瞬間、目の前のドアが粉々に砕け散ったのだ。
「うわ―――――――――—!!」
ジェネラルの絶叫は、それ以上の爆音にかき消されてしまった。
爆発はドアを吹き飛ばしただけでは飽き足らず、衝撃波が室内を襲う。
とっさにジェネラルは両腕で自分の顔を覆い、防御魔法を掛けた。
しばらくして。
「ううっ……、一体何が起こっ……」
自分に降りかかった小さな残骸を振り落とし、自分に問いかけるように呟きながらジェネラルは両腕の組を解いた。
が、見るも無残に破壊された部屋を見、つぶやいた言葉の残りを飲み込んだ。
彼が握っていた為、唯一被害を間逃れた書類の束が、音を立てて手から滑り落ちる。
予想以上に、部屋は酷い有様だ。
四方を囲んでいた本棚は全て倒れ、大量の書物がただの紙切れとなって散らばっている。
部屋の中央に置かれていた机は、衝撃波が直撃したのか、半分が吹き飛び、もう半分が後ろの壁に足を見せて転がっていた。
部屋の壁に小さく飾っていた絵や装飾品などは、皆例外なく吹き飛ばされ、切り裂かれたカーテンがガラスのなくなった窓から吹き込む風で、不規則に揺れている。
この部屋にある物で、被害に遭わなかった物はないだろう。彼が握っていた書類の束を除いて……。
しばらく呆然としていたジェネラルだったが、この部屋にいたのは自分だけでなかった事を思い出した。
「えっ、エクス? ……エクス!? どこにいるの、エクス!!」
慌てて周囲を見回すが、補佐である青年の姿はどこにもない。
おろおろしながらジェネラルは、先ほどまでエクスがいた場所に駆け寄り、再び彼の名前を呼んだ。
しかし、少年の声に答えたのは、エクスの声ではなかった。
「……あら、部屋を間違えたかしら? ここだって聞いたのだけど」
聞いた事のない、透き通った若い女性の声。
予想しなかった声に、ジェネラルは反射的に声がした方向、数分前にはドアという名の物体があった場所に視線を向けた。
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