1 / 14
第1話 魔王討伐の褒美
しおりを挟む
真っ赤なカーペットが敷かれた豪華な広間――玉座の間。
跪き、頭を垂れる私たちに、皇帝の歓喜溢れた声が降り注いだ。
「ダグ一行よ。よくぞ魔王を倒し、この世界を救ってくれた! まさに、我が帝国の歴史に名を刻む偉業である!」
皇帝の言葉に、私――アウラはますます頭を下げた。
私はお褒めの言葉を頂くほど、大したことはしてない。
だって後方支援職である神官なのだから。
頭を下げつつ、隣にいる人物に視線だけ向ける。
全身フルプレートアーマーの、とても大きな男性――マーヴィ。
彼は盾役で、戦いの際には鎧と同じくらい厳つく大きな盾を持ち、敵を引きつけて攻撃を受ける役目を担ってくれていた。
筋力がなくて鎧も身につけられない紙防御力の私が、魔物に狙われずに済んだのは、彼のお陰だと言っていい。
大きな肉体とフルプレートアーマーという目立つ風貌だけれど、普段の彼は無口で静か。いつも私とダグの会話の聞き役になっていた。
視線を前に向けると、この魔王討伐パーティーのリーダーであるダグの後ろ姿が見えた。
後ろ姿だけなのに、もうそれだけでドキドキする。
ダグは昔から人が持ち得ぬ力を持っていて、故郷の村を襲った魔族をたった一人で殲滅したことがあった。
その噂が帝都に届き、皇帝直々に魔王討伐を依頼されたのだ。
彼の力は過去の勇者様と同じものだとされ、この世界の創造神たる女神に選ばれた勇者と呼ばれるようになった。
ひとくくりにした栗毛色の長い髪が、背中に流れているのが見える。
勇者は色んな人に会うからと、いつも念入りに手入れしていたので、私よりも艶々だ。女の私ですら、元々長かった金髪の手入れが難しくなって早々に肩の辺りで切ったのに、ダグは凄い。
綺麗なのは髪の毛だけじゃなく顔もだ。
もちろんスタイルだっていい。
とにかく、格好良くて素敵な勇者なのだ。
だからか、行く先々の街や村の女性たちの視線を集め、人だかりができることもあったけれど、彼はそんな女性たちを邪険に扱うことは決してない。
格好いいだけでなく紳士。
そして――私の婚約者。
ダグと私は、同じ孤児院で暮らしていた幼馴染みだ。
私は、神聖魔法の才能を見いだされたことで教会で洗礼を受けたの後、神聖魔法を習得して村の神官の一員となった。
私は幼い頃からずっとダグに恋心を抱いていた。
叶うことのない想いだと思っていたけれど、勇者の力を認められて魔王討伐が決まった際、彼から告白されたのだ。
この戦いが終わったら一緒になろうと――
嬉しかった。
だけどそれ以上に不安があった。
魔王討伐なんて危険な旅だ。最悪、命を落とす可能性だってある。
彼の死を想像したら、いてもたってもいられなかった。
幸いにも私は神聖魔法が使える。
神聖魔法は、傷を癒やしたり毒を浄化したり敵の攻撃から守ったりと、補助的な魔法が多いけれど、ダグを守ることはできる。
ならばこの力を、愛する人のために役立てたいと――
こうして私たちは、魔王討伐に旅立った。
途中、盾役の戦士であるマーヴィさんを加え三人パーティーとなった私たちは、三年という長い時間をかけ、とうとう魔王を討伐に成功した。
三年間、本当に大変だったけれど、ようやく彼と結婚して結ばれる。
清い体でなくなれば神聖魔法が使えなくなり、神官として人々の役に立てなくなるけれど、これからは一人の女性として愛する人の役に立ちたい。
彼との未来を想像すると、嬉しくて自然と顔がにやけてしまう。
皇帝がさっきからずっと何か話しているけれど、全然話が耳に入ってこ――
「勇者ダグよ。魔王討伐の褒美として我が娘イリスを与えたい。そしてともに、この帝国を治めるがいい。お主の力で、帝国を更なる発展に導いて貰いたいのだ」
「はい、謹んでお受けいたします。イリス皇女様とともに、帝国の未来をよりよいものにすることをお約束いたします」
……え?
今、何て?
何の話をしていたの?
皇帝の前だということを忘れて顔を上げると、私の婚約者が、皇帝の一人娘であるイリス皇女様と手を取り合っている光景が目に飛び込んできた。
訳が分からなかった。
ダグ、どうして皇女様の手を取ってるの?
そんなに嬉しそうに笑ってるの?
……うそ、だよね?
そこにいるのは、私のはずなのに――
ダグが一瞬だけこちらを見た気がした。
その口角は、まるで私を嘲笑うかのように上を向いていて……
周囲から上がった歓声は、私の耳に入ると全て雑音となって脳内をかき乱す。
体中が寒くて仕方ないのに、額には変な汗が噴き出している。何だか呼吸も荒くなって、空気を吸い込めば吸い込むほど苦しくなっていく。
足元の地面が揺れてる。
いや揺れてるのは、
(私の体……?)
「アウラ!」
マーヴィさんが私の名を叫んだ。
次の瞬間、ぐらりと目の前が歪んだかと思うと、私の意識は闇の中に沈んでしまった。
跪き、頭を垂れる私たちに、皇帝の歓喜溢れた声が降り注いだ。
「ダグ一行よ。よくぞ魔王を倒し、この世界を救ってくれた! まさに、我が帝国の歴史に名を刻む偉業である!」
皇帝の言葉に、私――アウラはますます頭を下げた。
私はお褒めの言葉を頂くほど、大したことはしてない。
だって後方支援職である神官なのだから。
頭を下げつつ、隣にいる人物に視線だけ向ける。
全身フルプレートアーマーの、とても大きな男性――マーヴィ。
彼は盾役で、戦いの際には鎧と同じくらい厳つく大きな盾を持ち、敵を引きつけて攻撃を受ける役目を担ってくれていた。
筋力がなくて鎧も身につけられない紙防御力の私が、魔物に狙われずに済んだのは、彼のお陰だと言っていい。
大きな肉体とフルプレートアーマーという目立つ風貌だけれど、普段の彼は無口で静か。いつも私とダグの会話の聞き役になっていた。
視線を前に向けると、この魔王討伐パーティーのリーダーであるダグの後ろ姿が見えた。
後ろ姿だけなのに、もうそれだけでドキドキする。
ダグは昔から人が持ち得ぬ力を持っていて、故郷の村を襲った魔族をたった一人で殲滅したことがあった。
その噂が帝都に届き、皇帝直々に魔王討伐を依頼されたのだ。
彼の力は過去の勇者様と同じものだとされ、この世界の創造神たる女神に選ばれた勇者と呼ばれるようになった。
ひとくくりにした栗毛色の長い髪が、背中に流れているのが見える。
勇者は色んな人に会うからと、いつも念入りに手入れしていたので、私よりも艶々だ。女の私ですら、元々長かった金髪の手入れが難しくなって早々に肩の辺りで切ったのに、ダグは凄い。
綺麗なのは髪の毛だけじゃなく顔もだ。
もちろんスタイルだっていい。
とにかく、格好良くて素敵な勇者なのだ。
だからか、行く先々の街や村の女性たちの視線を集め、人だかりができることもあったけれど、彼はそんな女性たちを邪険に扱うことは決してない。
格好いいだけでなく紳士。
そして――私の婚約者。
ダグと私は、同じ孤児院で暮らしていた幼馴染みだ。
私は、神聖魔法の才能を見いだされたことで教会で洗礼を受けたの後、神聖魔法を習得して村の神官の一員となった。
私は幼い頃からずっとダグに恋心を抱いていた。
叶うことのない想いだと思っていたけれど、勇者の力を認められて魔王討伐が決まった際、彼から告白されたのだ。
この戦いが終わったら一緒になろうと――
嬉しかった。
だけどそれ以上に不安があった。
魔王討伐なんて危険な旅だ。最悪、命を落とす可能性だってある。
彼の死を想像したら、いてもたってもいられなかった。
幸いにも私は神聖魔法が使える。
神聖魔法は、傷を癒やしたり毒を浄化したり敵の攻撃から守ったりと、補助的な魔法が多いけれど、ダグを守ることはできる。
ならばこの力を、愛する人のために役立てたいと――
こうして私たちは、魔王討伐に旅立った。
途中、盾役の戦士であるマーヴィさんを加え三人パーティーとなった私たちは、三年という長い時間をかけ、とうとう魔王を討伐に成功した。
三年間、本当に大変だったけれど、ようやく彼と結婚して結ばれる。
清い体でなくなれば神聖魔法が使えなくなり、神官として人々の役に立てなくなるけれど、これからは一人の女性として愛する人の役に立ちたい。
彼との未来を想像すると、嬉しくて自然と顔がにやけてしまう。
皇帝がさっきからずっと何か話しているけれど、全然話が耳に入ってこ――
「勇者ダグよ。魔王討伐の褒美として我が娘イリスを与えたい。そしてともに、この帝国を治めるがいい。お主の力で、帝国を更なる発展に導いて貰いたいのだ」
「はい、謹んでお受けいたします。イリス皇女様とともに、帝国の未来をよりよいものにすることをお約束いたします」
……え?
今、何て?
何の話をしていたの?
皇帝の前だということを忘れて顔を上げると、私の婚約者が、皇帝の一人娘であるイリス皇女様と手を取り合っている光景が目に飛び込んできた。
訳が分からなかった。
ダグ、どうして皇女様の手を取ってるの?
そんなに嬉しそうに笑ってるの?
……うそ、だよね?
そこにいるのは、私のはずなのに――
ダグが一瞬だけこちらを見た気がした。
その口角は、まるで私を嘲笑うかのように上を向いていて……
周囲から上がった歓声は、私の耳に入ると全て雑音となって脳内をかき乱す。
体中が寒くて仕方ないのに、額には変な汗が噴き出している。何だか呼吸も荒くなって、空気を吸い込めば吸い込むほど苦しくなっていく。
足元の地面が揺れてる。
いや揺れてるのは、
(私の体……?)
「アウラ!」
マーヴィさんが私の名を叫んだ。
次の瞬間、ぐらりと目の前が歪んだかと思うと、私の意識は闇の中に沈んでしまった。
12
お気に入りに追加
2,210
あなたにおすすめの小説
前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
その破滅エンド、ボツにします!~転生ヒロインはやり直し令嬢をハッピーエンドにしたい~
福留しゅん
恋愛
自分がシナリオを書いた乙女ゲームの世界に転生したメインヒロインはゲーム開始直後に前世を思い出す。一方の悪役令嬢は何度も断罪と破滅を繰り返しては人生をやり直していた。そうして創造主の知識を持つヒロインと強くてニューゲームな悪役令嬢の奇妙な交友が始まる――。
※小説家になろう様にも投稿しています。
クソ雑魚新人ウエイターを調教しよう
十鳥ゆげ
BL
カフェ「ピアニッシモ」の新人アルバイト・大津少年は、どんくさく、これまで様々なミスをしてきた。
一度はアイスコーヒーを常連さんの頭からぶちまけたこともある。
今ようやく言えるようになったのは「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」のみ。
そんな中、常連の柳さん、他ならぬ、大津が頭からアイスコーヒーをぶちまけた常連客がやってくる。
以前大津と柳さんは映画談義で盛り上がったので、二人でオールで映画鑑賞をしようと誘われる。
マスターの許可も取り、「合意の誘拐」として柳さんの部屋について行く大津くんであったが……?
義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました
やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>
フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。
アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。
貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。
そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……
蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。
もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。
「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」
「…………はぁ?」
断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。
義妹はなぜ消えたのか……?
ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?
義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?
そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?
そんなお話となる予定です。
残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……
これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……
多分、期待に添えれる……かも?
※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。
異世界 恋愛短編 シリアス
リコピン
恋愛
※シリアスベースのお話になります。
・異世界が舞台の恋愛短編(6万字未満)集になる予定です。
・章毎に独立したお話になります。各章の始めにあらすじと人物紹介をのせるので、話の傾向等が気になる方はチェックしてから本文を読まれて下さい。
・直接的な行為描写はありませんが、性的な表現(下ネタ、エロネタ)、残虐表現が予告なく入ります。そのためR15指定にしています。
・基本(但し書きが無い限り)ハッピーエンドです。結果的に「ざまぁ」される人がいるので、大団円ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる