4 / 10
第4話 寝る子は育つ
しおりを挟む
木々の間をすり抜けると、森の中に開けた場所があって……そこには黒く強靭な体を持つ魔物の姿があった。
このレベルの魔物にこの距離に近づくまで気づけなかったことを不覚に思う。
鉄のように固そうな鱗と、鋭い牙と爪に、背中には大きな翼――。ドラゴン種に属する魔物だ――。
「ひい……って、安眠様がいつの間にかあんなところに……一体なぜ……」
ようやく俺のことに気づいたヒツジ角の女の子は少し遠くから見ても体が震えていることが分かる。
まさか、ドラゴンがこんなのどかな森の中にいるとは。普通こういう奴はもっと山の奥とか洞窟にいるはずなのに。
しかも見たところ優しい心を持った魔物という感じでもなく、人間を見ると前のめりになって足の爪を地面に食い込ませていた。
俺の方は見ていない。狙いはどうやらヒツジ角の女の子、口からベロを出して舌なめずりもしている。
「逃げろっ!」
俺は体を起こしながらヒツジ角の女の子に言った。
しかし、もう簡単に逃げれられる段階ではない。ドラゴンは重いうなり声をあげて、今にも飛びかからんとしている。背を向ければすぐにでも。
だから俺は戦わなければ……。
間に入って守らなければなるまい。勇者として。身を守る装備も無ければ、武器もない。丸腰の状態で勝てるかは分からないけど、やらなければ食われる――。
体の調子は悪くなくて、やると決めても心は落ち着いていた――。
ヒツジ角の女の子が腰を抜かして、またさっきと同じように尻もちをついても鼓動は乱れない。
ドラゴンが飛び上がれば素早く、間に入って身構えた。
握った拳を大きく開いて、5本の指に力を入れる。やることは1択、魔法での攻撃。剣の無い俺にはこれしかできない。武術の心得はないし、魔法も細かいコントロールは得意ではないけど…………全力ぶっぱなら自信がある。
180度真上に飛んだドラゴンはそこからすぐに急降下。俺は右手を前に出して、ありったけの魔力を込めた。
ほぼゼロ距離、白いレーザー状の魔法がドラゴンにヒットした。勇者と呼ばれるようになるほどの素質を持った者にのみ扱える光の魔力である。
もしこれが効かなければ勝機はない。そう思って全力で撃った……そうなのだけれど、思いの外……でかすぎ……。
「ええ……」
余りの出来事に思わず引いた時の声が漏れる――。
俺の放った光の魔法はドラゴンにヒットした。白いレーザーが地上近くまで来たドラゴンを持ち上げ再び上空へ、そして天高くで爆発。
狙い通りだった……だけど、その規模は想定の数倍どころか数十倍の大きさで……。
文字通り視界は真っ白。直径何メートルぐらいあるかも分からない。見える範囲の空を覆ってしまうほどの魔法だった。まるで天まで届く塔をこの場に召喚したかのように。
雲まで届いたんじゃないかという高さでの爆発の衝撃が地面に降ってきて、周囲の草木の葉が激しく揺れる。首が痛くなるほど見上げた俺の頭の髪もオールバックになってしまった。
開いた口が塞がらない……夢を見ているんじゃないかと思う。これを今、俺がやったのか。あり得ない。俺にはこんな大きさの魔法はできない。それどころかありとあらゆる生物全員不可能だ。
何しろ光が消えれば、本当に空の雲が見渡す限り、吹き飛んで無くなってしまっていた。
「あ……ああ……安眠様……何という……」
後ろには同じように空を見上げて、開いた口が塞がらない様子のヒツジ角の女の子の姿があった。言っては悪いが、人には見せられないレベルの最大級な驚き顔である。
俺は目のやり場やら、次の行動に困ってしまって右に左に目を泳がせた。なんとなくほこりを払いながらそわそわ。
そして……。
「今ってさ……何年?」
少しずれたタイミングで聞きたかったことを聞いた。
このレベルの魔物にこの距離に近づくまで気づけなかったことを不覚に思う。
鉄のように固そうな鱗と、鋭い牙と爪に、背中には大きな翼――。ドラゴン種に属する魔物だ――。
「ひい……って、安眠様がいつの間にかあんなところに……一体なぜ……」
ようやく俺のことに気づいたヒツジ角の女の子は少し遠くから見ても体が震えていることが分かる。
まさか、ドラゴンがこんなのどかな森の中にいるとは。普通こういう奴はもっと山の奥とか洞窟にいるはずなのに。
しかも見たところ優しい心を持った魔物という感じでもなく、人間を見ると前のめりになって足の爪を地面に食い込ませていた。
俺の方は見ていない。狙いはどうやらヒツジ角の女の子、口からベロを出して舌なめずりもしている。
「逃げろっ!」
俺は体を起こしながらヒツジ角の女の子に言った。
しかし、もう簡単に逃げれられる段階ではない。ドラゴンは重いうなり声をあげて、今にも飛びかからんとしている。背を向ければすぐにでも。
だから俺は戦わなければ……。
間に入って守らなければなるまい。勇者として。身を守る装備も無ければ、武器もない。丸腰の状態で勝てるかは分からないけど、やらなければ食われる――。
体の調子は悪くなくて、やると決めても心は落ち着いていた――。
ヒツジ角の女の子が腰を抜かして、またさっきと同じように尻もちをついても鼓動は乱れない。
ドラゴンが飛び上がれば素早く、間に入って身構えた。
握った拳を大きく開いて、5本の指に力を入れる。やることは1択、魔法での攻撃。剣の無い俺にはこれしかできない。武術の心得はないし、魔法も細かいコントロールは得意ではないけど…………全力ぶっぱなら自信がある。
180度真上に飛んだドラゴンはそこからすぐに急降下。俺は右手を前に出して、ありったけの魔力を込めた。
ほぼゼロ距離、白いレーザー状の魔法がドラゴンにヒットした。勇者と呼ばれるようになるほどの素質を持った者にのみ扱える光の魔力である。
もしこれが効かなければ勝機はない。そう思って全力で撃った……そうなのだけれど、思いの外……でかすぎ……。
「ええ……」
余りの出来事に思わず引いた時の声が漏れる――。
俺の放った光の魔法はドラゴンにヒットした。白いレーザーが地上近くまで来たドラゴンを持ち上げ再び上空へ、そして天高くで爆発。
狙い通りだった……だけど、その規模は想定の数倍どころか数十倍の大きさで……。
文字通り視界は真っ白。直径何メートルぐらいあるかも分からない。見える範囲の空を覆ってしまうほどの魔法だった。まるで天まで届く塔をこの場に召喚したかのように。
雲まで届いたんじゃないかという高さでの爆発の衝撃が地面に降ってきて、周囲の草木の葉が激しく揺れる。首が痛くなるほど見上げた俺の頭の髪もオールバックになってしまった。
開いた口が塞がらない……夢を見ているんじゃないかと思う。これを今、俺がやったのか。あり得ない。俺にはこんな大きさの魔法はできない。それどころかありとあらゆる生物全員不可能だ。
何しろ光が消えれば、本当に空の雲が見渡す限り、吹き飛んで無くなってしまっていた。
「あ……ああ……安眠様……何という……」
後ろには同じように空を見上げて、開いた口が塞がらない様子のヒツジ角の女の子の姿があった。言っては悪いが、人には見せられないレベルの最大級な驚き顔である。
俺は目のやり場やら、次の行動に困ってしまって右に左に目を泳がせた。なんとなくほこりを払いながらそわそわ。
そして……。
「今ってさ……何年?」
少しずれたタイミングで聞きたかったことを聞いた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる