上 下
28 / 45
第4章 ケース3:みなみな私のもの

第28話 気になるあの子

しおりを挟む
 あと1日……あとたったの1日。それだけであの奇妙奇天烈なバイトとおさらばできることとなった。

 1週間は続けることを馬場と約束して、それほど気負っていたわけでもないけれど……それなりにどうなることかと不安には思っていた。

 終わりがすぐそこに見えればあっけない。どんな心配事も得てしてそういうものなのかもしれない。思っているよりは難しくないことだったりする。

 実際この前のシフトの仕事内容は簡単だった。怖くも何ともなければ疲れもしない。たったあれだけで時給が高い優良バイトだ。

 凛太は悪夢治療バイト最終日の夕方、余裕な顔でテレビを見ていた。昨日の朝方、バイト帰りに買ってきた甘い菓子パンをかじりながら。

 冷蔵庫にはまだ昨日一緒に買った新発売の大盛り弁当や、ちょっとお高いコンビニスイーツも入っている。金を稼いだ分、多少は贅沢をしたくなるものだ。

 正直なところ、夏休みの間くらいなら続けてみようかという気持ちもある。多少のやりがいや楽な部分も見えたからだ。1週間できたのなら2か月くらい可能かもしれない。

 でも、ここでやめておく。どんな恐怖があるか分からない。ここまでの悪夢よりずっと怖い悪夢も充分に遭遇する可能性がある。

 そして、何より……凛太も悪夢を見る・・・・・・・・ようになった。

 凛太はこの前見た病室の少女に成すすべなく殺される夢を三日連続で見ていた。見る度に驚いて目を覚ます。

 悪夢に驚いて声を出しながら目を覚ますなんて、この前が初めてだったのに短い期間で連続して経験した。そもそもあんな物語の中みたいなリアクションをしたことを自分でも驚いている。

 だけどきっとあんな悪夢も今日のバイトが終われば見なくなる。そんな気がする。気の持ちようによってだったり、日中の過ごし方によってみる夢は変わる。

 このバイトをやめた後、今度やるバイトは昼に働くバイトにしようと思う。

 凛太は少し慣れてきてしまった生活リズムをこなした。夕食を早めに済ませてお風呂に入る。お風呂から出たら、髪をセットして外に出られる格好に着替えた。

 風呂の中で歯磨きも髭剃りもして、体が温まり過ぎないように出るときにはシャワーで水を浴びる。

 本当はこんな時間から外出なんて体が重いけれど、最後ともなればその気は湧いてこなかった。

 今日で終わりということを考えれば、全てがどうということはない。もったいないじゃないけれど……なんとなく他人事のように思いにふけってしまうというか……。

 俺がやめたらあの病院には次に誰がバイトに入るんだろうとか……増川や桜田という同僚は俺にどんな感想を持って二度と会うことはないのだろうかとか……天井を見ながら考えてしまう。

 凛太はそのまま夜空を見ながら考えた。考えながら出勤した。とまと睡眠治療クリニックに向かって。

 まあ、やめるという結論が揺るぐことは全くなかったが……。そこは大前提で、やめた後のことに思いを巡らせた。

 揺るぐことは無かった。無かったはずなのに……。

 病院内に入りバイト準備室のドアを開けただけで、すぐにその決意はゆらいでしまったのだった。

 全く思いもよらない人物がそこにいた。

 春山さん。凛太がいつからかずっと片思いしている同級生のマドンナだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

ナオキと十の心霊部屋

木岡(もくおか)
ホラー
日本のどこかに十の幽霊が住む洋館があった……。 山中にあるその洋館には誰も立ち入ることはなく存在を知る者すらもほとんどいなかったが、大企業の代表で億万長者の男が洋館の存在を知った。 男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。 仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。

【お願い】この『村』を探して下さい

案内人
ホラー
 全ては、とあるネット掲示板の書き込みから始まりました。『この村を探して下さい』。『村』の真相を求めたどり着く先は……? ◇  貴方は今、欲しいものがありますか?  地位、財産、理想の容姿、人望から、愛まで。縁日では何でも手に入ります。  今回は『縁日』の素晴らしさを広めるため、お客様の体験談や、『村』に関連する資料を集めました。心ゆくまでお楽しみ下さい。  

貧困家庭であり、学校でも虐められている少年が、将来有望なアリスお嬢様と脳移植で入れ替わるお話

ユキリス
ホラー
国により実施される政策に、少年は果たして─

幽霊巫女の噂

れく
ホラー
普通の男子高校生だった新條涼佑は、ある日を境に亡霊に付き纏われるようになる。精神的に追い詰められてしまった彼は、隣のクラスの有名人青谷真奈美に頼って、ある都市伝説の儀式を教えてもらった。幽霊の巫女さんが助けてくれるという儀式を行った涼佑は、その日から彼女と怪異の戦いに巻き込まれていく。

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

きらさぎ町

KZ
ホラー
ふと気がつくと知らないところにいて、近くにあった駅の名前は「きさらぎ駅」。 この駅のある「きさらぎ町」という不思議な場所では、繰り返すたびに何か大事なものが失くなっていく。自分が自分であるために必要なものが失われていく。 これは、そんな場所に迷い込んだ彼の物語だ……。

処理中です...