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第4章 ケース3:みなみな私のもの
第24話 凛太の悪夢
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少女が1人……ベッドの上で眠っている……。園児か……小学校低学年くらいの年齢だ……。
少女が眠る部屋は限りなく白い部屋だった。ほとんどの家具が白色で統一されている。
少女が眠るベッドの隣には花瓶が飾ってあった。赤色の花が白い部屋でよく目立っている。
どうやらここは病室らしい……少女のベッドには両脇にパイプの手すりが付いていて、少女自身も病人らしい淡白な服を着ている……。
そして何故かそんな部屋に凛太も立っていた……。この子は誰なんだろう……とても悲しい感情が湧いてくる……。
でも知らない子だから、さっさとこの部屋から出ていこう。自分はこんなところで何をしているんだ。
病室の横開きのドアに手を伸ばしてみたが、開くことができなかった。鍵を開け閉めしてもうんともすんとも言わない。
横開きじゃないのかもしれないと思い、押したり引いたりしてもだめだった……。
そうこうしていると、後方から綺麗な音色が聞こえてきた。ピアノの音だ。だから凛太は振り向いた。
見ると、さっきベッドで寝ていた少女が、さっきまでそこになかったピアノの前に座っていた。
アップライトピアノだった。そのピアノも、少女が座る椅子も真っ白だ。
奏でている曲はアップテンポで、いくつもの音が1人で引いているとは思えないほどの……土砂降りの雨みたいに……凛太の耳に伝わってきていた。
けれど、めちゃくちゃに引いているわけではなく、ちゃんと何かしらの曲になっている。それ相応に少女の5本の指はそれぞれ忙しく動いていた。
狂っているようにも見える。こんな小さな少女が難しいであろう曲を一心不乱に引いている。長い髪で表情は見えない。
そして少女が引く曲はどんどん加速していった。その分、少女も壊れたように手を動かす速度が速くなる――。
曲調もなんだか不気味に変わっていった。不協和音というやつだろうか。聞いていると怖くなってくる。
凛太は少女に近づいて演奏をやめさせようとした……。そうすると少女は突然ピアノの鍵盤を思いきり叩いた――。
突き刺さる音がうるさくて凛太は立ち止まって耳を塞ぐ……。演奏は止まった。少女は手を動かすのをやめた。
「手が足りない……だから、頂戴」
「え」
次の瞬間、凛太の両腕が切り落とされた。誰にも触れられてすらいないのに、少女の言葉だけで。
「私は足が悪いの……だから、頂戴」
次は両足が切り落とされた。少女はピアノに向かったまま、未だに表情が見えない。
「私は外の景色を見たこともない……だから、頂戴」
視界が真っ暗になった……。もう切り落とされた自分の手足も見えない。
そこで、凛太は叫んだ――。
「あああああっ」
目覚めたのは自室のベッドの上だった……。凛太は跳ね起きた勢いのまま、自分の手足がちゃんと付いているか確認する。
良かった……ちゃんとある……さっきのは夢か……。
そう、夢だ。目覚めるとすぐに理解できる。紛れもない悪夢だった。今まで経験したことのないレベルの怖い悪夢だ。
ああ、あのバイトのせいだ。昨日の腐った園児の夢に病院という勤務場所……それのせいであんな夢を見たんだ。病室の少女の悪夢なんてそれ以外あり得ない。
でも、夢で良かった。凛太は特に怒るということもなく、もう一度ベッドに寝転んだ。ついでに充電していた枕元のスマホを取った。
時刻は16時20分……正午からなので、まあまあそれなりに眠っていた。そしてスマホの時計の隣にはメッセージの通知。
「今日暇だったら遊ばない?」
凛太にとって大学での親友と呼べる男友達からの遊びの誘いだった。
心臓の鼓動が早くなっていて落ち着かなかった凛太は、気を紛らわせようとすぐに「いいよ」と返事をした。
少女が眠る部屋は限りなく白い部屋だった。ほとんどの家具が白色で統一されている。
少女が眠るベッドの隣には花瓶が飾ってあった。赤色の花が白い部屋でよく目立っている。
どうやらここは病室らしい……少女のベッドには両脇にパイプの手すりが付いていて、少女自身も病人らしい淡白な服を着ている……。
そして何故かそんな部屋に凛太も立っていた……。この子は誰なんだろう……とても悲しい感情が湧いてくる……。
でも知らない子だから、さっさとこの部屋から出ていこう。自分はこんなところで何をしているんだ。
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横開きじゃないのかもしれないと思い、押したり引いたりしてもだめだった……。
そうこうしていると、後方から綺麗な音色が聞こえてきた。ピアノの音だ。だから凛太は振り向いた。
見ると、さっきベッドで寝ていた少女が、さっきまでそこになかったピアノの前に座っていた。
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奏でている曲はアップテンポで、いくつもの音が1人で引いているとは思えないほどの……土砂降りの雨みたいに……凛太の耳に伝わってきていた。
けれど、めちゃくちゃに引いているわけではなく、ちゃんと何かしらの曲になっている。それ相応に少女の5本の指はそれぞれ忙しく動いていた。
狂っているようにも見える。こんな小さな少女が難しいであろう曲を一心不乱に引いている。長い髪で表情は見えない。
そして少女が引く曲はどんどん加速していった。その分、少女も壊れたように手を動かす速度が速くなる――。
曲調もなんだか不気味に変わっていった。不協和音というやつだろうか。聞いていると怖くなってくる。
凛太は少女に近づいて演奏をやめさせようとした……。そうすると少女は突然ピアノの鍵盤を思いきり叩いた――。
突き刺さる音がうるさくて凛太は立ち止まって耳を塞ぐ……。演奏は止まった。少女は手を動かすのをやめた。
「手が足りない……だから、頂戴」
「え」
次の瞬間、凛太の両腕が切り落とされた。誰にも触れられてすらいないのに、少女の言葉だけで。
「私は足が悪いの……だから、頂戴」
次は両足が切り落とされた。少女はピアノに向かったまま、未だに表情が見えない。
「私は外の景色を見たこともない……だから、頂戴」
視界が真っ暗になった……。もう切り落とされた自分の手足も見えない。
そこで、凛太は叫んだ――。
「あああああっ」
目覚めたのは自室のベッドの上だった……。凛太は跳ね起きた勢いのまま、自分の手足がちゃんと付いているか確認する。
良かった……ちゃんとある……さっきのは夢か……。
そう、夢だ。目覚めるとすぐに理解できる。紛れもない悪夢だった。今まで経験したことのないレベルの怖い悪夢だ。
ああ、あのバイトのせいだ。昨日の腐った園児の夢に病院という勤務場所……それのせいであんな夢を見たんだ。病室の少女の悪夢なんてそれ以外あり得ない。
でも、夢で良かった。凛太は特に怒るということもなく、もう一度ベッドに寝転んだ。ついでに充電していた枕元のスマホを取った。
時刻は16時20分……正午からなので、まあまあそれなりに眠っていた。そしてスマホの時計の隣にはメッセージの通知。
「今日暇だったら遊ばない?」
凛太にとって大学での親友と呼べる男友達からの遊びの誘いだった。
心臓の鼓動が早くなっていて落ち着かなかった凛太は、気を紛らわせようとすぐに「いいよ」と返事をした。
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