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第2章 ケース1:何度も刺し殺す女

第13話 あと一週間

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「ええ。そんな」

「すみません。迷惑だと思うんですけど続けていく自信がないです」

「考え直してよ。普通の子なら初日で何も言わず逃げ帰ったり、泡吹いて意識失ったりするんだから、草部君は本当に才能あるよ」

 こんな仕事に才能があるなんて言われても嬉しくない。凛太は深刻な表情をつづけて、ちゃんとお断りする姿勢に入っていた。

「夢から出る前に……目が覚める前に僕、とんでもない経験してるんですよ。増川さんと桜田さんが飛び降りれば夢から覚めるって聞いてたので飛び降りたんですけえど、目が覚めなかったんですよ」

「嘘?本当に?」

 桜田が目を丸くする。

「じゃあもしかして……そのまま地面にぶつかって痛い思いしたの?」

「はい」

 凛太以外の3人は顔を合わせて、それはまずいといった表情をした。口を開けて、何を言おうか困っている。

「しかも、その後幽霊が追ってきたんですよ。……そういえば悪夢ってちゃんと治療出来てるんですか?幽霊生きてましたけど」

「患者さんは大丈夫だよ……ちゃんと心地よく眠れてる」

 馬場はタブレットを取り出して、光る画面を見ながら言った。

「そうなんですか。とにかく僕はあんな怖い経験二度としたくないんです。今日だけでもたぶん一生忘れられないトラウマですよ」

「いや……もう少し続けてみようよ。というか、続けてくれなきゃ困るんだせめて今週中は」

「え」

「実はバイトの子の内2人が大学の実習だかで今週は入れなくてね。増川君と桜田さんも毎日来てもらうのは大変だろうし」

「聞いてないですよそんなこと。初日でやめてもいいって」

「もうトラウマになったなら、1回も2回も3回も変わらないじゃないか。お願い一週間だけ。まだこの仕事について知れてないことも多いだろうしもう少しやってみようよ」

「ええ。そんな」

 夢から覚める前にあった恐怖体験の話をすれば、やめるのも納得してくれるかと思われたが、なぜだか馬場はより一層凛太を止める構えになった。

「それに疲れてはないだろう。時計を見てごらん」

「これって……」

「そう。草部君も装置の中で寝ていたんだからね。夢の中にいる間はすぐに時間が過ぎるんだ。簡単なバイトだと思わないかい」

 ほんの30分か40分くらいの出来事だと思っていたが時刻は午前2時になっていた。たしかに体の疲れというのは全く無くて、むしろちゃんと寝て休んだ感覚がある。

 桜田がこのバイトは疲れないと言っていたのはこれか。

「一週間後にまたバイトを続けるかやめるか聞くから、その時の答えには何も言わないよ。うちも特殊なバイトだからね。やめるのも仕方ない」

「本当ですか?」

「うん。約束するよ。君は本当に悪夢治療の才能があるから……。起きてすぐにこうして普通に喋れるだけですごいんだよ。だから……ね。僕もサポートするから。次の草部君のシフトの日には何か奢るよ」

 馬場はタブレットを置いて凛太の肩を掴んで言った。その時の馬場は本省むき出しで子供みたいというか、馬場の見た目なら獣みたいな……そんな風に見えた。

 笑っているような、そうでないような。よだれを垂らしそうに口を緩ませて目を輝かせていた。

 それを断りきれず、凛太はとまと睡眠治療クリニックでの第二夜を迎えることになる。
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