上 下
7 / 45
第2章 ケース1:何度も刺し殺す女

第7話 悪夢の始まり

しおりを挟む
 来てしまったものはしょうがないというか、ここまで来たなら……たとえそれが一生のトラウマになろうとも見てみたいという……そんな気持ちも芽生えていた。

 夜に知らない場所に来たものだから変なテンションになってしまっているのか、好奇心も働いている。今を逃せば二度と悪夢の中に入るなんて経験はできないだろう……。


「ここが悪夢治療室。そのまんまの名前だね」

 けれど、やっぱりその部屋まで来ると怖いのほうが大きかった。

 増川が開いた扉の先に見えたのは仰々しいサイズの白い機械があった。人間ドックのような、酸素カプセルのような、デザインや色がなんとなく医療用の装置みたいではある。ちょうど人が1人入れるようなガラスばりの空間が設けられた装置。

 そして、その隣にはご機嫌そうに微笑んでいる院長の馬場。

「いらっしゃい若者たち。草部君もちゃんといるね。増川君一通り説明してあげた?」

「これからです。やりながら説明しようかと」

「そのほうがいいかもね。見たほうが早いし」

 部屋自体も病院っぽいシンプルな部屋だった。馬場は機械の正面に立って、何やらボタンをいじり始める。

 いやいや、ちょっと待ってくれ。もうすぐ始めてしまうのか。まだ心の準備が……。凛太は焦りで気が気ではなかった。

「あのすいませんすいません。本当にこれ大丈夫なんですか。安全なんですよね?死にはしませんよね?」

 凛太が言うと、とまと睡眠治療クリニックの一同は口を揃えて笑った。

「そんな死んだりなんかしないよ。もしそんなに危険なバイトなら俺だってやってないし」

「かわいいですね。大丈夫、私たちが付いているから」

 笑い事じゃないと凛太は思ったが、その笑い声で吹っ切れることはできた。ろくに説明してもない癖に人のことを笑いやがって、やってやろうじゃねえかと。

 大体どこのバイトも新人に厳しすぎる。仕事内容を簡単に説明するけれど、いつもやってる人の感覚で教えられてもついていけないものなのだ。

「じゃあ、今からやることを説明するね」

「はい」

「今からこの何個かある機械のカプセルの中に入って、このヘルメットみたいな装置を頭にかぶって目を閉じます」

 機械の中には増川が言うとおり機械といくつものケーブルで繋がったヘルメットがあった。

「それで、機械のスイッチが入ると俺たちは眠って患者と同じ夢の中に入るのね。今回の場合は、会社員の男性31歳の方の夢の中。これはもうとにかくやったら分かるから。そこには俺と桜田さんもいるから安心して」

「……はい」

「夢の中でやることは入ってから説明するから、とりあえず行こう」

「……はい」

 凛太は諦めて、聞き返すことはしなかった、

「怖かったら目をつぶっててもいいからね。頑張ってみよう」

 凛太の肩を叩いて言うと、桜田はウキウキな仕草で機械の中に入った。こんな女性でも大丈夫なら大したことない可能性も見えてきた。

 続いて増川がその隣の機械へ……凛太も、馬場の手伝いを受けながら機械の中に入る。

 ガラスの内部は室内よりもひんやりと冷たくて、シングルベッドよりも少し狭いくらいのスペースがある。背中を支えるマットも程々に柔らかくて居心地は悪くない。

「おやすみなさ~い」

 置いてあったヘルメットをかぶって、目を閉じると馬場の声がガラス越しに小さく聞こえた……。

 不思議なもので、その声が聞こえると凛太は強烈な眠気に襲われた。何も考えられなくなる……心地の良い、静かな海の中にいるような……深く深く精神が沈んでいく。

 凛太は眠りに落ちた。

 これが想像をはるかに超える恐怖の始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナオキと十の心霊部屋

木岡(もくおか)
ホラー
日本のどこかに十の幽霊が住む洋館があった……。 山中にあるその洋館には誰も立ち入ることはなく存在を知る者すらもほとんどいなかったが、大企業の代表で億万長者の男が洋館の存在を知った。 男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。 仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

儀式

ケン・G
ホラー
会社を辞めた敦史は飲み屋街で偶然出会った先輩、芳樹にとあるアルバイトに誘われる。 「廃墟に一週間住めば20万出すけど」 不安を感じていた敦史だったが投稿ホラービデオの撮影と言われ承諾する。 足音、笑み、疑心、女、そして儀式。

あの子はドッペルゲンガー

しんしあ
ホラー
サクッと読めるホラー短編第一弾

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【短編集】何処かの誰か

るくぶる
ホラー
何処かの誰かにあったかもしれない話 気が向いたら更新 小説初心者なんで拙い文になってますがよろしくお願いします

処理中です...