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第1章 バイト探しから勤務開始

第1話 バイト探し

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 先週から大学3年生の夏休みが始まった。前期の講義が終わると、大学生に与えられる2か月の自由な時間が今年もやってきたのだ。

 この自由な時間を大学生たちは各々の考えで多種多様な過ごし方をする。実家に帰って体と心を休める者もいれば、プールやキャンプ等の夏イベントでひたすらに遊ぶ者もいる。将来の為に免許や資格を取得しようとする者もいるだろうし、何もせずに寝るだけもそれはそれでよし……。

 草部凛太くさべ りんたの場合はバイトに打ち込むのが夏休みの計画だった。

 凛太も好きに遊びたい気持ちはあった。誰しもそうであることだが、若くて自由な時間を自分が思うように使いたい。しかも大学3年生の夏休みとなるともう後がないのだ。遊ばなくて何をする。

 けれど、遊ぶならちまちまとお金のかからない遊びじゃなくて豪勢な遊びがしたいし、旅行に行くなら遠くに長期で行きたい。隣の県じゃなくて北海道や沖縄……なんなら海外旅行にでも。

 そんな考えだった凛太はこの夏をお金を稼ぐことに特化して過ごそうと決めた。

 夏を犠牲にして冬休みや後期の授業中に自主休講で大いに遊んでやることにしたのだ。もともと暑いよりも寒いが好きだし、泳ぐのが苦手だからプールや海も苦手だったので思いついたときはいい考えだと思った。

 午前中、窓を開けて扇風機だけで過ごす一人暮らしのアパートで凛太はスーパーに行ったときにもらった求人雑誌をめくっている。ベッドに寝転んで足をバタつかせながら……。

 昨日の夜からインターネットも使って条件の良い求人を探しているのだがこれといったものは見つかっていなかった。職種は飲食店でもスーパーでも何でも良かったし、夏は金稼ぎに専念するつもりなので深夜バイトもありだと思っていた。

 でも、ちょっと勤務場所が遠かったり忙しそうに見えたら気分が乗らなくなる。スタッフ達が笑顔で映る写真が載った求人も嫌だった。

 条件が良くてもスタッフ写真付きだとなしになる。めんどくさく見えてしまうのだ。同僚たちとこんな風に仲良くならなければいけないのかと、スタッフたちの顔が良くても悪くても気に入らない。

 元から人間関係が出来上がっている場所に一人で入っていきたくないし仲良くなれる気もしない。凛太はただのバイト仲間として黙々と仕事できる職場が良かった。コミュニケーション能力が低いと自分で思っている訳ではないけれど。

 今日中には決めて応募先へ電話してしまうつもりだった凛太はもう一周求人雑誌を見て特に目ぼしいものがなければ、いくつかチェックしている求人の中で最も時給が良いところに決めることにしていた。

 未経験者歓迎……駅から徒歩5分……土日休みOK……様々な謳い文句が書かれた求人を一つずつ時給重視で審査する。そんな時に凛太の目に留まったのは「時給1800円~」という破格の文字だった。

 最後にじっくり見た今回以外は気づけなかった、紙の端っこに小さく書かれているその求人。どうせ特別な免許や資格がいるようなものだと思いながらも詳しく見てみると「未経験者歓迎♪」とも書かれていた。


 ――「睡眠治療サポート 病院雑務」、凛太はバイト先をすぐにそこへ決めた。
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