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第30話 光の魔法の使い方

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 こんなユイネの笑顔は初めて見た。純粋で、尊さを含んだ笑顔。思わず、今の状態を全て忘れて見とれてしまいそうなほど心にくるものがあった。

 同時に有言実行の覚悟が強くなる。言ったことをちゃんと果たさねば、約束を守らなきゃという思いが胸の中で膨らむ――。

 もう2度と評価を落とすような不甲斐ない姿は見せたくない。

「シェードちゃん怖くなかった?もう怒るなんて野蛮ね。怒らなくても私のシェードちゃんは分かってるのに」

 母がまた俺を抱き締めて撫で始める。

「大丈夫だよ母さん」

「本当に?私は絶対あなたを怒ったりしないから。シェードが生まれた日から最大限に優しく育ってるって決めてるから」

「うん。母さんも助けてくれてありがとう」

 自分の服の袖で、俺の涙をしつこいくらい拭ってくる母の腕から離れながら言った。

「何度でも助けるわ。でも、結界の外までは行っちゃダメよ。それよりも問題はあなたよ――」

「分かった。じゃあ、父さん行こう」

 そして、走り出した俺は父の腕を引っ張って素早く部屋を出る。母が父に何か文句を言いたげだったので、捕まる前に父を奪い去った――。

 何もかも忘れてしまいたいけど、何もかも覚えていたい今日の出来事、それが少しでも薄まる前に体を動かしたかった――。


「本当に体は大丈夫なのか?」

 いつもの俺用のトレーニング室に着くと父が言った。

「うん。父さん、よろしくお願いします」

「よし、勇者の息子がこれ以上メソメソすんな。始めるぞ」

「はい!」

「では、これから光の魔法の使い方ってやつを教えていく訳だが……その前に1つ約束してほしいことがある。とっても大事な約束だ」

「うん、何」

「光の魔法の使い方とそのトレーニング方法は絶対の信頼がおける奴にしか教えてはいけない」

 父は先ほど、怒っていたときと同じような雰囲気と声色で言った。

「城の者や学校の友達はもちろん、母さんやユイネにだってできれば言わないほうがいい。かく言う俺も、教えるのは息子であるお前が初めてだ」

「そ、そんなに秘密に?それだけ大事ってこと?」

「うーん、まあ大事っつーか。何というか。とにかく今から教えていくことは誰にも言わないくらいのつもりでいろ。この先、光の魔法が使えるようになって、誰かにやり方を聞かれたとしても、知らない初めからできたと言えばいい。どうだ、約束できるか?」

「うん、できるけど……」

 例文にできるほどの分かりやすい一子相伝。話でしか聞いたことが無いそれを俺が経験すると思わなかったし、当然その理由が気になった。

「何故かは今は知らなくていい。きっと今話をしてもピンとこないからな。とにかく他言しないことを守ってくれ」

「分かった。約束する……」

 理由を聞こうか迷ったけれど、そう言われてしまったので諦める。俺は、強力すぎるから危険なのかと勝手な推測を立てたが、誰にでもできる魔法じゃないということを思い出して、そんな理由ではないとより疑問が深まった。

「必ずだぞ。じゃあ、本題に入る。光の魔法の使い方は…………あ、そういえばさっき1度できたんだったよな。自分でもまぐれと言ってたが、何か気づいたことはあったか?」

「いや、全然。魔物に襲われて……必死にどうにかしようとしたら、望んでないのにできたんだ」

「どうにかってのは具体的にどうだったか、あまり思い出したくないことだと思うが、考えてみろ。自分で気づいたほうがきっと、これからのトレーニングでプラスになる」

「うーん……」

 俺は眉をひそめて、確かにあの激しい魔法の感触が残る手の平を見た。

「確か……自分のできる魔法じゃどうにもできないと思って……それでも他に策なんて無かったから……とにかく、火でも水でもいいから自分の全てを出してやろうと……」

「そう、それだ」

「え、自分の全てを出す?」

「俺は今まで何をするようにお前に教えてきた?」

「基本の5属性全ての性質変化をマスターすること……?」

「そうだ、つまり――」

「5属性全ての属性を……混ぜ合わせる……とか……?」」

「半分正解だな。基本の5属性全ての性質変化を体内で同時に行う。これが光の魔法の使い方だ。混ぜ合わせるのとはちょっと違うんだな」

 言われてみて初めて、あの時の感触はそんな感じだったなと思った。あの不安定で、体内を不規則に流れていく感じの魔力。先ほど俺の体で起こっていたのはそういう現象だったのか。

「誰でもできる訳じゃない5属性への変化をなぜ徹底してやらせたか分かっただろう。光の魔法を帯びた剣を握れて光の魔法の適性がある時点で、お前には5属性全てへの変化が可能だと分かっていたんだ」
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