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第15話 魔法体育

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「誰かお手本を見せてくれる人はいますかー?この岩を動かせるよーっていう人?」

 先生が挙手を求めるその言葉に、誰よりも早く手を挙げる。

 動きやすい服に着替えて、校庭に出れば、先生と――先生の体の半分くらい直径がある大きな石を生徒が囲んで座った。その中で隣の生徒よりも早く、高く手を挙げた。

「じゃあ、ドッスル君やってみようか」

 しかし、今回は他に手を挙げた生徒も複数いた為、選ばれなかった。

「はい!」

「頑張って」

「よーし」

 クラスで最も体が大きい、一般的な節分の鬼みたいな見た目をしている生徒が岩を掴むように触れる。鼻息を荒げて。

 身体能力強化の魔法が正しく使えるようになるための授業だった。おそらく100kg以上はある大岩、当然小学校低学年1人の力では動かせないものを魔法を使って動かせるようになる為に練習する――。そのやり方を教わる――。

 魔法体育ではよくある類のものだ。

「ふーんっ……。重い……」

「ほらほらドッスル君、魔法も使って。力だけでダメよ」

「無理だ……。動かない……」

 しかし、ドッスルの魔法が達者では無かったので、岩はピクリともしなかった。動かそうとしている岩にちょうちょが止まる有り様である。周囲からヒソヒソと笑いが起こった。

 自慢の腕力だけでどうにかしようとしているのだ。それでは動く訳がない。

「うんうん。でも良いチャレンジだったよ。ありがとう。じゃあ、ドッスル君は戻って……他にできるって人はいる?」

 クラスで1番力がありそうなドッスルが失敗したことで、挙がる手は見えなくなった。

 しかし、その中で俺だけは先程と変わらず手を挙げた。

「じゃあ、シェード君にお願いしようか」

「はい先生」

 俺は立ち上がると、胸を張って岩に近づく。

 そして、数秒の間集中させてもらって、魔力を望むように性質変化させれば……。

 目の前にある大岩を動かすどころか、持ち上げて見せてやった――。

「おおおお……!」

「すっげえ……」

 周りの生徒と先生から感嘆の声があがる。いや、驚愕のほうが強いだろうか。

 気持ちいいい――。なんて、気持ちいいのだ、この瞬間は――。

 俺は周りから見えないように抱える岩へ、顔を近づけながら笑った――。

 転生してから7年――学校に通い始めてからというもの、俺はようやく無双欲を満たすことができるようになっていた。もう満たしに満たしていっている。人ができないことを、自分だけができるというのはこんなにも気持ちいいのかと驚く日々である。

 クラスメイト全員から集まる視線が、突き刺さるように肌で感じられる。「すごい」だとか「かっこいい」だとかがそこにこもっていることがよく分かって、いつも鳥肌が立った。目立ち、憧れの的になることは震えるほどに嬉しいのだ。

「いえいえ、こんなの余裕ですよ。もっと大きいのだって片手で持てます」

 そう言って岩を下ろすと、重い音と共に砂埃が舞った……。

 ――授業中、俺はもう課題をクリアしているので、できない子に教えてあげることも積極的に行った。

「うーん……どんだけ力を入れてもダメだ……」

「違う違う、力は抜くんだよ。それが性質変化の魔法のコツ。最初は力を抜いて、最後に力を入れんの。力を入れるのは最後の一瞬だけでいい」

「どういうこと?」

「えっとね。イメージは魔力を粘土みたいなものだと思って……力を抜けばそれがどんどん柔らかくなってくる……柔らかい魔力のほうが変化させやすいんだ……だから、さらに体内でその魔力をこねて柔らかく……」

 そっくりそのまま昔父から教わった性質変化のコツだった。感覚派の父からのこのアドバイスで、俺の性質変化は飛躍的に伸びた。

「ほら、俺の魔力に触れてみて、君のより柔らかいでしょ」

「きゃっ……でも、本当だ。柔らかい」

 俺はクラスメイトの女子の手を握って、自分の魔力を流し込んだ。

「私にも教えて!」

「私も私も!どうやるの?」

 俺にやり方を教えてもらいたいクラスメイトは次々にやってきた。特に女の子が多い。というか、こういう時に寄ってくるのはほぼ全員女の子。

 俺は周囲を取り囲むその女の子達1人1人に魔力を流し込んでいった。手を握って順々に。

「うわあ……すっごい……」

「私のと全然違う」

「これがシェード君の魔力……」

 ただクラスで1番の成績なだけでなく、俺は女の子にやたらモテていた。まあ、勉強も運動も魔法もクラスで1番、その上王族のお金持ちなら当然と言えば当然だけど。

 俺は元からロリコンではないので、こうやって小さな女の子に囲まれる状況――それに関しては別にそこまで喜ばしい事では無かった。

 魔族の女の子はやたらませている子がいて、7歳ながら告白をされた経験もあるが、ちゃんと断ったくらいだ。

 けれど、単純にチヤホヤされるのは気分が良い。黄色い声援を向けられと嬉しい。

 この子たちが大人になった時を考えて、何かしらフラグを立てておくのも悪くないし。

「よーし、じゃあ皆俺が言う通りにやってみて――」

 そんな状況もあって7歳の俺は少し調子に乗っていた――。乗ってしまっていたのだ――。

「けっ。何だよあんな奴……」

「うっとうしいよなあいつ……」

 校庭の端っこのほうで数人の男子からのそんな声があることも知らずに……。

 小さな火種も、やがて大火事に……。俺は調子に乗ってしまっていたせいでこの年……とんでもないことになってしまう……。
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