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第8話 使命と目標
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強くなりたい……しかも、この世で一番だなんて……。全く思っていなかったことだ。
王様と目が合ってから何かがおかしい……この王様に何らかの力で言わされたのか……。
否、自分自身の血に言わされたのだ――。
「はっはっはっはっ――」
俺の言葉を聞いた王様は口を大きく開けて笑った。上に立つ者らしい力強い笑い声だった。
「そうか。強くなりたいかっ。ああ、なってもらわねば困る……」
強くなりたいと言った瞬間には……なりたいなりたい、どうしてもなりたいという強い欲が胸にあった。頭には無かったはずの言葉なのに、我慢できずに放ったものだったという感覚がある。言い終わった後には、スッキリとした気持ち良さも感じた。
けれど今は、急速に熱が引いていっている。
これが王様の言っていた、生まれた時から持っている使命というものなのだろうか。左胸を手で抑えながら思う。
「この世の誰よりも……この私よりも……強く……それも良かろう。お前には次の王様になってもらうつもりだからな」
「え、僕が?」
「何を驚く。お前は私の娘の息子だろ。ロール……私にはあれしか子供はおらんが、あれは女だし王になる気もないらしい。ドライトも力は充分であるが、元々は余所者、闇の力を使えない者に冥府の王は務まらん。よって私が老いた時、次の王はお前だシェード」
「そう……なんですか……」
「どうした?不満か?王にならせてやろうというのに……」
「いえ、まあ……」
「不満があるなら言ってみよ」
「その……他にもやりたいことがあるのですが……」
「やりたいこと?そうか他にもお前の中に使命があるのか、その話はまだ終わっていなかったな」
つい最近は中界という世界に惹かれている……。さっきは何故か別のことを言ってしまったけれど、やりたいことと言えばそこへ行きたい。
この冥府で王様になるのであれば、当然その望みは叶わないであろう。俺はそれが嫌だった。けれど、「中界に行きたい」などとこの場で言ったら一体どういう反応をされるのだろう……。
まだこの王様がどういう性格かよく把握できていないけれど、最悪ブチ切れられて死刑とかも有り得る気がする……。それはまずい……。
でも今言っておかなければならない気がする。この世界で精一杯生きると決めたんだろ。
だから、言った。
「中界に行ってみたいです……」
「中界……?」
決意したものの、顔と声を強張らせながらの発言だった。それでも俺は言ったのだ。
王様は笑っていた顔をきょとんとさせた。次にどうするのか、俺は王様から見えないところで拳を強く握る――。
「あーはっはっはっ。なるほど、中界から攻め落として、我が物にしたいということか」
いや、違うんですけど――。
俺は心の中でツッコむ。そういう解釈をされるのか、全くそうなるとは思っていなかったぞ。
「いや、あの……」
「はっはっはっはっはっはっ」
「ちょっと、いいですか」
「はっはっはっはっはっはっ」
王様は何故かその時、会ってから最も嬉しそうに……長く笑った。こっちの声が届かなくなるほど。そして……。
「良いだろう。行ってこい、中界に」
笑いが収まればこう言った。
「いいんですか!?」
「ああ、好きにしろ。お前には元々上の世界へ行ってもらうつもりだったからな。だが……幼いお前ではまだ力不足であろう。中界のレベルはそれほど低くないぞ」
細かいことは置いといて、とりあえずその世界へ行く許可がもらえた俺は、先ほどの王様のように周りの声が聞こえなくなった。
いつかは行ってみたいとこの間思ったばかりなのに、もういけることが確定してしまった。
嬉しい――頭の中にある中界のイメージがより鮮明に輝いていく――。
「――おい、聞いているのか?」
「す、すみません!」
「お前が中界に行くのであれば、まずここで力を付けてからにしろ。そうだな……具体的には、我が国にある学校の初等部くらいは卒業してからにしたほうが良いであろう」
「はい!」
「今からはちょうど10年後くらいか……それまで鍛錬に励むがよい」
「はい!」
今日1番元気よく返事をする。気付けば息苦しさも感じなくなっていた。
「では、もう下がって良いぞ」
「はい……ありがとうございました……あの……」
「どうした?」
「お名前は……?」
「ロールめ、あいつ私の名すら教えていないのか――」
「すみません……」
「余の名はゾーグレウス・ブルートーン、冥府の歴史上最強の王なり――」
――廊下を走って部屋に戻った俺は、すぐにまた本を開いた。待っていた母も追い越してとにかく早く、それほどに逸る気持ちを抑えられなかった。
栞代わりに文字一覧表を挟んでいたページ、そこにある文字を俺はもう知っていた。
「冒険者」という夢の言葉、あると分かって――そこに行けることも分かって――強くなれる才能があるのなら――もう、なるしかあるまい――。
決めた、俺は冒険者になる。それも最強の冒険者だ。せっかく挑戦権があるなら、目指すは頂上。
強くなって、その力と共に、世界を自由に旅してみたい。世界の端から端まで味わい尽くしたい。
とりあえず中界へ行けるのであれば、どんなことをしてでもなってみせる。
もしかしたら、行く方法は無いかもしれない……行きたいと言ったら親に反対されるかもしれない……。そんな風にも考えていたけれど、「行ってこい」と言われた。
この道に障害があるなら全て跳ね除けてやる……。どんなに辛い道のりだって構わない……。
王様と目が合ってから何かがおかしい……この王様に何らかの力で言わされたのか……。
否、自分自身の血に言わされたのだ――。
「はっはっはっはっ――」
俺の言葉を聞いた王様は口を大きく開けて笑った。上に立つ者らしい力強い笑い声だった。
「そうか。強くなりたいかっ。ああ、なってもらわねば困る……」
強くなりたいと言った瞬間には……なりたいなりたい、どうしてもなりたいという強い欲が胸にあった。頭には無かったはずの言葉なのに、我慢できずに放ったものだったという感覚がある。言い終わった後には、スッキリとした気持ち良さも感じた。
けれど今は、急速に熱が引いていっている。
これが王様の言っていた、生まれた時から持っている使命というものなのだろうか。左胸を手で抑えながら思う。
「この世の誰よりも……この私よりも……強く……それも良かろう。お前には次の王様になってもらうつもりだからな」
「え、僕が?」
「何を驚く。お前は私の娘の息子だろ。ロール……私にはあれしか子供はおらんが、あれは女だし王になる気もないらしい。ドライトも力は充分であるが、元々は余所者、闇の力を使えない者に冥府の王は務まらん。よって私が老いた時、次の王はお前だシェード」
「そう……なんですか……」
「どうした?不満か?王にならせてやろうというのに……」
「いえ、まあ……」
「不満があるなら言ってみよ」
「その……他にもやりたいことがあるのですが……」
「やりたいこと?そうか他にもお前の中に使命があるのか、その話はまだ終わっていなかったな」
つい最近は中界という世界に惹かれている……。さっきは何故か別のことを言ってしまったけれど、やりたいことと言えばそこへ行きたい。
この冥府で王様になるのであれば、当然その望みは叶わないであろう。俺はそれが嫌だった。けれど、「中界に行きたい」などとこの場で言ったら一体どういう反応をされるのだろう……。
まだこの王様がどういう性格かよく把握できていないけれど、最悪ブチ切れられて死刑とかも有り得る気がする……。それはまずい……。
でも今言っておかなければならない気がする。この世界で精一杯生きると決めたんだろ。
だから、言った。
「中界に行ってみたいです……」
「中界……?」
決意したものの、顔と声を強張らせながらの発言だった。それでも俺は言ったのだ。
王様は笑っていた顔をきょとんとさせた。次にどうするのか、俺は王様から見えないところで拳を強く握る――。
「あーはっはっはっ。なるほど、中界から攻め落として、我が物にしたいということか」
いや、違うんですけど――。
俺は心の中でツッコむ。そういう解釈をされるのか、全くそうなるとは思っていなかったぞ。
「いや、あの……」
「はっはっはっはっはっはっ」
「ちょっと、いいですか」
「はっはっはっはっはっはっ」
王様は何故かその時、会ってから最も嬉しそうに……長く笑った。こっちの声が届かなくなるほど。そして……。
「良いだろう。行ってこい、中界に」
笑いが収まればこう言った。
「いいんですか!?」
「ああ、好きにしろ。お前には元々上の世界へ行ってもらうつもりだったからな。だが……幼いお前ではまだ力不足であろう。中界のレベルはそれほど低くないぞ」
細かいことは置いといて、とりあえずその世界へ行く許可がもらえた俺は、先ほどの王様のように周りの声が聞こえなくなった。
いつかは行ってみたいとこの間思ったばかりなのに、もういけることが確定してしまった。
嬉しい――頭の中にある中界のイメージがより鮮明に輝いていく――。
「――おい、聞いているのか?」
「す、すみません!」
「お前が中界に行くのであれば、まずここで力を付けてからにしろ。そうだな……具体的には、我が国にある学校の初等部くらいは卒業してからにしたほうが良いであろう」
「はい!」
「今からはちょうど10年後くらいか……それまで鍛錬に励むがよい」
「はい!」
今日1番元気よく返事をする。気付けば息苦しさも感じなくなっていた。
「では、もう下がって良いぞ」
「はい……ありがとうございました……あの……」
「どうした?」
「お名前は……?」
「ロールめ、あいつ私の名すら教えていないのか――」
「すみません……」
「余の名はゾーグレウス・ブルートーン、冥府の歴史上最強の王なり――」
――廊下を走って部屋に戻った俺は、すぐにまた本を開いた。待っていた母も追い越してとにかく早く、それほどに逸る気持ちを抑えられなかった。
栞代わりに文字一覧表を挟んでいたページ、そこにある文字を俺はもう知っていた。
「冒険者」という夢の言葉、あると分かって――そこに行けることも分かって――強くなれる才能があるのなら――もう、なるしかあるまい――。
決めた、俺は冒険者になる。それも最強の冒険者だ。せっかく挑戦権があるなら、目指すは頂上。
強くなって、その力と共に、世界を自由に旅してみたい。世界の端から端まで味わい尽くしたい。
とりあえず中界へ行けるのであれば、どんなことをしてでもなってみせる。
もしかしたら、行く方法は無いかもしれない……行きたいと言ったら親に反対されるかもしれない……。そんな風にも考えていたけれど、「行ってこい」と言われた。
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